【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月

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本編2

8話

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「見事な人心掌握ですね。セト騎士団長も同じように懐柔したんですか?」


 アルドが見えなくなり、しばらく。すっと近づいてきた影に、フィオラは警戒することなく返す。


「しょうあくできていたように見えていたなら何よりだ。あんな幼い子どもをだましているのは気が引けるが。……あと、ルカをかいじゅうした覚えは……」


 ない、と言いたいが、親友の自分への好意がちょっと普通の域にないことをフィオラはもう知っている。否定の言葉を続けられなかったフィオラに、しかしその人――サヴィーノ魔法士はそこを追及はしなかった。


「良心なんて捨てておいた方がいいですよ。この国では。そもそも仕事なんですし」

「……それは、出身者からの助言か?」

「そう思ってもらってもいいです。あと、子どもに同情するのは好きにすればいいですが、情は移しすぎないように。あんな子どもは国中にごろごろいます。全員を救える手立てがないのなら思い入れしないことですね」


 言われて、既にアルドに多分に情が湧いている自覚のあったフィオラは押し黙る。
 そんなフィオラをサヴィーノ魔法士はちらりと見下ろし、また視線を前に戻した。


「それにあの子どもはまだマシな方でしょう。この地域にしては」

「……そうなのか」

「頻繁に暴力を受けている様子もないですしね。『普通に厄介者扱いされている魔法使いの子ども』の範疇ですよ」

「そんなに、この地域の魔法使いの扱いは悪いのか?」

「この国でも特に悪い方のようですね。連続して『悪い魔法使い』が出たのも致し方ない、と裏界隈では言われているようです」

「それほどにか……」

「『魔法を使うと悪い魔法使いを呼ぶ』という言い伝えがある程度には、この地域では昔から『悪い魔法使い』が出ているようですからね」

「その言い伝えの裏はそういうことか……」


 言い伝えについてはフィオラも引っかかっていたが、なるほど、そういう根拠だったのかと納得する。言い伝えには突飛なものもあるが、真実が隠されていることもある。それが『魔法使い』への待遇の悪さだというのは苦いものだが。


「……何か魔法をつかっているな? なんの魔法だ?」


 魔法の気配を感じるが、何の魔法かまではわからないので訊ねる。
 サヴィーノ魔法士は何ということもないように答えた。


「姿を消す魔法です。魔法の気配も極力消しているはずですが、さすがにこの距離ではわかってしまいますか」

「待て。ということは私は今ひとりごとを言っているように周りには見えるのか?」

「消音の魔法も同時展開してますからせいぜいひとりでぱくぱく口を動かしている変な子どもくらいのものだと思いますよ」

「それはそれでどうかと思うんだが」


 先に言ってくれればフィオラだってもう少し周りに不審がられない挙動をとれたというのに。
 しかし、サヴィーノ魔法士が周りを憚ることなく声をかけてきた時点で気付くべきだったとも思える。とりあえずフィオラは自省してそれについては終わりにした。


「じょうほうを集めに出ていたと聞いたが、何かせいかはあったか?」


 唇の動きを最小限に訊ねると、サヴィーノ魔法士は「それについてはガレッディ副団長もいる場で話しますので」と返してきた。確かに説明が二度手間になるのでその方がいいだろう。

 話すこともなくなったので、サヴィーノ魔法士を観察する。これも傍から見たら『宙を見つめる不審な子ども』になるのかもしれないが今更である。
 魔術で只人と変わらないふうになっているとはいえ、彼は絶世の美形である。否、美形という言葉では足らないくらいの至高の芸術品のような外見をしている。
 しかも今はシュターメイア王国にいる時とは違って、ある意味で美形さを中和してくれていた襤褸のローブでなく、くたびれてもいない普通の衣服を纏っているため、その美しさが存分に発揮されている。

 現在は姿消しの魔法を使っているから騒ぎにはならないで済んでいるが、昨日はどうだったのだろう、とふと思う。ガレッディ副団長が特に何も言わなかったということは何事もなかったのだろうが、何故だろう。
 しばし考えてみたが、もちろん正解はわからない。住居に着くまでもう少しあることだし、訊いてみることにする。


「その……気を悪くしたらもうしわけないが。その外見で、昨日は騒ぎにならなかったのか?」

「対策をしていないわけがないでしょう。印象を変える魔法を使っていました」

「そうか。サヴィーノ魔法士の出身地はここから近いのか?」

「近かったら印象を変える魔法も意味がなくなると思いませんか? 『設定』も嘘だとわかりますし。それくらい察せる頭をしているかと思っていたんですが、見込み違いだったようですね」

「す、すまない……」


 そうだった。この件で会話を交わすようになってからこっち、あまり毒舌感がなかったので忘れかけていたが、サヴィーノ魔法士は結構(で済む範疇かどうかは不明だが)舌鋒が鋭いのだった。
 深く考えずに質問するのはもうやめよう、と思うフィオラ。

 そこからは無言のまま、住居へ着く。少し暗くなってきたからか、もう家の明かりは点いていた。ガレッディ副団長は戻っているらしい。
 周囲に人がいないことを確認したサヴィーノ魔法士が先に扉を開いて、フィオラはそれに続いて家の中に入ったのだった。


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