上 下
22 / 22
番外編

七夕の夜空に願いを打ち上げて

しおりを挟む
 【初めに】
これは番外編であり、以前七夕の時に書いておいたものです。出会ってないはずの人が出会ってたりと、本編とは色々齟齬があるので、一つの短編として読んでもらえるとありがたいです。

 では七夕編スタート


  「ねぇ、サク。七夕ってこっちの世界にもあるの?」

 「タナバタ?聞いたことはあるけど、知らないな」

 サクは珍しく昼間に起き、漫画を読んでいた。

 「7月の7日にね、短冊に願い事を書いて笹の葉に吊るすの」

 「ふーん」

 いつも以上に興味無さそうな返事が返ってくる。

 「もー!しようよお願い事!たまにはいいでしょこういうのも」

 「願い事ねぇ……むやみやたらに願いなんてするもんじゃねぇぞ」

 「んーーー」

 ああ言えばこう言うのがサクだ。

 「それに七夕には、織姫と彦星の素敵な話があるのよ、知ってる?知らないでしょ?」

 「なんか言い方腹立つな。知らねぇけど」

 ハルは織姫と彦星に関する話を、自分の持っている知識を最大限絞り出して説明した。

 「どう!?いい話でしょ?」

 「1年に1回も会えてりゃ充分だろ。贅沢言うな」

 (なんでそういうこと言うかな……。)

 次の説得を考えていると、バンッと勢いよく家のドアが開いた。

 「サクちゃーーん、ハルちゃーーん話は聞かせてもらったが!」

 「エストルドさん!どうしてここに!?」

 「まあまあ、ハルちゃん番外編に細かいこと聞きなさんな」

 (いや、そう言う問題ですか?)

 「そんなことより、話は聞かせてもらったが。やろう七夕!ね!サクちゃん!______って寝てる!」

 エストルドが来たことなんて意に介さないかのように、サクは背を向けて寝ていた。

 「めんどくせぇな。お前らだけでやってろよ」

 「ダメだがよ、サクちゃんもほら!せっかくハルちゃんがやろうって言ってくれてるが」

 エストルドに無理やり起こされ、苛立ちを隠せない様子だったが、サクでもエストルドには敵わないのか、観念したかのように立ち上がった。

 「だーー!もうわかったよ。で、何すんの具体的に」

 「え?」

 (具体的と言われれば……具体的には何するんだろう?)

 「おいおい、まさかあんだけ言っておいて知らないなんて事は無いよな?」

 (まずい。あまりよく知らないな。まあ祭り事なんだし……きっと。)

 「だから……ケーキ食べるのよ!そう!ケーキ!その後短冊に願い事を書くの!」

 「そんなんなのか?七夕って」

  サクが疑わしそうに顔を覗く。

 「うるさいな!初めてですよ!そうですよ!初めてやりますよ!いいじゃないせっかくなんだから……」

 そんな顔をされては、サクも強くは言い返せない。

 「そうだがよサクちゃんも、お願い事くらいあるが。そうと決まれば、まずは短冊とやらを買いに行くが」

 「ちっわかったよ」

 3人は準備をして家を出ようとする。

 しかし、先頭でドアを開いたハルが、あっと立ち止まった。

 ______ドンッ

 後ろをついていたサクはよそ見をしていた為、そのまま二人とも倒れ込んでしまった______光の中に。

 ──バタンッ

 「痛っ」

 後ろから、ぶつかられ勢いよく倒れ込んだハルは床で額を打った。

 「ちょっとサク!前見て歩きなさいよ!」

 振り返ったハルの目に映ったのは、先程自分が倒れながら通ったはずのドアだった。外に出たはずが家の中に戻ってきていた。

 「ハルちゃん大丈夫がや?」

 エストルドが心配そうにこちらを見ている。

 「それにしてもサクちゃんは、どこ言ったがや」

 「導の門……」

 ハルの言葉を聞いてピンと来たのか、エストルドがなるほどと大きな声を出す。

 「導の門か、なら時期帰ってくるが。さ、ハルちゃん俺たちは二人でお買い物と行くが」

 エストルドの余裕な調子に飲まれて、この場から消えたサクを心配する感情が、微塵も生まれなかった。






 
 ──ザッパーーン

 「オボベババブ」

 (あ、この感じは……。)

 サクは、これを知っている。

 (この感じ、これは浅いやつだ。)

 バッと立ち上がると目をつぶったまま、その時を待った。

 「イヤーーーーーー」

 (ほら来た。)

