【完結】聖騎士団長で婚約者な幼馴染に唐突に別れを告げられました。

空月

文字の大きさ
8 / 21

8.改めて目的を口に出すことも、必要な時はあるものですので。

しおりを挟む



 セシリアとの邂逅の後、エリシュカはそのまま首都を出ることにした。
 猶予はまだまだあるようだが、早くに終息させるに越したことはない。
 「嬢さんは道具使いが荒いですよねぇ」とエッドには言われたが、使えるものを使うのは当然である。

 そういうわけで、エッドの手を借りて首都を出て、ついでにさっさと第一の目的地――首都から見て国の最南端に位置する街まで連れて行ってもらうことにしたのだが――それに難色を示したのがエッドである。


「別に、難癖つけるつもりはないんですよ?」

「じゃあ何なのかしら」

「ただ、よりによってそこから行こうとする理由が俺の読み通りなら、本当に容赦なく使うつもりなんだろうと思って、一応確認しておきたいだけで」


 常の薄笑いを浮かべながら、飄々とそんなふうに言うものだから、エリシュカは溜息を禁じえない。
 目が覚めてから何度目の溜息かしら、などと益体もないことを思う。


「まったく、口数の多い『道具』ね」

「お褒めに預かり光栄の極み」

「褒めてないわ。――確かに、貴方の読み通り、貴方をこき使う予定だけれど。そもそもそういう契約で、貴方と私は協力関係にあるのでしょう?」

「ま、それはその通りですけどね。一応、心積もりはしておきたいものですし」

「そんなもの、貴方には必要なさそうだけど」

「言いますねぇ、嬢さん」


 しかし、エッドの言うことも一理ある。
 心の準備なんてものは全く必要なさそうな人物だと知っているが、だからと言って本人の意向を無視する理由もない。
 故にエリシュカは、改めて第一の行先の目的を告げる。


「分かっているだろうことを言うのは馬鹿馬鹿しいけれど……まぁいいわ。レナクたちが『異世界の少女』を巻き込んでやらかそうとしている儀式の破棄――それを第一に動くから、そのつもりでいてちょうだい。レナクたちのところに向かうのはその後よ。……『できない』なんて言わないでしょう?」

「ここで『できない』なんて言ったら、それこそ何のために長生きしてきたんだかって話になりますからねぇ。――嬢さんの望みには応えますよ。それが俺の長年の目的に沿う限りは、ね」

「心強い限りね。頼りにしているわ」


 そんな、ある意味予定調和の会話を経て、エリシュカはエッドの魔術によって、最初の目的地――リーヴェンデッテ最南端の街・クラストフォルクに向かったのだった。



 移動の際に目を開けていると『酔う』のだと言い含められていたため、目を閉じてエッドに身を任せていたエリシュカは、「もういいですよ、嬢さん」と声をかけられて目を開いた。そうして目前に広がる街の姿に、感嘆の溜息を吐く。


「……魔術って、便利ね。歩くでもなく、馬を使うわけでもなく、一瞬で遠いところに移動できるなんて」

「そりゃあ、俺くらいにまで魔術を究めれば便利も便利ですけどね。でも並の魔術師だったら、まず移動用の魔術自体扱えないでしょうし、高位の宮廷付きだとしても準備に結構な手間と時間がかかりますし、それでいて成功率は高くないですからねぇ。場合によっちゃあ馬とかのが早いですよ」

「それは、自分は格が違うんだという自慢?」

「事実を述べてるまでですよ」


 笑顔でそう嘯くエッド。誤解を生みがちな言葉選びはエッドの常でもあるし、その実力を知っていて、それを当てにしている身として、それ以上言えることはエリシュカには無かった。


 気を取り直して、リーヴェンデッテ最南端に広がる街・クラストフォルクを改めて眺める。
 絵や物語の中でしか知らない街であるので感慨を覚えないわけではないが、今はそれどころではない。さっさと割り切ることにして、エリシュカは思考を切り替える。

 夜半もいいところであるからして、街自体は寝静まっていた。
 エリシュカがやろうとしていることに街の人々との接触が必須だったならば、朝まで待たねばならないところだったが――夜に関わらず移動を強行したことからわかるように、そうではない。
 そもそも、究極的に言えば、街そのものに用があるわけでもなかった。


「エッド。最南における『儀式の場』がどこかは、わかっているのよね?」

「ええ、もちろん。、俺はその場を見ていませんが、その後調べに調べましたからねぇ」

「それじゃあ、案内して。それからどうするかについても、貴方の方がよく知っているでしょうから任せるわ」

「信頼していただけて、道具冥利に尽きるってもんですね」

「貴方を信頼できなくなったら、それは私の終わりと同義だもの」

「……俺としちゃあ嬉しいオコトバですが、嬢さんはもうちょっと、周囲に目を向けてあげた方が良かったかもしれませんよ」


 珍しく淡い苦笑を浮かべたエッドの言に、エリシュカは押し黙った。


(……そんなの、目が覚めてから何度も思ったわ)


 心の中で独り言ちる。
 けれどそれは、返らない過去の仮定の話であり、今この段階に至っては言い訳にしかならないから、口にはしない。

 だからただ、先を促す言葉だけを告げる。


「行きましょう。……私が目覚めたことを知っても計画を止めない|あの馬鹿(レナク)も、そうすれば思い知るでしょう。全部、余計なお世話なんだってことを」


 「辛口ですねぇ、嬢さん」とエッドが軽口を叩く。
 その『いつも通り』に安心させられる自分が悔しくて、けれどそれを自覚できることに安堵もして、エリシュカは息を吐いた。

 予定は狂えど、やることは変わらない。ただ少し、早まっただけ。
 そう自分に言い聞かせて、エリシュカはエッドの先導に従って歩き出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...