±Days 四馬鹿な幼馴染みと巻き込まれ相談役の平凡ではない日常

空月

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第1章 無理やり転校編

第10話 たかが服、されど服

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 何をどうしたらそんなに早く用意できるのか――というか元々用意してたんじゃないかと思うくらいの早さで渡されたこの学園の『標準服』とやらを着てみたわけだけど。

「おー、標準服も似合うじゃん、嬢さん」

 別室で着替えて教室に戻った途端、三笠さんがそうにこやかに言ってきた。なるほど、臆面もなく異性を褒められるタイプらしい。
 ところでこの人いつまでいるんだろう。

「どうもありがとうございます。お世辞でも悪い気はしませんね」

 我ながら可もなく不可もなくな容姿の自覚はあるので自惚れはしないけど、実際褒められて悪い気はしない。

「いやいやいや、お世辞じゃないって」
「ではそう思っておくことにします」

 お約束の流れに社交辞令の笑顔で返す。さすがに真に受けたりはしない。
 三笠さんはちょっと呆れたような顔をした。

「……嬢さん、なんつーか結構捻くれてない?」
「ありがとうございます」
「いや、褒めてねぇよ?」
「知ってますけど」

 私にとってその評価を受けるのは礼を言うに値するというだけなので、褒められただなんてそんな奇怪な勘違いはしていない。

「……あ、そう」
「っていうか君、何でまだここに居るわけ?」

 肩を竦めた三笠さんに、あからさまに棘を含んだ声音でカンナが問う。いや、問いというよりもう非難してるなこれ。

「居ちゃ悪いってのか?」
「悪い。邪魔。目障り。君クラスも学年も違うんだからさっさと自分のところ帰りなよ」
「うわ、ヒデェ言われよう。いいじゃねぇか別に。もうちょっと嬢さんと喋りたいだけだって」
「え」

 予想外の流れ弾が飛んできて、思わず素で声が漏れた。
 聞きとがめた三笠さんがそこはかとなく恨みがまし気な目で見てくるのに、そっと視線をずらす。

「……嬢さん、その反応はいくらなんでも俺傷ついちゃいそうなんだけど」
「それはすみません」

 素直な気持ちが漏れただけではあったけど、一応謝っておく。

「今の明らかに言っただけだよな?」
「まあそうですけど。これ以上の厄介事も厄介な人間もごめんなので申し訳ないですがお引き取りください間に合ってますから」
「……ノンブレスで言い切っちゃうほど迷惑か……」

 それはちょっと違う。首を横に振って否定の意を伝えて、口を開く。

「迷惑というかお断りなだけです」
「それ、どう違うわけ?」

 三笠さんが不思議そうに首を傾げた。しかし堪えないなこの人。

「『迷惑』だとマイナス感情を含みますが、『お断り』ならブラスマイナスゼロな感じです」
「なるほど。とりあえず、『お断り』の方がマシなわけか」
「どちらにしろ拒絶の意ではありますが」

 納得したように頷いているのに注釈を入れると、がっくりと肩を落とされた。わりと挙動がオーバーだよね三笠さん。

「……いやそこは敢えて明言しないで欲しかったんだけど。傷つくってマジで」
「そう言われても。偽りのない本心ですし」
「……追い討ち?」

 頭一つ以上高い目線なのに上目遣いで見てくるという高等技術を披露されても反応に困……らないな。ユズとかレンリがよくやるな。

「そんなつもりはなかったんですが、結果的にそうなりましたね」

 そんなやりとりをしていたら、くい、どころじゃなくぐいっと腕を引かれた。視線を向ければ訴えかけるような瞳とかち合う。言わずもがなレンリだ。

「…………」
「? 今度はどうしたの、レンリ」
「………………」
「そんな目で見られても」

 じっっっっと物言いたげな目が見つめてくるのに肩を竦める。部外者がいるからって言語でのコミュニケーションを放棄しないでほしい。

「はいはいはーい!」

 と、横合いから元気のいい声が実体を伴って割り込んできた。とりあえず挙手は別に要らない。

「いきなり何、ユズ」
「代弁! レンリはオレ達ほっといてソイツと話してるのが寂しいんだと思います!」
「それはあんたじゃなくて?」
「オレもだけど! ほら、レンリも否定してないし!」
「…………」

 力いっぱい肯定するのはどうなんだって感じだ。そしてレンリは否定しないのか。どうしちゃったの、子ども返りか何か?

