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番外編
【最終話後】少しだけ先の話。
しおりを挟むその姿を見た瞬間、無意識に息を呑んでいた。
『十年前』にはまったく意識にも上らなかったのに――面差しが、似ている。
それはもしかしたら、見た目以上に纏う雰囲気によるものだったのかもしれない。秘め隠すことがある人間特有の――陰のようなものが、似通っていた。
相手もまた、リルの姿を目にして僅かに目を見開いた。予期していたけれど、予期していた以上に変わりがないことへのもののように思われた。
視線が合う。けれど互いに言葉は出ない。
自分よりも頭一つ分は小さかった少年が、並び立てば見上げなければ視線が合わないような立派な青年に成長している事実が、リルが体感した以上の年月が、彼にとっては過ぎ去ったのだという何よりの証左だった。
けれど見合っていても仕方がない。言葉を失ったままの青年――成長したアル=ラシードを前に、リルは第一声を考えに考えた。
結果。
「え、ええと……ひ、久しぶり。元気してた?」
という間の抜けたものになったのは、もはやリル自身の緊張感の無さとか頭の回転について弁解の余地がないなと認めざるを得なかった。
そんな自省にかられるリルを見つめていたアル=ラシードは、少しの間をあけて柔らかく苦笑した。
「……そうだな、お前はそういう人間だった。息災なようで何よりだ。私は、……お前に会えたから、元気になった」
それは聞きようによっては口説き文句のようだったけれど、そういうものではないことは、その眼差しが物語っていて――。
「……元気になったなら、よかった」
リルは心からそう言って、微笑んだ。
その背後では、兄たちから斥候役兼お目付役を言いつかった焔が、「いや、それでいいのか……?」とひっそり呟いていたりしたのだが、十年ぶりの待ちに待った……本当に待ちに待った再会に感極まってリルの存在があれば何でもいい状態のアル=ラシード、細かいことはよくわからないけど、アル=ラシードが元気になったならよかった! と心から思っているリルの耳には届かなかったのであった。
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