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本編3
2話(ルカ寄り視点)
しおりを挟む「フィーが浚われた……!?」
その報を聞いて、ルカ=セトの頭に過ぎったのは、初めてフィオラが小さくなった時に起こった事件だった。
自分に想いを寄せる人間が、『悪い魔法使い』――『黒の聖衣の魔法使い』、ディゼット・ヴァレーリオに唆され、フィオラを害したという出来事は、ルカにとって苦い思い出である。
ルカの元にその報を持ってきたのは、この国の魔法使いの長、ディーダ・ローシェ魔法士長だった。魔法士長直々というところに重大性を感じて、ルカは問う。
「また、『悪い魔法使い』に唆された人間が……?」
魔法使いの宿舎を始めとする、この国の重要な施設は、ローシェ魔法士長の結界により、『悪い魔法使い』が入れないようになっている。
だからこそのルカの問いに、ローシェ魔法士長は、思案気に目を伏せた。
「それなんだけどね、どうやら相手は魔法使いらしい」
「……『悪い魔法使い』が、何らの手段で結界を通り抜けたということですか?」
もしそうだとすると、魔法士長による結界に頼り切っていたこの国には激震が走る。
しかし、ローシェ魔法士長は首を横に振った。
「いや、『悪い魔法使い』がここに入れないという事実には変わりない」
「……では、『善い魔法使い』が?」
「そういうことになるだろうけど……少し、引っかかる」
そう言って、ローシェ魔法士長はルカを伴って、フィオラが消えたという場所――魔法使いの宿舎の応接室へと向かった。
ルカが以前見たときと変わらず、誰かが暴れたような形跡も、争ったような形跡もないそこに、ルカが足を踏み入れた瞬間――。
「! 止まれ、セト騎士団長!」
「……!?」
誰かが文字を描くかのように、宙に文章が浮かび始めた。
『ルカへ
フィオラ・クローチェは預かった。
無事に帰してほしければ、祖国に来るように。
余人を連れてきた場合はフィオラ・クローチェの安全は保障しない』
「こ、れは……」
懐かしい祖国の文字で綴られたそれに呆然とするルカの目の前で、文章は一点に収束し、何かが床に落ちる。
視線で追った先にあったのは、一つのピアス。
「……置き土産、というところかな。セト騎士団長がここに足を踏み入れた時にだけ、発動する伝言か」
ローシェ魔法士長の言葉も認識できないほどに狼狽しながら、ルカは床に膝をつき、ピアスを拾う。
ルカはそのピアスに見覚えがあった。――自分がよく知る人物のものだと、一目見た瞬間にわかっていた。
それでもそれが信じられなくて、手に取ったそれを食い入るように見つめる。どこか、自分の知るものと違うところがあることを祈って。
けれど現実は無情で。
それがルカのよく知るものだと、決定づけるだけに終わる。
祖国の意匠。そして、彼の瞳によく似た色の石に、そこに刻まれた傷。
「リ、ト……?」
その名を、口にした自覚すらなく。それほどの衝撃に固まったルカに、一部始終を見ていたローシェ魔法士長が目を細める。
「――ここを訪れた、クローチェの客人は『リト=メルセラ』と名乗ったというけれど……その情報は、まだ君に渡してはいなかったね。……察するに――知り合いかい?」
「そんな……そんな、はず――あいつがここに、入れるはずが……っ」
動揺し、要領を得ないルカの言葉から、ローシェ魔法士長は過不足なく事実を汲み取る。
「つまり、キミに伝言とそのピアスを残した人物は、『悪い魔法使い』のはずなんだね? ――なるほど、そうか……」
ピアスから目を逸らせないルカをよそに、ローシェ魔法士長は淡々と事実を整理する。
「ここに『悪い魔法使い』が入れない事実は変わっていない。それなのに、『悪い魔法使い』であった人物がここに来た。……つまり、その人物は今、『悪い魔法使い』ではない」
ローシェ魔法士長の唇が歪む。それはもしかしたら、笑みを形作ったのかもしれなかった。
「――やってくれるな、ディゼット……!」
低く呟かれた言葉は、ルカの耳には届かなかった。
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