33 / 75
本編2
9話
しおりを挟む「フィー! おかえり!」
そしてフィオラを迎えたのは、先に入ったサヴィーノ魔法士を完全に無視したそんな声だった。
おまえそれはちょっとサヴィーノ魔法士に失礼だろう、とか、まるで家の住人みたいに声をかけてきているがそうじゃないだろうとかいろいろ言いたいことはあったものの。
「おまえ、なんでここにいるんだ……」
真っ先に出たのは、そんな言葉だった。
「フィーがこの件に当たってるって聞いたから」
そして当たり前の顔をしてそんなふうに答えたのは、他国の式典に出席していたはずの親友――そしてガレッディ副団長の上官であるルカ=セト騎士団長様である。
確かに他国での式典は終わったはずだが、だからって騎士団長がわざわざ、副団長が当たっている案件に来るのはおかしい。ふつうにおかしい。
「おまえ、国での仕事は……」
「それはオレが調整しておいたんです。団長、きっとクローチェさん追いかけて来るだろうな~と思って!」
「オレの読み、大当たりでしたね!」とにこにことガレッディ副団長が言った。それでいいのか騎士団。
フィオラの右斜め前に立つサヴィーノ魔法士から心の底からあきれたというような溜息が聞こえた気がする。
そしてフィオラも頭が痛い。あきれてものが言えないとはこういうことかという気持ちだ。
そんなフィオラに満面の笑みを浮かべながら近づいてきたルカは、自然な動作でフィオラを抱き上げた。
「フィーの傍にずっといられなかったのは悲しいけど、また子ども姿のフィーが見られたなら遅れてきた甲斐があったな」
「またおまえはそういうことを……というかだきあげるな。子どもあつかいするな」
「そう言われても、フィーの可愛らしさを前に抱き上げないなんて無理だよ」
「まっすぐな目で言うせりふか?」
腕に腰かけさせられながらフィオラは溜息をついた。この友人が、フィオラの子ども姿を殊の外気に入っていることは、以前の出来事でわかってはいる。さらに何かを吹っ切ってしまった感がありありだが。
「というか前も言ったが、このすがたの私をかわいいとか言う思考がわからない。じぶんで言うのもなんだが、とんでもなくかわいげがないと思うぞ、私は」
「フィーはフィーであるというだけでかわいいよ」
規格外に整った顔を持つ人間に、真理を説くようにそんなことを言われても嬉しくもなんともないし理解の外すぎる。
「……そのせりふは、私が本来はおまえとどうねんだいでとしそうおうのすがたを持っていることを思い出してから口にするかかんがえてもらいたいものだな」
「元の姿のフィーも、種類は違うけれどかわいいと思っているよ。だから今のフィーはなおさらかわいい」
「おまえのしんびがんのしんぱいをするのが先だったか……」
フィオラはどうしてこうなった、と思わずここに至るまでの経緯を思い返してしまった。しかし、そこにこの友人がさも当たり前の顔をしてラゼリ連合王国にまでやってくる理由はまったく見当たらなかった。……あまり認めたくないが、あるとしたらフィオラがここにいることくらいだった。
たったそれだけで騎士団長の一人が仕事をほっぽって(ガレッディ副団長は調整したと言っていたが、逆に言えば調整しなくてはならないくらいには仕事はちゃんとあるのだ)やってくるのは本当にどうかと思うが、この友人のこれまでの言動を考えるとやらかしかねなかった、自分の考えが甘かった、という気持ちになるのは何故だろう。
「俺の審美眼がおかしいみたいな言い方は心外だな。フィオラはかわいいよ」
「そうっすよ、クローチェさんはかわいいっすよ! 子どもの姿は特に」
なんとガレッディ副団長まで耳を疑うことを言い出した。どう考えてもそっちの目がおかしいと思うが、二対一になってしまうとちょっと認識が揺らぐ。思わず助けを求めるようにサヴィーノ魔法士を見遣ってしまったが、彼はあきれの眼差しでこちらを(フィオラも含めて見られるのはとても心外なのだが)見ているばかりである。
フィオラはとりあえず、二人の言葉を聞かなかったことにすることにした。
「……ルカ、おまえもこの案件に当たるということでいいのか?」
「そうだよ。この件については俺も気にかかっていたし」
「じゃあ、じょうほうの整理といこう。……サヴィーノ魔法士も、ガレッディ副団長も、それでいいだろうか?」
友人に抱きかかえられながらという何とも締まらない体勢で訊ねると、二人はそれぞれ頷いたので、少し早い食事をしながらの情報整理ということになった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる