BLを教えてくれ腐男子先生!

響藍

文字の大きさ
2 / 21

第二話『早過ぎる再会』

しおりを挟む
 日も暮れ、寮の自室に帰ってきた秀和は買ってきた本をマジマジと見つめていた。うーん、それにしてもなんで半裸なんだ?半裸にしなきゃいけない呪いにでもかかってるのか?裏表紙に目を移すとあらすじが載っていたので読んでみることにした。
「えーっと、何々?水泳部?あー、だから半裸なのか。ふむふむ、幼なじみねぇ。......水着の表紙じゃなくてホントによかった、うん。」
 表紙が半裸であることに納得した秀和は、少しこの本に興味が出てきた。面白いって言ってたしな。
「そういや、名前聞くの忘れてたな。」
まあ、次会った時に聞けばいっか。
 秀和はよく考えないまま漫画のビニールを剥がし、ゴクリと唾を飲んだ。ゆっくりと深呼吸し、よしっ、と一声出した秀和は漫画の表紙をそっと開いた。


 衝撃的だった。正直、どうせ共感出来ず途中で飽きるだろうと思っていたが、思った以上に楽しめた。
 主人公は男である自分が男を好きになってしまったという戸惑いと、想いを伝えたら今までの関係が崩れてしまうのでは無いかという不安と、もしかしたら受け止めてくれるかもしれないという期待が入り混じって、ずっと相手のことでいっぱいになって何も出来なくなっていた。
 秀和は、自分が男を好きになるなんてことはないだろうけど、なったとしたらどうするだろう?言うのか?言えるのか?などと考えながら読み進める。
 『自分は男だから、嫉妬する権利はない』だとか、『どうせ叶わぬ恋だから、せめて側にいたいのに、側にいると辛くて仕方がない』だとか、ついついネガティブ思考になってしまう主人公を、秀和はいつのまにか応援していた。相手の無神経な言動に苛立ったのには自分でも驚いた。
 主人公の恋が実るように協力してくれていた女友達が、主人公のことが好きだったことが最後に描かれていたので、女友達に注目してもう一回読んでみると、主人公が男に恋をしているのに気付いたのは主人公のことが好きで目で追ってたからなのか!とか、ここの目線ちゃんと主人公のこと見てる!とか、そういえばここなんでちょっと悲しそうなのかわかんなかったんだよそういうことか!とか色々発見があってとても面白かった。
 今まで食わず嫌いみたいなことしてたけど、結構有意義な時間を過ごすことが出来た。原田さん、俺もBL好きになれるかもです。


 秀和が余韻に浸りながら表紙を眺めていると、勢いよく隆則たかのりが部屋に入ってきた。
「ヒデちゃん飯行こ!」
「おわぁ!?」
秀和は急いで漫画を背中に回す。すっかり飯の時間になっていたことに気づかなかった。これは彼がたまたまタイミング悪く訪ねてきたという訳ではなく、秀和が漫画に夢中になりすぎただけだ。なぜなら秀和と隆則はいつも一緒に寮食堂へと向かっているのだ。
 隆則は首を傾げ不思議そうに秀和を見つめるが、少しして何かに納得したようで、ニヤリと笑った。
「ごめんごめん、邪魔したわ。それではごゆっくり~!5分後にまた来るよ。」
そう言ってドアをゆっくり閉める隆則を秀和は必死に止める。
「まてまて!誤解だ!お前が想像してるのとは違う!」
ドアを再び開いた隆則は、一歩一歩を強調しながらゆっくりと秀和に近づいていく。
「ほほーん?じゃあさっき後ろに隠したものを見せてくれるかなぁ?」
「そ、それは......っ!」
じりじりと隆則が迫ってくる。秀和は下手なエロ本より見せにくいものを手に持ってしまっている。引き留めるんじゃなかった......
「わ、わかった!認めるから!こっちに寄るな!5分後!5分後にまた来てくれ!」
隆則は嘲るように笑った。
「そんなに必死なるなよ~。10分の方がいいか?」
秀和は躍起になって叫ぶ。
「5分でいい!ほら、一回自分の部屋戻れ!」
 やれやれと言わんばかりな顔をした隆則はドアまで向かい、一旦止まって「手はちゃんと洗えよ?」と言って派手に笑いながら部屋を出て行った。

 本を引き出しにしまった秀和は少し時間を持て余していた。片すだけだから5分も本当は要らないけど、BL漫画読んでたのがバレたら変な誤解されそうだしなぁ。
「トイレ行っとくか。」
 秀和がドアを引くと、叫び声と共に隆則が倒れ込んできた。それを受け止めた秀和は一瞬驚いたがすぐさま不機嫌な顔をした。
「お前、人の部屋の前で何してんの?」
「あっ...いやぁ、入るタイミングを見計らってたというか。」
秀和は隆則の頭を軽く叩き、重いんだよ早くどけと隆則を立たせた。隆則はニヤニヤししていた。
「にしても、早かったな。」
秀和はもう一度隆則の頭を叩く。
「本をしまっただけだ!」

 少し早足で食堂へと歩き出した秀和が隣の部屋の前まで来たところで、ちょうど部屋のドアが開いた。そこに軽く目をやると、見覚えのある顔があった。驚きのあまり転びそうになりつつ、立ち止まった。
「あ!お前!......え?なんでここに?隣の部屋?ええ!?」
彼は子を見守る親のような穏やかな笑顔を浮かべた。
「ほら、すぐ会えるって言ったでしょ?」
「いや言ったけどさ......にしても、だろ。」
「まあまあ、細かいことは気にしちゃダメですよ。ところで、安達先輩と田神先輩はこれからご飯ですか?ご一緒してもいいですか?友達が今手が離せないそうで......」
「だ、だめだ!」
隆則にさっき読んでいたのがBL漫画だったことが知られれば一生からかわれてしまうだろう。
 しかしすぐさま、隆則が割り入る。
「なんで断るんだよ、可愛い後輩の頼みだろ?松田、友達にフラれちゃって可哀想だし、せっかくあまり他人に興味ないお前なんかに歩み寄ってくれたんだ!一緒に食べよーぜ?俺が許可する!」
「ありがとうございます。」
「なんかってなんだよ。ってかなんでこいつの名前知ってんの?知り合い?」
隆則は驚き、憐れむような目で秀和のことを見た。
「いやいや、お前本気か?挨拶に来ただろ、昨日!お前の部屋に!」
「あれ?そうだっけ?本当に来た?」
隆則は呆れたようにため息をついて松田に謝罪した。
「すまん、こいつあん時聞いてなかったっぽい。もっかい自己紹介してやってくれるか?」
「わかりました。では改めて、松田青也まつだせいやです。どうぞよろしくお願いします。」
青也は軽く頭を下げてニコっと笑った。


「もう、わかったから飯食おうぜ?腹減った。」
秀和は諦めて食堂へと向かうのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

処理中です...