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17 執事の名は

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 この言葉にぎょっとしたのはアーサーとウィルフレッドだった。

「メリル。…そ、それは」苦しすぎる言い訳だ――そう続けようとする二人だったが、メリルの気迫のほうが勝ったのでそれ以上は何も言わずに黙り込んだ。
 メリルは滅多に怒らないし、黙って拗ねちゃうタイプだけれど、一度正義感を発揮してしまったら、誰にも止められないことを二人ともよく知っていたからだ。

「だって!本当に犯人だったら!逃げててもおかしくないじゃないですかっ!こうして逃げ出しもせずにいるんだから犯人のわけないじゃない!」

 『すごい理屈だ』

 聞いたみんなはそう思ったけれど、辺境伯嫡男であるアーサーが親しそうにしている女の子が辺境伯令嬢だということに憲兵たちは初めて気が付いて、ざざっと敬礼する。

「レ、レディ……ですが…。襲撃情報が事前にあり、こちらとしても警戒していましたところ、目撃者もおりまして……」
 職務と辺境伯一族の板挟みに陥った憲兵隊長が言い淀む。

「わたしの執事がそんなことするわけないもん!」

「……レディ。執事の名前は何とおっしゃるので?」

 メリルはぎょっとする。な、名前!?ダメっ!レディは表情変えたらダメ!ゼッタイ!
 何だか教育が変な方向に使われている気もするが、だんまりを決め込んだメリルに憲兵の皆が怪しそうに視線を彷徨わせた。


"その子の名前は ソル よ"
"ソル!"
"太陽って意味だなあ"

 一瞬カンニングしたような気になってしまったメリルだったが、周囲のみんなに精霊の声は聞こえていないようだし、この際そんなことは言ってられない。

「ソル!あなたの名前はソルよね!?」 

 悲しそうな表情だった男の子の顔がぱあっと輝いた。

 光の精霊は顔から治療を施していたのか、殴られた痕跡はまるでなかった。
"だってすごい綺麗な子だったしぃ" 
 精霊は美しいものに目がない。光の精霊の面食い度は全属性の精霊たちの中でもピカ一だった。


 あれ……この子すごくキレイ……。メリルがそう思った瞬間、ソルと呼ばれた男の子がメリルの前に跪いた。

 驚く間も無く、メリルの片手がソルに恭しく持ち上げられ手の甲に口づけが落とされる。

「お嬢様……。永遠の忠誠をお誓い申し上げます」


 ボッと顔から火が出るとはこのことか。メリルの顔が耳まで瞬間湯沸かし器のように沸騰し真っ赤になった。

 えっ?ま、待って!ああ!口裏合わせってやつ?

「ソル。忠誠を受け取ります」

 メリルがやっとそれだけ言うと、ソルと呼ばれた男の子は立ち上がり、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
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