59 / 75
番外
薔薇とケーキと
しおりを挟む「フィー、これ、おみやげ」
「……こっちは箱からして甘味だろうが、薔薇? 一体どうしたんだ」
「中身はケーキなんだけど、それ買ったところの近くの花屋さんが薔薇大量入荷してて。綺麗だったから買ってきた。フィーの部屋、殺風景だから花とかあってもいいかなって」
「殺風景についてはお前に言われたくはないが……。まあ、ありがたくもらっておく。ケーキの方はどうせお前も食べるつもりで買ってきたんだろう?」
ご名答、とルカが満面の笑みで頷いたので、フィオラは少し呆れつつ、ルカに椅子を勧めた。
もっぱらこの友人が来るときにばかり消費される、これまたこの友人がいつだかに持って来た茶葉を使ってお茶を淹れる。
「ケーキ、新作が出てたからそれにしてみたんだ。フィー、食べ物の好き嫌いはなかったよね?」
「ああ。お前もだろう」
「二種類あったからどっちも買ってきたよ。半分こしよう」
この歳の男が友人と『ケーキを半分こ』するのは普通なのだろうかとちょっとばかり疑問に思ったが、まあルカだからな……と思考を放棄した。
さすがにフィオラもこの歳となると友人間での『半分こ』は気恥ずかしい気がするが、よく考えるとフィオラが子どもの姿になった事件以降、食事に関しては似たようなことをわりとやっていることに気づいてしまったからだ。
子どもの姿になって以降、ルカとの距離感がちょっとおかしくなってないか? という疑問も湧き上がったが、とりあえずなかったことにする。掘り下げてもろくなことにならなそうだったので。
「一つは季節の果物のタルトで、もう一つはチョコレートのケーキだよ。どっちもつやつやしておいしそうだったんだ」
「そうか」
「ところでフィーの部屋花瓶あったよね? 俺が前にあげたやつ」
「ああ、お前が花を大量にプレゼントされて、それを知り合いにおすそ分けしてた時のやつがな」
「あの時は大変だった……。じゃなくて、どこにしまってる? 俺が飾っておくよ」
「それなら──」
記憶を辿り花瓶の在処を伝えると、ルカは楽し気に花を飾り始めた。鼻歌まで歌って、やたらと機嫌がよさそうだったので、フィオラは内心首を傾げる。
「……なんだか妙に機嫌がいいな。何かあったのか?」
「え? そうかな。自覚はなかったけど……」
確かにルカはフィオラのところに来るときは大抵こんなもののような気もする。
フィオラはそれ以上追及はせずに、淹れたお茶をルカと自分の席の前に置いた。
「ありがとう。花も綺麗に飾れたし、ケーキ食べようか。……ちなみに今日はちゃんと夕飯食べたよね?」
「最近はお前がうるさいからな。一応食べた」
「一応ってところがちょっと気になるけど……まあいいや。はい、これフィーの分」
面倒さが勝って保存食を少し齧っただけだというのは心にしまっておき、ルカが手ずから半分にしたケーキを受け取る。
その拍子にルカが窓際に飾った薔薇が目に入り、言葉が滑り落ちた。
「……綺麗だな」
「うん。本当に綺麗だよね、このケーキ。職人さんってすごいよね」
ケーキに対しての賞賛だと思ったらしいルカの相槌に、訂正するほどではないかと、「そうだな」とだけ返す。
他愛ない話をしながら、季節の果物のタルトも、新作のチョコレートケーキも堪能し、お茶で一息をつく。
その際にまたルカとその背後の薔薇が目に入り、なんとはなしにその本数を数えた。
(13本とは、また半端な数字な気がするが……)
何か意味があるのだろうか、と思いつつ、ルカの話す内容に相槌を打つ。
基本的に職場と自室との往復しかしない生活なので、ルカからもたらされる情報には助かっている面もあるのだ。本人には言わないが。
(言ったら、もっと張り切っていろいろと情報収集を始めそうな気もするし……)
そしてそれが何らかのトラブルの元になりかねない気がする。
自分も、自分の周りにも、できるだけ平穏な日常が流れてほしいと思っているので、ルカの身の回りに何事か起こる火種を作る原因にはなりたくない。そう考えること自体が、ちょっと自意識過剰かもしれないとは思いつつ。
諸々の事件で休暇をとった自分はともかく、ガレッディ副団長がなかなか休暇を取らないので困ってる、と愚痴るルカのカップが空になりそうなのを見てとって、追加のお茶を淹れるためにフィオラはポットを手に取ったのだった。
+ + + + + +
薔薇の本数は、ルカの願掛けだったり。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる