やがて一つになる君へ

秋月。

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夏祭りが始まる。

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時間が経過し、島は若干活気がついている。


拓斗:夏休みの2週間をここで過ごす事にして、もう12日が経った。

拓斗:明るい笑顔を振り撒き、誰とでも楽しい空気を作る柚子。

拓斗:俺に少し冷たいけど、ふとした瞬間に優しさを見せる茜。

拓斗:無口で喋るのが苦手で、それでも必死に人と関わろうとする菫。

拓斗:解離性同一性障害、つまり多重人格なんて正直信じていなかった。

拓斗:しかし、目の前に確かに存在している。

拓斗:たかが2週間弱で彼女達を理解したなんて思ってはいない。

拓斗:それでも、俺に残された時間はあと2日しかない。

拓斗:明日の夕方には、船に乗って本土へ帰る予定だ。

拓斗:そんな帰宅前夜、今日は島で花火大会が行われるそうだ。

拓斗:山の方の神社では縁日の屋台なんかも出るらしい。


柚子:「おにーさーん、準備できた~?」


拓斗:「ああ、今行くよー!」


柚子:「えへへー、どうどう?浴衣可愛いーでしょ?」


拓斗:「おにーさんって俺を呼ぶってことは柚子か?」


柚子:「せっいかーい!流石に慣れてきたね~」


拓斗:「ま、少しはな。浴衣、すごく似合ってるよ」


柚子:「わぁ、ありがと~!」


拓斗:「そんなに喜ぶことか?」


柚子:「え~、褒められたら嬉しいですよー、すっごく!」


拓斗:「みんな褒めてくれるだろ?」


柚子:「浴衣なんて始めてきたもーん」


拓斗:「へ?花火大会は毎年やってるんだろ?」


柚子:「毎年やってますけど、私は行ったことなくて」


拓斗:「へ、行ったことがない?」


柚子:「ん~・・・」


拓斗:「ああ、分かった。柚子は行ったことがないって話か」


柚子:「ちょおっと違いますね~」


拓斗:「??」


柚子:「そのー、ごめんなさい、『私は』ネガティブな話が苦手で・・・」


拓斗:「・・・そっか」


柚子:「ちょっと、待ってもらっていいですか?」


拓斗:「ん?ああ、いいけど・・・」


少し長めの間


茜:「はぁ・・・別に良いんだけど」


拓斗:「えーと・・・?」


茜:「アンタ、察し悪くない?」


拓斗:「茜か!」


茜:「すぐに気付きなさいよ、もう」


拓斗:「なんで、茜が?」


茜:「私なら話せるからね、色々」


拓斗:「そういうもん?」


茜:「柚子は明るく振る舞うために作られた人格だからね」


拓斗:「ああ・・・」


茜:「で?花火大会に行ってない理由だっけ?そんなの単純よ、苦手だから」


拓斗:「苦手?」


茜:「大きな音とか、強い光とか、アタシ達は苦手なのよ」


拓斗:「・・・。」


拓斗:どうして苦手なんだ?と聞きたかった。

拓斗:・・・これ以上踏み込むのを躊躇ってしまった。

拓斗:迂闊になんでも聞いてしまっていいのか・・・?


拓斗:「・・・苦手なら、無理に行かなくても───」


茜:「ほら、行くよ!」


拓斗:「なっ」


拓斗:初めて会った時には触るなと言っていた茜が、俺の腕を引っ張る。

拓斗:それがあまりにも意外で、驚いてしまった。


茜:「早くしないと、花火始まるわよ?」


拓斗:「・・・ああ、行こう!」


拓斗:俺は茜に手を引かれるまま、花火大会へとむかった。

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