「いや、この歳になってそんなことで寂しがるとかどうかと思うんだけど」
「そういうのに年齢は関係ないと思いますよ? 自分が好意を持つ相手に自分を見ていて欲しいと思うのは、至極当然のことだと思いますし」

 基本フォロー役な立ち位置に違わず、ミスミが二人を擁護する……のはまあわかるんだけど。

「なんかその言い方もどうかと思うんだけど……っていうかミスミ、さりげなく――ええと三笠さんとの間に割り込んでくるってことは、あんたも寂しいだの何だのって思ってるわけ?」

「ええ、もちろんです」

 完璧な笑顔で肯定された。ちょっと待て。

「そこはそんなイイ笑顔で答えるところじゃないと思うんだけど」
「それは僕たちが決めることだよ。……うん、サイズもぴったりみたいだね。特注で作らせた甲斐が――」
「わわ、ちょ、カンナ!」

 とっくりと着替えた私を見つめてたカンナから、何か今聞き捨てならない単語が聞こえたな。

「……特注?」
「き、聞き間違いですよ、聞き間違い」

 そんな見え見えの誤魔化しが通用すると思ってるなら相当頭がおめでたいと思う。

「その反応がむしろ確信に至らせてるから。……なんか異様にサイズぴったりだと思ったら、これ特注なの? 何がどう特注?」

 既製品にしては袖が余るだとかウエスト調整が必要だとかそういうことにならなかったと思ったら。
 しかも隠したがるってことは、『余計な真似』の自覚があってやらかしたのかこいつら。

「あー、えっと、それは、その……」
「ハキハキ喋れカンナ」

 歯切れの悪いカンナにキリキリ吐かせるべく発破をかけていたら、ちょいちょい、と肩をつつかれた。

「嬢さん嬢さん」
「何ですか。今取り込み中なんですが」
「うわ、冷たい視線。ちょっとクセになりそー」
「変態はお呼びではないので、お帰りはあちらですよ」

 よろしくない性格の上に変態とかちょっと救いようがないし関わりたくない。
 そう思っての言葉は、間髪入れずに前提を否定された。

「いやいやいや、そこは俺の名誉のために否定させて。変態じゃないから。ただの軽口だから」
「はあ。で、何ですか」

 本人の申告の真偽はともかく、三笠さんが変態か変態じゃないかに拘っていても話が停滞するだけなのでとりあえず促す。

「んー、いや、『特注』の意味、教えてやろうと思って」

 ……思わぬところから助け舟(?)が。

「……知ってるなら教えてください」

 ぶっちゃけ答えがわかればそれでいいので、三笠さんに向き直って請う。

「! そんな奴から聞くくらいなら僕が――」
「黙れカンナ。あんたの説明だとまた何か都合の悪いこと隠されそうだから三笠さんから聞く」

 そもそもカンナがさっさと答えなかったからこの流れになったわけで、つまり自業自得というやつだ。
 言い渋ってたところからして、第三者の情報提供の方が信憑性あるし。

「……っ」
「今回ばかりは仕方ありませんよ、カンナ。日頃の行いが悪かったんだと思って諦めましょう」
「実際悪いしね!」
「……ユズ?」
「え、何カンナ⁈ その目人殺せそうだよ⁉」
「いい加減、口は災いの元だって理解した方がいいですよ、ユズ」
「だ、だってホントのことじゃんー!」


 何やら騒いでるやつらを、三笠さんが面白いものでも見るように眺めて笑う。
 その笑みが何か含んでるっぽいからこそ、この人も曲者だろうなと思うわけだけど。

「いやー、アイツら面白いなー。嬢さんの前じゃいつもあんななワケ?」

 なのでそんなふうに問われても、素直に答えるつもりはない。というかこれ以上の脱線はごめんだ。

「……外野は放っておいて、説明してもらえます?」
「ああ、『特注』についてだったっけか」
「ついさっきのことを忘れないでください」

 「悪ィ悪ィ、」とまったく悪びれない様子で謝って、三笠さんは口を開いた。

「――この学園の標準服ってのはちょっと変わっててな。カタログから選ぶのとオーダーメイドがあるんだよ。カタログからだと、まあいくつかのサイズと多少のデザインを選べる。んで、オーダーメイドだと全身の詳細データからこまごましたとこまでサイズ合わせて作ってくれるのな。デザインも一点モノ。基本は変わんねぇけど」

