そのΩ、買いました。オークションで。

塒 七巳

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「またお前、お見合い断ったらしいじゃねぇかっ!おめぇは桜庭の血筋を途絶えさせる気かっ!」
 
 唯の父からの送られて来る大量のお見合い写真を、唯は大半送り返したが、ドヤされるのを避けるためにたまに受け取った。
 そうすれば、少しだけ猶予が出来て、父の攻撃の手も緩む。
 
 唯だって、ほんの僅かだがそれなりに期待と誠意を持ってお見合いには臨んだ。
 
 だが、どこかでやっぱりダメだ、と折れてしまう。
 
 
「由緒正しい桜庭の歴史も、私で断絶です。お疲れ様でした……」
 そう言って唯は父の電話を切る。
 
 直ぐにまた電話が掛かってくるが、唯はスマホの電源を落とした。
 
 また電源を入れれば、父からの鬼のような着信履歴が残っていることだろう。

 
 そろそろ行かないと––––
 
 唯は少し小綺麗な格好で、休日の日課である美術館巡りに向かう。
 
 
 最初は、頭の片隅で期待していた。
 
 どこかの会場で、もしかしたら一目でも、その姿を見れるのかもしれない、と。
 
 溢れる程人が居るこの場所で、唯にその人が見つけられる確率は果たしてどのくらいなのだろう–––
 
 夢を見すぎなのは分かっている。
 どうしようも無い事に時間を消費している事も、そろそろ現実を見て、受け入れて行く方が合理的なのも––––
 
 αなのだから、誰よりも本当は分かっている––––
 
 無駄な事に、時間も労力もお金も費やしている、と。
 
 分かっててやらなかった事の方が唯の人生は圧倒的に多い。
 ただ、分かってても止められなかったのは初めてだった。
 
 説明のつかないこの感情が、唯を突き動かして消えない。
 
 
 
 
 
 そろそろ、潮時だな……–––––
 と最近になってようやくその熱をコントロール出来るようになってきたと唯も自負がある。
 
 何も知らないたった一人を探すのは、もう止めよう、と–––––
 
 
 ユウマが消えて、二年が経った。
 
 
 電話も繋がらなくなって、ユウマの部屋の前を通ったりもしてみた。
 一緒に行ったカフェも……美術館も、ホテルも全て、全て行ってみた。
 
 頭がおかしくなったのかも……と自分でもわかってるのに、唯は止められなくて、そうしてしまう自分に戸惑い、そんな自分が唯は嫌だった。
 
 
 
 自己嫌悪が極まれば、この感情はきっと嫌でも引いていく––––……
 
 だから、自分が嫌になるまで、飽きるまでは自分の感情のままにしてきた。
 
 
 

 唯は電車内で鞄から展覧会のチラシを取り出す。
 
 例の絵がもう一度日本にやって来る––––
 ユウマと見た、お腹の大きなΩを労り慈しむ、αの絵だ。今回の展覧会のメインの作品と言って良い。
 
 唯は無意識に、自分の項を手で摩った。
 
 これで、最後にする––––
 唯はそう決めていた。そして、何よりその作品を、唯はもう一度この目で見たかった。
 
 
 
 美術館に着いた頃はもう夕方で、閉館時間も迫っているので人もまばらだ。
 
 静けさが、やけに心が良い。

 他の作品を見て回って、メインの作品に足を進める。
 
 二、三人人が居るだけの空間で、唯はその絵の前に立った。
 
 
 
 Ωを慈しむα……
 
 美しい銀箔が貼られ、淡い青や優しいパステルカラーを織り交ぜられた抽象的な背景の中で、真ん中の二人は目を閉じてその体を寄せ合っている。
 
 一体二人は何を考えているのか……––
 
 それは見る側に委ねられている。
 
 
 
 Ωを慈しむα……––––
 いや、違う。
 
 ただ愛する人を慈しみ、愛する人に身を委ねた二人、それを証明する穏やかな雰囲気と、愛の結晶である大きなお腹……––––
 
 愛する人の苦しみも過去も全てを飲み込んで、未来への希望に満ちた絵だ。
 
 
 そうだ、なんで分から無かったんだろう……––––
 
 
 唯の瞳に、涙が溜まり始める。
 
 以前見た時は、唯はこんな風には感じなかった。
 Ωとα、番……そんな特性に気を取られすぎて、真正面からこの絵を見えていなかった。
 この絵には特性など関係無い。だから詳しい解説も無かった––––
 
 先入観を持って唯はこの絵を見ていた事に気付く。
 
 この幸せがずっと続く訳では無いかもしれない、でもその幸せが確かにそこにあると、作者は教えてくれている。
 誰もが人生で味わえるかも分からない、その瞬間を美しく切り取ったものだ。
 
 
 
  
 
 
 すると、隣に人がやって来た。
 
 涙を流しなんてしたら、恥ずかしい……––––と唯は横目でチラッとその人見て、顔を伏せる。
 
 だが、その人物は目の前にある絵では無く、隣に居る唯を見下ろしていた。
 
 視線に耐えかねて、唯も顔を上げ、横を向く。
 
 
 
 幻を見ている––––
 
 唯は息が止まり、目を見開くと、涙が一筋零れ落ちた。
 
 
 
「見つかっちゃったか……」
 そう微笑んで呟くユウマを前にして、唯は身動きが取れない。
 
 ただ溢れて止まらない涙の向こうに、唯には滲んで見えるユウマは確かに存在した。二年前より大人びて、更に魅力溢れる男性になって––––
 
 
 
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