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番外編 今日もアクアオッジ家は平和です⑧
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すぐ目的地に到着する。タウン・ハウスは街に近かったし、リー商会は商館街の中でも外れのほうにあるからだ。
馬車が横付けされた途端、リー商会の年若い代表が外に出て出迎える。
「ようこそお越しくださいました。メイベルも首を長くして双子のお二人のご到着を心待ちにしておりましたよ。アンドリュー第三王子殿下もよくいらっしゃいました。歓迎致します」
「兄さん、それは言わない約束よ」
みんなが商会の中に入ると、ちょっと釣り目の女性が顔を真っ赤にしながら出迎えてくれた。兄と呼ばれた商会代表の声が大きく、中まで筒抜けだったからだ。
メイベル・リー。いや、今はメイベル・スタンフォード。スタンフォード子爵の奥方である。
今や王都で一番注目度の高い新進気鋭のデザイナーであり、十歳のアーサーに下着を作った人物でもある。何を作らせちゃってるの、って当時みんなは思ったものだけれど、未だに何かと下着作りを引き合いに出されている本人はたまったものではないだろう。だが、その話が出るとメイベルの目尻が下がって優しい表情になることにメリルは気が付いた。
メリルは人の名前を覚えるのは苦手だし、しょっちゅう呼び間違えるけれど、人の心の機敏を察することは出来た。メイベルももしかしたらアーサー兄さまのことを好きだったの?
「おっと、メイベル。お茶の用意を言い付けてくるよ」
もう支度は済んでいるだろうから口実だろう。メイベルの兄が席を外した。今みんなが居る場所は商会の一番豪華な応接間だ。
商会の使用人があっという間にお茶を持って入ってきて、あっという間にセッティングすると退室していった。
メリルが一番にすることは、お茶菓子の数と食べるであろう人数の確認である。ちなみにソルは座らずアクアオッジ家の者の後ろに立ち、王子の護衛は一名だけ王子の背後にいたりする。となると、母・ウィルは二個ずつ、王子は一個でいいよね。残り五個は食べられるぅ。ひゃっほう!
リスみたいに頬張っていると、メイベルが母に向かって尋ねているところだった。
「ロード・アーサーはお元気でらっしゃいますか?」
「あらあら。メイベルちゃん、ロードなんて付けなくていいのよ。あの子は風邪一つ引かないから、とっても元気にしてるわ」
そうだ!仮縫いの時には聞けなかったこと聞かなくちゃ!メリルは口の中のお菓子を急いで平らげると、メイベルに向かってずいっと身を乗り出した。
「あのっ!どうしてメイベル子爵夫人はアーサー兄さまを振ったんですか!?兄さまのどこが不満だったんですか!?」
……直球だった。メイベルも母アドリアナも男勢もみんな目をパチクリさせている。
しまった。やらかした。
メイベルが紅茶を一口含んでソーサーにカップを戻すと、ふっと微笑んだ。
馬車が横付けされた途端、リー商会の年若い代表が外に出て出迎える。
「ようこそお越しくださいました。メイベルも首を長くして双子のお二人のご到着を心待ちにしておりましたよ。アンドリュー第三王子殿下もよくいらっしゃいました。歓迎致します」
「兄さん、それは言わない約束よ」
みんなが商会の中に入ると、ちょっと釣り目の女性が顔を真っ赤にしながら出迎えてくれた。兄と呼ばれた商会代表の声が大きく、中まで筒抜けだったからだ。
メイベル・リー。いや、今はメイベル・スタンフォード。スタンフォード子爵の奥方である。
今や王都で一番注目度の高い新進気鋭のデザイナーであり、十歳のアーサーに下着を作った人物でもある。何を作らせちゃってるの、って当時みんなは思ったものだけれど、未だに何かと下着作りを引き合いに出されている本人はたまったものではないだろう。だが、その話が出るとメイベルの目尻が下がって優しい表情になることにメリルは気が付いた。
メリルは人の名前を覚えるのは苦手だし、しょっちゅう呼び間違えるけれど、人の心の機敏を察することは出来た。メイベルももしかしたらアーサー兄さまのことを好きだったの?
「おっと、メイベル。お茶の用意を言い付けてくるよ」
もう支度は済んでいるだろうから口実だろう。メイベルの兄が席を外した。今みんなが居る場所は商会の一番豪華な応接間だ。
商会の使用人があっという間にお茶を持って入ってきて、あっという間にセッティングすると退室していった。
メリルが一番にすることは、お茶菓子の数と食べるであろう人数の確認である。ちなみにソルは座らずアクアオッジ家の者の後ろに立ち、王子の護衛は一名だけ王子の背後にいたりする。となると、母・ウィルは二個ずつ、王子は一個でいいよね。残り五個は食べられるぅ。ひゃっほう!
リスみたいに頬張っていると、メイベルが母に向かって尋ねているところだった。
「ロード・アーサーはお元気でらっしゃいますか?」
「あらあら。メイベルちゃん、ロードなんて付けなくていいのよ。あの子は風邪一つ引かないから、とっても元気にしてるわ」
そうだ!仮縫いの時には聞けなかったこと聞かなくちゃ!メリルは口の中のお菓子を急いで平らげると、メイベルに向かってずいっと身を乗り出した。
「あのっ!どうしてメイベル子爵夫人はアーサー兄さまを振ったんですか!?兄さまのどこが不満だったんですか!?」
……直球だった。メイベルも母アドリアナも男勢もみんな目をパチクリさせている。
しまった。やらかした。
メイベルが紅茶を一口含んでソーサーにカップを戻すと、ふっと微笑んだ。
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