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番外編 今日もアクアオッジ家は平和です⑫

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 そのとき、王子の背後で光がゆらゆらと揺れ動いた。一つ、二つ、数が増えてくる。
 メリルが自分じゃない後ろを見ていることに気が付いて、王子の動きも止まった。

"んも~!そこまでにしなさいよね?"

"ホントホント!メリル困らせちゃダメじゃない"

 ……あ、精霊たち!?
 メリルが考える間もなく、扉が激しくノックされる。

「メリル!?どうしたんだい?精霊たちが慌ててる」

 ――ウィルだ!助かったぁ~。

 なんだか……どっと疲れた……お腹空いた~……その時メリルがパッと閃いた。
 ちっ、と王子が舌打ちをして鍵を開けると、ウィルとソルが扉を開けて転がり込んでくる。

「メリルお嬢さま……ッ!?」
「メリル、だいじょう……ぶ?」

「あ~~~~!!王都の焼き串の買い食い~わすれてた~!」


 王子が片手で顔を隠して笑い出した。もう笑いしか出てこない。
「……ハハッ。ハハ…」

 ウィルフレッドが王子に気忙しく尋ねる。
「王子殿下!?なぜメリルの部屋に?」

「ただちょっと二人っきりで話をしたかっただけだよ」

 扉が勢いよく開いたことでメリルの頭に、とあることが唐突に閃いた。ずっと考えていたこと。決して焼き串のことではない。いや、それもあったけれど、この館に来たときに行かなくちゃいけない場所があることを思い出したのだ。
「あ、あのっ!ちょっとみんな付いてきてくれませんかっ。気になることがあるんです」

「うん?」

「えっ。メリルどうしたの」

「ウィル、場所は忘れちゃったんだけど…わたしが気に入ったさかさまバニーちゃんの絵のとこまで連れてって」

「うん?分かった」


 ◇ ◇ ◇


 こうして四人は、仮装したバニー姿の男が何かを指さしながらさかさまにひっくり返っている絵(ウィル談)のある部屋に向かっている。

 一階は使っている部屋は応接間くらいで、あとは未使用のままだった。照明もつけていないので、真っ暗闇の中を、ソルが持つ灯りを頼りに進んでいく。護衛騎士たちにはしばらく待機してもらうようにお願いしてあった。最初は反対されたけれど、アクアオッジ家の屋敷だし、万が一があったとき二手に分かれていたほうがいいと王子が無理矢理説得した。あとから様子を見に来る約束付きで。まあ、ソルもいるしね。


 その部屋は巧妙に分かりづらくなっている場所にあった。

 気が付いたのもスキルのおかげだった。というのも――
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