 ──バシンッ

 ブクブクブクブク……

 
♢ 


 「まっっったく!あんたってやつは……」

 「すまん」

 ソーニャとサクは以前のように椅子に座り、机を挟んで向かい合って座っていた。

 「なんで毎回毎回、風呂に落ちてくるかな」

 「いや、俺だって落ちたくて落ちてるわけじゃ……。導の門とか言ってるけど、あれ本当に導いてんのかよ。適当だろ絶対」

 「なんか、あんた見てると導の門なんて大して珍しいものじゃないように思えてくるわ」

 「むしろお前が、風呂覗いて欲しくて俺を導いてんじゃないのか?」

 「殺すよ?」「すみません」

 「で、今回は何してんの」

 七夕に関する経緯をソーニャに事細かく説明した。

 「七夕かぁ……面白そうだな!私も混ぜてくれよ!」

 「え……まじで?」

 「いいじゃんか!私だってお願いしたいし」

 「女みたいな事言うなよ」

 「おい」

 睨まれたサクは、そっぽを向く。

 「まあでもとりあえず帰らねぇとな」

 「それなら、私が乗っけてってやるよ」

 そう言われて、ガレージの前に連れて行かれた。スイッチを押すと大きなシャッターが開き、中からかなり大型のバイクが出てきた。

 「ほら、乗りな」

 不安だ。安心感のカケラもない。

 「だいたい、お前そのなりでバイクって……足届くのか?」

 「背が低いのは関係ないだろ今!私はこう見えても、ちゃんとした大人だ」

 「うっそだー」

 「いいから乗れ」「はい」

 (なんか最近、俺の立場がどこにもない気がするな。)

 「捕まってもいいけど、変なとこ触んなよ」

 「触らねぇよ」

  「さあ、飛ばして行くよ!」

 ──ドルルルルルとアクセルをふかし、ヘルメットのシールドをガシャと勢いよく下ろしたソーニャは、ニヤリと笑みをこぼし、目にも止まらぬ速さで加速し始めた。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」





♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢





 「そこの暴走車止まれ!」

 走り出してすぐ二人は追いかけられていた。

 「くっそ、国護官か。ほんと暇だなあいつら」

 「いや、こんなスピード出してたら、そりゃ止められるだろ」

 「ふっ、止められるもんなら止めてみなよ」

 そう言って、ソーニャは一層アクセルを回す。

 こいつ……無茶苦茶だな。

 「止まれ!さもないと力ずくでも止めるぞ」

 国護官の語気が強まるが、ソーニャは気にも留めない。

 「もう容赦はしないぞ」

 そう言うと国護官は、何かをこちらに投げカチッとバイクに貼り付いた。

 「それは、機器の機能を停止させる電磁波を流す装置だ!私がこのスイッチを押せば、そのバイクは緊急停止する。そうなれば、お前たちの体はただでは済まないぞ。今すぐ止まれ!」

 「なぁ、もう大人しく止まった方がいいんじゃないか?」

 「嫌だ」

 「なんで」

 「腹立つから」

 (……はぁ。)

 「くそ、やむおえないな」

 ──カチッ

 国護官が手に持っていたスイッチを押す。

 しかしバイクが止まる気配はない。

 「なっ…….どうして」

 「ハハッ。バーカ。こいつは兄ちゃんお手製なんだよ!そんなヤワな装置で止まるわけないだろ!」

 (こいつもう、完全に悪役だな。)

