【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月

文字の大きさ
63 / 75
本編3

2話(ルカ寄り視点)

しおりを挟む


「フィーが浚われた……!?」


 その報を聞いて、ルカ=セトの頭に過ぎったのは、初めてフィオラが小さくなった時に起こった事件だった。
 自分に想いを寄せる人間が、『悪い魔法使い』――『黒の聖衣の魔法使い』、ディゼット・ヴァレーリオに唆され、フィオラを害したという出来事は、ルカにとって苦い思い出である。

 ルカの元にその報を持ってきたのは、この国の魔法使いの長、ディーダ・ローシェ魔法士長だった。魔法士長直々というところに重大性を感じて、ルカは問う。


「また、『悪い魔法使い』に唆された人間が……?」


 魔法使いの宿舎を始めとする、この国の重要な施設は、ローシェ魔法士長の結界により、『悪い魔法使い』が入れないようになっている。
 だからこそのルカの問いに、ローシェ魔法士長は、思案気に目を伏せた。


「それなんだけどね、どうやら相手は魔法使いらしい」

「……『悪い魔法使い』が、何らの手段で結界を通り抜けたということですか?」


 もしそうだとすると、魔法士長による結界に頼り切っていたこの国には激震が走る。
 しかし、ローシェ魔法士長は首を横に振った。


「いや、『悪い魔法使い』がここに入れないという事実には変わりない」

「……では、『善い魔法使い』が?」

「そういうことになるだろうけど……少し、引っかかる」


 そう言って、ローシェ魔法士長はルカを伴って、フィオラが消えたという場所――魔法使いの宿舎の応接室へと向かった。

 ルカが以前見たときと変わらず、誰かが暴れたような形跡も、争ったような形跡もないそこに、ルカが足を踏み入れた瞬間――。


「! 止まれ、セト騎士団長!」

「……!?」


 誰かが文字を描くかのように、宙に文章が浮かび始めた。


『ルカへ

 フィオラ・クローチェは預かった。

 無事に帰してほしければ、祖国に来るように。

 余人を連れてきた場合はフィオラ・クローチェの安全は保障しない』


「こ、れは……」


 懐かしい祖国の文字で綴られたそれに呆然とするルカの目の前で、文章は一点に収束し、何かが床に落ちる。
 視線で追った先にあったのは、一つのピアス。


「……置き土産、というところかな。セト騎士団長がここに足を踏み入れた時にだけ、発動する伝言メッセージか」


 ローシェ魔法士長の言葉も認識できないほどに狼狽しながら、ルカは床に膝をつき、ピアスを拾う。
 ルカはそのピアスに見覚えがあった。――自分がよく知る人物のものだと、一目見た瞬間にわかっていた。
 それでもそれが信じられなくて、手に取ったそれを食い入るように見つめる。どこか、自分の知るものと違うところがあることを祈って。

 けれど現実は無情で。
 それ・・がルカのよく知るものだと、決定づけるだけに終わる。
 祖国の意匠。そして、の瞳によく似た色の石に、そこに刻まれた傷。


「リ、ト……?」


 その名を、口にした自覚すらなく。それほどの衝撃に固まったルカに、一部始終を見ていたローシェ魔法士長が目を細める。


「――ここを訪れた、クローチェの客人は『リト=メルセラ』と名乗ったというけれど……その情報は、まだ君に渡してはいなかったね。……察するに――知り合いかい?」

「そんな……そんな、はず――あいつがここに、入れるはずが……っ」


 動揺し、要領を得ないルカの言葉から、ローシェ魔法士長は過不足なく事実を汲み取る。


「つまり、キミに伝言とそのピアスを残した人物は、『悪い魔法使い』のはずなんだね? ――なるほど、そうか……」


 ピアスから目を逸らせないルカをよそに、ローシェ魔法士長は淡々と事実を整理する。


「ここに『悪い魔法使い』が入れない事実は変わっていない。それなのに、『悪い魔法使い』であった人物がここに来た。……つまり、その人物は今、『悪い魔法使い』ではない」


 ローシェ魔法士長の唇が歪む。それはもしかしたら、笑みを形作ったのかもしれなかった。


「――やってくれるな、ディゼット……!」


 低く呟かれた言葉は、ルカの耳には届かなかった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...