「『標準服』なのにデザインが違うんですか?」
「まぁな。でもちゃんと全体で統一されるようにデザインされてるらしいぜ?」

 何それ。あんまり想像がつかないけど、まあ学園に所属している当人が言うんだからそういうものなんだろう。

「……『特注』というのは『オーダーメイド』ってことですか?」

「いや、それはまたちょっと違うっつーかなんつーか。……んー、わかり易く言やぁ、オーダーメイドの上級版ってとこだな。特別クラスの服にしか適用されてんの見たことねぇんだけど、あいつらの言い方だと嬢さんの標準服にも適用されたことになるな。オーダーメイドじゃ弄んない部分を弄ってるとかじゃねえかと思うけど。何せ標準服で『特注』ってのは初めて見るから詳しくはわかんねぇな」

「…………」

 思わず無言にもなるだろうこれは。

「……嬢さん?」

 怪訝そうに様子を伺ってきた三笠さんにお礼を告げて、またもやらかしてくれたらしいやつらに向き直る。
 
「…………何か弁解は? 馬鹿ども」
「い、いや、黙ってたのは悪かったですが、大きくは弄ってないですし、言わなければわかりませんよ?」

 口火を切ったのはミスミだった。フォロー役がしみついてるな本当。あと問題はそこじゃない。というか言わなくてもわかった人が真横にいるんだが。

「そ、そうそう! それに似合ってるし!」
「あー……その、オーダーメイドも特注もさして変わりはないからね?」
「いやあるだろ。標準服で頼もうとすると金額天井知らず――っつーか実質発注不可って聞いたぜ?」
「……へぇ」

 ……なるほど。そりゃあこいつらも隠そうとするだろう。

「……ああもうホント君出てってくれないかな」
「何でそう余計なこと言うかなっ?! オレたちに何か恨みでもあるの⁉」

 八つ当たり極まりないことを言っている二人はとりあえず置いといて、さすがに諦めて説明する気になったらしい残り二人を見る。先に口を開いたのはレンリだった。

「それ、標準服は……デザイナーの好意、だから……」
「? 好意?」

 好意ってなんだ。というかデザイナーって誰だ。面識ない人間に好意を向けられる覚えはない。
 首を傾げたのと同じタイミングで、ミスミが補足してきた。

「この学校のデザイン関係は全て、カンナのお兄さんがやってるんですよ。あなた、気に入られてるでしょう?」

 デザイン、でカンナのお兄さんというと。

「……藍里さん?」
「……。そうだよ、あの愚兄」

 一通り八つ当たって気が済んだのかこっちに寄ってきたカンナが、深々と溜息をつきながら言った。
 いつものことではあるけど愚兄呼ばわりはどうなんだ。むしろおまえが愚弟だろというレベルで出来た人たちなのに。

「あんたたち、藍里さんまで巻き込んだわけ?」
「違うよ。何でわざわざ愚兄を引き入れる必要があるのさ。注文するときに勘付かれたんだよ。……知られたら面倒だから黙ってたのに」
「絶対あの人会いに来ますよね……親族特権フルに使って」
「変なとこ行動的だしテンションの上がり下がり激しいからあんまり近づきたくないのにっ」
「それに、いつも良いところとっていくから、嫌い……」

 示し合わせたかのようにネガティブな感想を口に出すのに呆れる。

「……あんたたち、藍里さんには結構世話になってた気がするんだけど」
「だから嫌なんだよ。逆らいにくいし」
「逆らわなきゃいいだけの話だよねそれ」

 逆らう前提って何するつもりだ。

「僕たちに関係ないならそうするんだけどね。……っていうか君、絶対僕たちが愚兄に来て欲しくない理由わかってないでしょ」

 何故か溜息を吐かれた。いや、こっちが溜息つきたいっての。
 しかし理由がわかってないって言われても。

「今ユズとレンリが言った通りじゃないわけ?」

 確かに藍里さんのテンションは独特だし、こうと決めたことに対してのアクティブさは他の追随を許さない感じではあるけど、別に多大な迷惑をかけてくるとか巻き込んでくるとかじゃないし、会うこと自体を嫌がるほどでもないと思うんだけど。
 だけど返って来たのは、肯定のようでいて何やら含みのある言葉だった。

「そうだけど、その根本的な理由っていうか……うん、いいよ。むしろわからないままで居てくれた方がいい気がする」
「その言い方ものすごくひっかかるんだけど」

 迂遠に匂わすくらいならはっきり口にしてほしい。イラッとする。

「いえいえ、そこは気にしないでください」
「そうそうスルースルー」
「……気にしない、で……」

 畳みかけられてまで追及しようと思うほど気になってるわけじゃないけど、とりあえず。

「あんたたちってこういうときばっか団結するのが性質悪いよなマジで」

 ついでに団結するときはろくなことを考えてないよな。転校に至るあれこれとかな。


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