 「今度はこっちの番だ!ちょっとサク、これ後ろに放ってくれる」

 ポケットから出した球を手渡され、サクは嫌な予感がしながらも、やれやれと後ろを追いかけてくる国護官に向かって放り投げた。


 ───ドォォォン


 爆発音と共に熱風が背中を撫でる。

 「はっ!ザマァ見ろ!」

 ソーニャが高らかに拳を掲げる。

 サクは後ろを一切振り向かず、黙って目を閉じた。







 「ふぅ、こんなもんだが」

 「ですね」

 二人は商店街で必要な物を買い揃えていた。

 「それにしてもハルちゃん、商店街の人と仲良んね。ほとんどの店で割引きしてもらったが」

 「まあ、もうずっと通ってますからね」

 「なんかすごいが。貫禄すら感じるがや」

 仏のような顔で話すハルに後光が差して見える。

 「さ、帰りましょうか。そろそろサクも戻ってきてるかもしれないし」

 二人が帰ると、家の前にボロボロのバイクが停めてあり、中から声が聞こてきた。

 「ただいま」

 知らない声もするので、恐る恐るドアを開くと、サクと向かい合ってソーニャが座っていた。

 「おーー、ハルちゃん!お帰り」

 見た目は明らかにソーニャが年下だが実際のところ年齢はハルが下だ。

 「え、ソーニャさん。どうしてここに」

 「それがさ、こいつがまた風___」

 「あーー、導の門潜ったら、たまたまこいつの家でさ」

 サクが何故か慌てて説明をする。
 
 「そうなんだ。で、それは何してるんですか?」

 ソーニャが手元で何かをガチャガチャしている。

 「ああ、これ?七夕とか言うお祭りの笹につけるんだよ」

 「え、ああ笹なら今買ってきたので、ここにありますけど」

 ソーニャは笹を受け取ると、作っていた物を取り付けた。

 「よし!完成!」

 「何ですかそれ?」

 「いいか、七夕にはな織姫と彦星が…………って言う素晴らしいストーリーがあるんだよ」

 ソーニャが、どこがで聞いた説明をする。ハルがサクにしたのと同じだ。しかも所々なんか違う。

 「だから、二人に届くように笹を天の川まで飛ばすんだよ」

 「トバス?」

 「そう、飛ばす」

 (笹を飛ばすって何だ。)

 「まあ、じゃあ二人は飾り付け担当という事で。私たちはこれからケーキ作るんで」

 「てか、その厳つい兄ちゃんは誰だ?」

 「まあまあソーニャちゃん、番外編だからそう言うのはご愛嬌だがや」

 「ま、それもそうだな!」

 二人して高笑いしている。何がそんなに面白いのだろうか。

 という事で、早速エストルドとハルはケーキ作りに取り掛かり始め、サクとソーニャは外で何か作業を始めた。

 

 数十分後___


 「よし!完成!」

 ケーキが完成し、サク達を呼びに行こうと振り返ると、外で作業してる筈のサクが寝転がって漫画を読んでいた。

 (集中していて全然気がつかなかったけど……)

 「サク何してんの?」

 「休憩」

 「休憩って……いつから?」

 「30分前くらいか?」

 「30分前って作業始めてすぐじゃん」

 「始まって2秒だな」

 「いや、ソーニャさんだけにやらして、何してんのよ」

 「うるっせぇな!!」

 サクが勢いよく立ち上がったかと思うと、ワナワナと震えだした。

 「俺だって……俺だってな……なんかやりたかったよ!珍しくやる気になってましたよ!この俺が!この俺がやる気を出してるってのに、あの女……2秒で、2秒で俺のこと邪魔とか言い出しやがって……催し事は皆んなで楽しむもんじゃないのかよ!いいよもう!いいですよ!どうせ俺は邪魔ですよ!」

 いじけたように腕を組みそっぽを向いて座る。

 (あーあ、メンタルが子供なんだから。)

 ハルは側に寄りサクの頭を撫でる。

 「ほら、よしよし。邪魔じゃないよ。ほら一緒にケーキ食べよ」

 サクが涙目でハルのことを見つめる。

 なんか懐かしい気分だ。私が初めてここに来た時、サクはこうして慰めてくれたっけ。

 「ほら食べよ」

 うん、とサクが頷く。

 ──バンッ

 扉が勢いよく開いてソーニャが入ってきた。

 「よっしゃ!完成したぞ!あれ?サク、まだいたのか」

 「いたのかって、ここは俺ん家だぞ」

 反論に語気がない。

 ソーニャはそんなサクを見て満足そうに笑っている。

 楽しんでいるようだ。

 それから四人はケーキを食べ終えると、ソーニャに案内され、暗くなった外に出ていた。

 そこには布が被されているが、それでも大きさが伝わってくる何かがあった。

 「さあ、ご覧あれ!これが!打ち上げタンザクンだ!」

 大きな布をバッと捲ると、三メートルほどの長さの笹が姿を現した。

 見たことがないほど、大量の葉をつけている。

 「うわぁ、なんだがこれ」

 エストルドが感嘆の声をあげる。サクは少し不満そうだ。

 「これにみんなの願いを書いた短冊を付け天の川まで打ち上げるんだよ」

 どうやらこの笹は根元についてるスイッチを押すと、ロケット花火のように、空に打ち上がるらしい。

 「じゃ、みんなこれにお願い事を書いてください」

 ハルがみんなに短冊とペンを配ると、悩んだり、すぐに書き始めたりと各々が書き終わるのを待った。

 「ねぇ、みんなはなんて書いたの?」

 ソーニャがニヤニヤしながらハルの短冊を覗き込む。

 「私は【無事元の世界に戻れますように】です」

 みんなが少し黙り込み、大丈夫だよとソーニャが慰めてくれる。

 「ソーニャさんはなんて書いたんですか?」

 場を取りなおそうと、ソーニャにも同じ質問をしてみた。

 「私はね【兄ちゃんに会えますように】かな。生き別れちゃってさ」

 (あぁ……。)

