1 / 6
1.予言と『賢者』と『賢者』の弟子
しおりを挟む
ある日、魔術国家トートゥルムの『予言者』が、王都に訪れる危機を謳いあげた。
「翼あるものによって、王都リシュタは危機にさらされる」
しかし同時に、それと対になる予言も伝えた。
「『賢者』の手助けを得れば、その危機から脱することができるだろう」
――そうして、『賢者』の元に、王都への召集令状が届いたのだった。
* * *
「僕は行かないよ」
魔術国家トートゥルムの端の端の端、つまりは辺境にある『賢者』の家の中。
王都から届いた召集令状をつまみ上げ、放り投げた『賢者』がそう言ったので、彼の弟子であるアマネ=アステールは首を傾げた。
「それで済むものなんですか?」
「済むね。僕だから」
投げられた召集令状を拾い上げ、アマネは中身に目を通す。
「でも、なんか『絶対来い、絶対来い、来てくださいお願いします、どうかどうか何卒』って念を感じますよ。王都の危機らしいですし」
「うん。だからアマネが行って」
「は?」
当然のように言われて、アマネは眉根をひそめた。そんなアマネに、いつもの飄々とした態度で、『賢者』は告げる。
「予言はあくまで『賢者の手助けを得れば』って文言だったし、僕自身が行く必要はないってこと」
「ええ……。そんな理屈あります……?」
「予言ってのはそんなものさ。――もちろん、アマネにも利益はある。あるからこそ言ってる」
「私に、王都に行くことで何の利が……?」
「王都に、僕の代理で行くとなれば『王立魔術研究院』の蔵書――研究資料の閲覧ができる。あそこには魔法の資料があるよ」
含みのある笑顔での『賢者』の言葉に、アマネは目を瞬いて、それからこれみよがしに溜息をついたが――その瞳は爛々と輝いていた。
「……それなら、行きます。あなたの代理なんて、とっても面倒そうですけど!」
「アマネならうまくさばけるよ。だって君、大体がどうでもいいだろう?」
「……否定はしません」
「そこでちょっと迷うところが、アマネは人間味があっていいね」
「人間やめた人が言うと違いますね」
「人間やめたというか、人間の枠から外されたんだけどね。まあ、それこそどうでもいい」
『賢者』は指を一振りして二羽の魔術の鳥を出し、また一振りして虚空へと飛ばした。家の壁に当たる寸前でその鳥は消え――それが王都へと一気に転移したのだと察したアマネは、相変わらずこの人は化け物だな、と思った。術式もろくに組まずに、魔力を編んだだけでそれを為せるのが、『賢者』が『賢者』たる所以ではあるのだが。
「王都での衣食住は知り合いに頼んでおくから、まあ適当にやって」
「適当にもほどがありません?」
「僕だからね」
それもそうかと納得してしまったので、アマネはそれ以上の問答を諦めて、最低限の荷造りをしに自室へと向かったのだった。
「翼あるものによって、王都リシュタは危機にさらされる」
しかし同時に、それと対になる予言も伝えた。
「『賢者』の手助けを得れば、その危機から脱することができるだろう」
――そうして、『賢者』の元に、王都への召集令状が届いたのだった。
* * *
「僕は行かないよ」
魔術国家トートゥルムの端の端の端、つまりは辺境にある『賢者』の家の中。
王都から届いた召集令状をつまみ上げ、放り投げた『賢者』がそう言ったので、彼の弟子であるアマネ=アステールは首を傾げた。
「それで済むものなんですか?」
「済むね。僕だから」
投げられた召集令状を拾い上げ、アマネは中身に目を通す。
「でも、なんか『絶対来い、絶対来い、来てくださいお願いします、どうかどうか何卒』って念を感じますよ。王都の危機らしいですし」
「うん。だからアマネが行って」
「は?」
当然のように言われて、アマネは眉根をひそめた。そんなアマネに、いつもの飄々とした態度で、『賢者』は告げる。
「予言はあくまで『賢者の手助けを得れば』って文言だったし、僕自身が行く必要はないってこと」
「ええ……。そんな理屈あります……?」
「予言ってのはそんなものさ。――もちろん、アマネにも利益はある。あるからこそ言ってる」
「私に、王都に行くことで何の利が……?」
「王都に、僕の代理で行くとなれば『王立魔術研究院』の蔵書――研究資料の閲覧ができる。あそこには魔法の資料があるよ」
含みのある笑顔での『賢者』の言葉に、アマネは目を瞬いて、それからこれみよがしに溜息をついたが――その瞳は爛々と輝いていた。
「……それなら、行きます。あなたの代理なんて、とっても面倒そうですけど!」
「アマネならうまくさばけるよ。だって君、大体がどうでもいいだろう?」
「……否定はしません」
「そこでちょっと迷うところが、アマネは人間味があっていいね」
「人間やめた人が言うと違いますね」
「人間やめたというか、人間の枠から外されたんだけどね。まあ、それこそどうでもいい」
『賢者』は指を一振りして二羽の魔術の鳥を出し、また一振りして虚空へと飛ばした。家の壁に当たる寸前でその鳥は消え――それが王都へと一気に転移したのだと察したアマネは、相変わらずこの人は化け物だな、と思った。術式もろくに組まずに、魔力を編んだだけでそれを為せるのが、『賢者』が『賢者』たる所以ではあるのだが。
「王都での衣食住は知り合いに頼んでおくから、まあ適当にやって」
「適当にもほどがありません?」
「僕だからね」
それもそうかと納得してしまったので、アマネはそれ以上の問答を諦めて、最低限の荷造りをしに自室へと向かったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
ベテラン精霊王、虐げられ皇子の子育てに励みます
はんね
ファンタジー
大陸で最も広大な領土と栄華を誇るアストラニア帝国。
その歴史は、初代皇帝ニコラスと精霊王バーティミアスが“疫病王ヴォラク”を討ち倒したことから始まった。ニコラスとバーティミアスは深い友情を結び、その魂を受け継ぐ皇子たちを永遠に見守り、守護する盟約を交わした。
バーティミアスは幾代もの皇帝を支え、帝国は長き繁栄を享受してきた。しかし、150年の眠りから目覚めた彼の前に現れた“次の皇帝候補”は、生まれたばかりの赤ん坊。しかもよりにもよって、十三番目の“虐げられ皇子”だった!
皮肉屋で老獪なベテラン精霊王と、世話焼きで過保護な月の精霊による、皇帝育成(?)奮闘記が、いま始まる——!
人物紹介
◼︎バーティミアス
疫病王ヴォラクを倒し初代皇帝ニコラスと建国初期からアストラニア帝国に使える精霊。牡鹿の角をもつ。初代皇帝ニコラスの魂を受け継ぐ皇子を守護する契約をしている。
◼︎ユミル
月の精霊。苦労人。バーティミアスとの勝負に負け、1000年間従属する契約を結びこき使われている。普段は使用人の姿に化けている。
◼︎アルテミス
アストラニア帝国の第13皇子。北方の辺境男爵家の娘と皇帝の息子。離宮に幽閉されている。
◼︎ウィリアム・グレイ
第3皇子直属の白鷲騎士団で問題をおこし左遷されてきた騎士。堅物で真面目な性格。代々騎士を輩出するグレイ家の次男。
◼︎アリス
平民出身の侍女。控えめで心優しいが、アルテミスのためなら大胆な行動に出る一面も持つ。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる