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番外編 今日もアクアオッジ家は平和です⑥
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ドラゴンたちが目指す先は、アクアオッジ家のタウン・ハウスである。一定期間社交を行わねばならない関係で王都に滞在するときの辺境伯一家の別邸ともいえる。
数年前とある侯爵家が人身売買のかどで爵位剥奪となり、所有していた邸宅が土地ごと売りに出された。昔ながらの名門だったため、土地は貴族たちの邸宅が建ち並ぶ一角の中でも超一等地でやたら広い。当然のことながら誰もが買えるようなお値段ではなかった。
土地を分割して売ろうかという流れになったとき、王太子殿下が買い手の情報を不動産屋に流した。
優秀な側近の一人アクアオッジ家の次男レイファ。たびたびホームシックにかかる彼をがっちり掴んで離さないために『それなら社交シーズン中家族を王都に呼んじゃえばいいんじゃない?』と策を巡らせたのだ。
当時アクアオッジ家はようやく資金も出来てタウン・ハウスを建てる土地を探していた。毎年毎年宿ではなかなか疲れも取れないし、大家族なのも問題だった。一つのベッドに二人三人で寝るのは当たり前。だがメリルと一緒のベッドにだけはなりたくない。
何せ横になって眠るメリルの両手足は水揚げされたカニのように自由自在に動き回り、一緒に寝る者を打ちのめした(物理的に)。寝入りばなをそうやって起こされまくり、朝になれば掛布団は全て剥ぎ取られてメリルが一人で使っている有様だった。
全員がメリルの寝相にはゲッソリしていた。
一家は貴族たちのタウン・ハウスが建ち並ぶ一角はなかなか売地など出ないことを知っていたので、とりあえずどんな狭い土地でも、ベッドを詰め込んだ部屋でいいから一人一つのベッドで寝られれば充分だし、小っちゃいハウスでいいや、とのんびり気楽に考えていた。……のだが。
そんな家探しの中やってきた不動産屋のセールストークに、一家は舞い上がった。
『ええもう、それは広い土地でございまして』
ざわざわ…アクアオッジ一家が色めき立つ。カニ…ではなくメリル(の寝相)から逃れられると知って、メリル以外の全員が一斉に、蠢いている手足もなく安らかに眠れる夢を見た。それはなんて素晴らしいんだろう。
「一人一部屋のタウン・ハウスが建てられますかしら。大家族なので使用人部屋を入れて十部屋は欲しいのですけれど。無理でもせめて一人一台のベッドを」
母アドリアナが(メリル以外の全員)を代表して目をキラキラさせながら不動産屋に質問する。きっと想像しているのはこじんまりとしたかわいらしいタウン・ハウスだろう。
『充分その広さはございます。王太子殿下直々のお話ということもございますし、分割する手間と時間と手数料も考慮に入れ、お値段は勉強致しました』
このあたりでもう少し疑うべきだったのだ。
後日、支払金を用意した執事長のセバスチャンはその金額に腰を抜かしかけたが、表情には出さなかった。現辺境伯ザカリ―にも「この金額でようございますか?」と尋ねたが、今までに買ったこともないので相場は分からないけれど、払える金があるならば大丈夫だろう、ということで契約は成立してしまった。
そしてワクワクしながら現地に到着したアクアオッジ一家は、買い取った土地を見てあんぐりとする。
全員あごが地面に刺さるくらいびっくりした。さすが貯めていたお金がすっからかんになっただけのことはある。
とんでもなく広い土地と、とんでもなく広く悪趣味な屋敷がみんなの目前にあった――
アクアオッジ家は、王都で一番の広さの土地を所有してしまったのだ。
◇ ◇ ◇
数年前とある侯爵家が人身売買のかどで爵位剥奪となり、所有していた邸宅が土地ごと売りに出された。昔ながらの名門だったため、土地は貴族たちの邸宅が建ち並ぶ一角の中でも超一等地でやたら広い。当然のことながら誰もが買えるようなお値段ではなかった。
土地を分割して売ろうかという流れになったとき、王太子殿下が買い手の情報を不動産屋に流した。
優秀な側近の一人アクアオッジ家の次男レイファ。たびたびホームシックにかかる彼をがっちり掴んで離さないために『それなら社交シーズン中家族を王都に呼んじゃえばいいんじゃない?』と策を巡らせたのだ。
当時アクアオッジ家はようやく資金も出来てタウン・ハウスを建てる土地を探していた。毎年毎年宿ではなかなか疲れも取れないし、大家族なのも問題だった。一つのベッドに二人三人で寝るのは当たり前。だがメリルと一緒のベッドにだけはなりたくない。
何せ横になって眠るメリルの両手足は水揚げされたカニのように自由自在に動き回り、一緒に寝る者を打ちのめした(物理的に)。寝入りばなをそうやって起こされまくり、朝になれば掛布団は全て剥ぎ取られてメリルが一人で使っている有様だった。
全員がメリルの寝相にはゲッソリしていた。
一家は貴族たちのタウン・ハウスが建ち並ぶ一角はなかなか売地など出ないことを知っていたので、とりあえずどんな狭い土地でも、ベッドを詰め込んだ部屋でいいから一人一つのベッドで寝られれば充分だし、小っちゃいハウスでいいや、とのんびり気楽に考えていた。……のだが。
そんな家探しの中やってきた不動産屋のセールストークに、一家は舞い上がった。
『ええもう、それは広い土地でございまして』
ざわざわ…アクアオッジ一家が色めき立つ。カニ…ではなくメリル(の寝相)から逃れられると知って、メリル以外の全員が一斉に、蠢いている手足もなく安らかに眠れる夢を見た。それはなんて素晴らしいんだろう。
「一人一部屋のタウン・ハウスが建てられますかしら。大家族なので使用人部屋を入れて十部屋は欲しいのですけれど。無理でもせめて一人一台のベッドを」
母アドリアナが(メリル以外の全員)を代表して目をキラキラさせながら不動産屋に質問する。きっと想像しているのはこじんまりとしたかわいらしいタウン・ハウスだろう。
『充分その広さはございます。王太子殿下直々のお話ということもございますし、分割する手間と時間と手数料も考慮に入れ、お値段は勉強致しました』
このあたりでもう少し疑うべきだったのだ。
後日、支払金を用意した執事長のセバスチャンはその金額に腰を抜かしかけたが、表情には出さなかった。現辺境伯ザカリ―にも「この金額でようございますか?」と尋ねたが、今までに買ったこともないので相場は分からないけれど、払える金があるならば大丈夫だろう、ということで契約は成立してしまった。
そしてワクワクしながら現地に到着したアクアオッジ一家は、買い取った土地を見てあんぐりとする。
全員あごが地面に刺さるくらいびっくりした。さすが貯めていたお金がすっからかんになっただけのことはある。
とんでもなく広い土地と、とんでもなく広く悪趣味な屋敷がみんなの目前にあった――
アクアオッジ家は、王都で一番の広さの土地を所有してしまったのだ。
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