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しおりを挟むそしてすぐ、ググッと身体に信じられない程の重力が掛かった。
二つ折りで上半身が逆さ釣りにされている状態が怖くて目を瞑ると、潰された肺から空気が押し出されて口から変な音が漏れた。
一拍置いて身体がフワリと浮く。
恐る恐る目を見開くと、アヤコさんは僕を二つ折りにして両脚抱えたまま空を、地面から10m程上空を軽々と飛んでいた。
遠い地上が眼下に見え、僕は思わず悲鳴が漏れそうになるのを噛み殺してアヤコさんの背中にしがみつく。
と、さっきまで僕達が立っていた場所には数十本もの雷が轟音を立てて降り注いでいた。
そのままアヤコさんは高速で空中を数歩走り、更に上空目がけて白炎を纏わせた剣を振り上げた。
光を放つ斬撃が何かにぶつかって砕け散る。
「グギャアァァアアァッ!!」
凄まじい声が空から降り注いできて顔を上げると、バケモノが大きな翼をバタつかせて鳴き喚いていた。
猛禽類を思わせる恐ろしい顔と鋭い爪を持つ前脚、逞しい獅子の体躯。
これってたぶん、グリフィンってヤツだ!
しかも1匹だけじゃない。3匹もいる。
アヤコさんは見えない速さで剣を鞘に収めると、左手をキツく握り締めた。
手を開いた瞬間、100近い氷の槍が僕達の周りを取り囲むようにして浮かんでいた。
アヤコさんはグリフィン達を睨みつけて左手を振り上げる。
氷の槍は光の尾を引きながら上空へと駆け上がり、2匹のグリフォンの翼を撃ち抜くと、軌道を変えて残る1匹の翼も撃ち抜いて砕けた。
「「「グギャアァアアァァンッ!!」」」
空中で上手くホバリングが出来なくなった3匹は徐々に高度を下げながら、怒り狂って全身に炎を纏い始めた。
グリフィン達の瞳の色が変わる。
恐ろしい程の威圧を感じて、僕はカタカタと鳴る奥歯を噛み締める事しか出来ないでいた。
そのまま重力に従い、落ちるように着地したアヤコさんは天に向けて掌を翳す。
淡い光を放つ半球の壁が幾重も僕達を覆うと、50cmはある雷球が3匹のグリフィンから雨アラレと降り注ぎ、光の壁をビリビリと震わせた。
外側の壁から1枚、2枚と壊されていくのが分かる。
3対1での防戦だなんて、僕でも分かる、分が悪過ぎだ。
でも僕が居なければ、足手纏いの僕さえ居なければきっと、アヤコさんなら余裕で倒せる相手に違いない。
恐ろしいけれど、僕は、僕のせいで誰かが犠牲になったり傷付いたりする事には、もう耐えられないから。本当に耐えられないから。
だから、
僕はアヤコさんにしがみ付いていた手から力を抜いた。
ここなら、すぐ楽になれるに違いない。
ダンプカーに撥ねられた時には意図せず1度叶った望み。
今ならまた、怖いと感じた瞬間すぐに、きっと…
グリフィン達が羽ばたく度に、穴だらけの翼からは何枚も何枚も羽根が抜け落ちて、その美しい羽根が辺り一面に舞っていた。
ヒラヒラ、ヒラヒラ。
こんな時だっていうのに、あまりにも美しくて思わず見惚れてしまいながら、僕は降ろして欲しい、とアヤコさんの背中を強く押して身体を起こした。
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