 「俺はね、【世界中の女の子と遊びたい】だがや!」

 エストルドが短冊を自慢げに掲げこちらに見せてくる。

 「聞いてません」「聞いてねぇ」

 ハルとソーニャから総ツッコミを受け、エストルドはなぜか嬉しそうだ。

 しかし、おかげで和やかな雰囲気になった。

 「よし、付けるか」

 サクが短冊を笹に結び始め、みんなも後に続いた。

 「いや、サクはなんて書いたの」

 「そうだがや。サクちゃんのお願い事はなんだが」

 「そうだぞ、自分だけ逃げるな」

 3人から詰め寄られるが、頑なに見せようとしない。

 「こういうのはな、人に見せると叶わないだよ」

 「知るか、見せろ!」

 ソーニャが笹に結んである短冊を覗き込もうとした瞬間、サクは目にも留まらぬ速さでスイッチを押した。


 ──バシュ


 あ!

 笹が勢いよく夜空へ打ち上げられる。

 ほとんど見えなくなったところで笹の葉が多方向へ散り、その一枚一枚がドーンッと花火として夜空で弾けた。

 「うわぁぁぁ。何これ綺麗」

 思わず見惚れてしまう。

 「そうだろ!これがソーニャ様の作品だ!」

 自信満々に腰に手を置くソーニャを見て、サクがまた何か悪態吐くかと思いきや、フッと少し笑った。

 四人は座り込み、まだ無数に咲いている花火を、笑顔で眺めていた。

 花火が終わり、みんなが家に戻ろうとする中、ハルはまだ一人座って夜空を見上げていた。

 「おい、何してんだ早く入んねぇと風邪引くぞ」

 うん、とだけ返すハル。

 「どうしたんだよ」

 サクが心配そうに声をかけると、少し考えてから、

 「色々あったけど、みんな楽しそうでよかった」

 と、満面の笑みで3人の方を振り返りながら言った。

 嬉しそうなハルに、他の三人は顔を見合わせ、同時にありがとうと感謝を伝えた。

 「わぁ!すごい!あれ見て!」

 ハルが大きな声を上げ、指差す方を見上げると流れ星が見えた。それも一つや二つではなかった。

 「すごい!1、2、3、…………24!すごいすごい!こんなにいっぱい流れ星見たの初めてかも!なんかみんなの願い事叶う気がするね!」

 ハルは言い終わってから、他の3人が冷静にこちらを見ていることに気がつくと、恥ずかしそうに顔を下げた。

 「 フッ、アハハハハハ」

 3人は大きな声で笑い出すと、ハルの元へ歩み寄っていった。





 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 
 ───とある場所で


 ある一人の女性が楽しそうに、少し弾みながら歩いていると、一枚の紙を見つけた。

 「ん?何かしらこれ」

 女性は紙を拾うと、少し後ろを一生懸命走っていた男性を呼ぶ。

 「ねぇ!弥彦!早くきて!」

 「待ってくれよ、詩織。早すぎ……うぉえ」

 なんとか詩織の元にたどり着いた弥彦は膝に手をつき、激しく肩を上下させている。

 「ねぇ!ほらこれ!見て!」

 詩織の見せてきた紙には、何やら文書が書いてあった。よく見てみると願い事を書いた短冊である。

 「ねぇねぇ素敵じゃない!?叶えてあげようよこのお願い!」

 詩織が楽しそうに飛び跳ねているのに対して、弥彦は冷静に紙を受け取った。

 「だめだよ」

 「えぇぇぇどうしてよぉ」

 詩織は頬を膨らませ唇を尖らす。

 「なにそれ!可愛い!めちゃくちゃ可愛い!」

 一瞬にして弥彦は取り乱した。

「……ゴホンッ、死ぬほど可愛いけどだめ」

 「なんで?」

 いつもならこれでオーケーしてくれる筈なのに、今回の弥彦は頑だ。

 「これは、彼自身が叶えるからだよ。きっとこの最後の一言は、この先の自分自身に宛てたものだと思うな。だから、この願いは僕らじゃなくて彼が叶えるんだよ。それに、彼ならきっと叶えられる」

 「ふーん、そんなもんかな」

 「そんなもんさ」

 弥彦は短冊を手のひらに乗せ、もう片方の掌で、その上をなぞった。

 すると文字だけが短冊から浮き出て空中でフワフワと留まる。

 【ハルが元の世界へ戻って泣かずに過ごせるように        
                        頼む】

 弥彦が宙に浮いた文字に、フゥと息を吹きかけるとキラキラと輝きを放ち散っていった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...