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聖銀の槍(1)
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「その村ならここから、もう40マイリはありますよ、騎士様。」
マルクは、行商人になってもう二十年になる。
二十歳を過ぎる前から背負い荷物で行商を始めた。
今ではとびきり裕福と言う訳ではないが、頑丈な馬車と、老いた分だけ落ち着いたロバ、そして遠い親戚から預かった14才の丁稚のフランツと旅をするようになった、経験豊かな商人である。
その為、相手が馬上の騎士といえども、マルクの陰で緊張を隠せないフランツと違い、必要もなく慌てたりはしない。
「急げば今日中に着けるかな?」
若いが穏やかな、品の良い騎士が重ねて問う。
「道は悪くはございませんが、急げば馬に負担となりましょう。慌てられずに途中、一泊されてはいかがでしょうか?少し大周りになりますが東に宿場もございます。」
マルクは、行商人になってもう二十年になる。
その為、相手が穏やかで、品の良い騎士であっても見損なう事はしない。相手の騎士は2騎。そのうち一人が質問し、もう一人が口をはさむ様な事はしない。所属を示す騎士服の略式隊章は、旅装のマントで見えないが、どちらの体躯も無駄が無く、見事に鍛え抜かれていたし、馬鞍にくくられる短槍も、腰の剣も、華美とは全く無縁だが、実戦的で見事な造りをしていた。
その気になればマルクとフランツの首と胴体を、2振りでさよならさせる事は簡単そうだ。もしかしたら一振りかも知れない。
そうでなくても先の魔神大戦を生き抜いた、この国の騎士が脆弱な訳はないのだ。もっとも最悪と名高い最後の魔神を葬ったのは、万物の神アルフォルズの加護を受けた勇者とその仲間達との話だが…。
「ありがとう、でも至急の用でね。道が悪くないのなら何とか頑張ってみるよ。」
朗らかな騎士の答えに、マルクが無言で頷き、同意を示す。
「オイゲン!!本隊に伝令!!この道を直進し今夜中の到着を目指す!!全隊、遅れるな!!」
若い騎士の雰囲気が豹変し、軍人のそれになる。命令に答えて伝令に走り出す、年嵩の騎士の操馬の技術は素人のマルクが見ても見事なものだ。
「では、商人どの、良い旅を。」
伝令役の騎士が走り出して数瞬、目的の村へと続く街道で仲間の騎士を待ちうけるべくその騎士は、さわやかな笑顔を残して去って行った。
二人の騎士と別れて僅か10ミヌーテ後、街道を進むマルクの馬車のすぐ脇を、駆け抜けて行く騎士が35騎。
この国では32騎が騎士中隊の定員で、そこに騎士隊長、副長、隊長付き騎士が加わる。徴兵からなる歩兵中隊に比べて兵数は少ないが技量は抜群で、戦力としては比べ物にならない。何しろ嘘か本当か、騎士と言えば人間と思えないような逸話が、そこかしこで語られているのだ。
その騎士たちが一中隊。
マルクは、行商人になってもう20年になる。
そんな、マルクでも予想できない事もある。
マルクが思うに自分より、10は若いあの騎士は、どうやら騎士中隊をまとめ上げる騎士隊長であったようだ。
そして旅路を急ぐ騎士たちのマントの隙間からのぞく、騎士服に飾られた略式隊章は赤に銀。
マルクは、行商人になってもう二十年になる。
二十歳を過ぎる前から背負い荷物で行商を始めた。
今ではとびきり裕福と言う訳ではないが、頑丈な馬車と、老いた分だけ落ち着いたロバ、そして遠い親戚から預かった14才の丁稚のフランツと旅をするようになった、経験豊かな商人である。
その為、相手が馬上の騎士といえども、マルクの陰で緊張を隠せないフランツと違い、必要もなく慌てたりはしない。
「急げば今日中に着けるかな?」
若いが穏やかな、品の良い騎士が重ねて問う。
「道は悪くはございませんが、急げば馬に負担となりましょう。慌てられずに途中、一泊されてはいかがでしょうか?少し大周りになりますが東に宿場もございます。」
マルクは、行商人になってもう二十年になる。
その為、相手が穏やかで、品の良い騎士であっても見損なう事はしない。相手の騎士は2騎。そのうち一人が質問し、もう一人が口をはさむ様な事はしない。所属を示す騎士服の略式隊章は、旅装のマントで見えないが、どちらの体躯も無駄が無く、見事に鍛え抜かれていたし、馬鞍にくくられる短槍も、腰の剣も、華美とは全く無縁だが、実戦的で見事な造りをしていた。
その気になればマルクとフランツの首と胴体を、2振りでさよならさせる事は簡単そうだ。もしかしたら一振りかも知れない。
そうでなくても先の魔神大戦を生き抜いた、この国の騎士が脆弱な訳はないのだ。もっとも最悪と名高い最後の魔神を葬ったのは、万物の神アルフォルズの加護を受けた勇者とその仲間達との話だが…。
「ありがとう、でも至急の用でね。道が悪くないのなら何とか頑張ってみるよ。」
朗らかな騎士の答えに、マルクが無言で頷き、同意を示す。
「オイゲン!!本隊に伝令!!この道を直進し今夜中の到着を目指す!!全隊、遅れるな!!」
若い騎士の雰囲気が豹変し、軍人のそれになる。命令に答えて伝令に走り出す、年嵩の騎士の操馬の技術は素人のマルクが見ても見事なものだ。
「では、商人どの、良い旅を。」
伝令役の騎士が走り出して数瞬、目的の村へと続く街道で仲間の騎士を待ちうけるべくその騎士は、さわやかな笑顔を残して去って行った。
二人の騎士と別れて僅か10ミヌーテ後、街道を進むマルクの馬車のすぐ脇を、駆け抜けて行く騎士が35騎。
この国では32騎が騎士中隊の定員で、そこに騎士隊長、副長、隊長付き騎士が加わる。徴兵からなる歩兵中隊に比べて兵数は少ないが技量は抜群で、戦力としては比べ物にならない。何しろ嘘か本当か、騎士と言えば人間と思えないような逸話が、そこかしこで語られているのだ。
その騎士たちが一中隊。
マルクは、行商人になってもう20年になる。
そんな、マルクでも予想できない事もある。
マルクが思うに自分より、10は若いあの騎士は、どうやら騎士中隊をまとめ上げる騎士隊長であったようだ。
そして旅路を急ぐ騎士たちのマントの隙間からのぞく、騎士服に飾られた略式隊章は赤に銀。
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