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旅路をなぞる
布石・3
しおりを挟む(――待、て)
今、当然のように思考したそれは。
そんなふうに簡単に、許容してよいものだったか?
(そう、だって私は、人を傷つけるのにも傷つけられるのにも縁のない、普通の女の子で)
だけどそれじゃあこの世界で『シーファ』として生きていけないから。
(だからって私が、それを、するの?)
私と私がぐちゃぐちゃになる。混ざり合う。否、もう、混ざり合っていた?
だって生きていかなければならないのだ。生きて、『旅』を続けて、『魔王を倒す』まで、諦めることは許されないのだ。――これは『シーファ』の思考。使命。
『魔王を倒せばすべて元に戻る』、だからそこに辿り着かなければならない。――これは、私の思考。
また何かを傷つけるのを見なければならない? 何かを傷つけなければならない? 次はヒトの形をしたものを? そしていつかは『人間』を? ああでももう傷ついたし傷つけられもした。避けられない――避けられないのだ。――これは『私』と私の思考。
「さーて、と。重い話はもう終わりか? だったらメシ食いに行かねぇ?」
「そもそもオレ、メシ食いに外出てきたんだよな」――そう続けるタキの声をどこか遠くに聞きながら、『シーファ』として当たり障りのない反応を体が行うのに任せる。
いつだかと同じだ。『私』や『シーファ』が揺らぐとこうなるのだろう。
タキが食べ納めに行く予定だったという店に連れていかれながら、考える。
シーファが憂えていたのはこれだったのだ。
『私』と『シーファ』が混ざり合って、溶け合って。そのことに『私』が気づいてしまうこと。
『記憶』を覗けば覗くほど、『シーファ』の思考を辿れば辿るほど、『私』は『シーファ』に近づいて、だけどどうしても『シーファ』にはなれないから、混ざり合うことになる。
今ならわかる。ユールが最初に言っていたのもこのことだ。
『私』はもう、とけてしまった。
【……私は、君を巻き込んだ。それは、必ず君を元に戻すことを前提に、決めたことだ】
【だから、君がどのような選択をしても――旅の終わりには、君を返す。元の世界に。元の身体に】
シーファのあの言葉からすれば、『私』は『私』に戻れるのだろう。たぶんきっと、何もかも忘れさせられて、何事もなく日常に帰る。『シーファ』なら、巻き込んでしまった人にそうするだろうとわかる。
【それでも、君には君のままでいてほしい。避けられない変化はいつか君を蝕むだろうが、それでも】
ああ言ったのは、シーファの良心が為したことだろう。避けられないとしても、『私』をこのような状態にさせるのを先延ばしにしたかった。
やさしいな、と思う。きっと最初の旅で獲得したその『やさしさ』が、どこかで『旅』を苦しいものにさせたのだとしても、『私』はそのやさしさを好ましいと、尊いと思った。
「――タキ、」
店に着き、おすすめメニューを一通りシーファに説明し終えたタキに声をかける。
「? どうした?」
「気にかけてくれて、ありがとう」
タキは目を丸くした。当たり前だ。初期の『シーファ』としてはあり得ない行動だし、普通に考えても唐突だ。一応、ご飯に誘ってくれたことへの言葉に聞こえなくもないけど、『シーファ』として不自然だ。
だけどタキは、笑って「どういたしまして」と返してきた。茶化すような笑みは、何かを察して『踏み込まない』ことを選んでくれたのだとわかる。
一度目の旅、『シーファ』は旅が終わったら、皆に礼を言いたいと思っていた。――それは、叶わなかったけれど。
二度目以降は、それどころじゃなかった。『シーファ』はこの『旅』を終わらせるために必死だった。
だから、これくらいならいいだろう。これくらいの差異なら『私』が負う。
伝えたかった言葉を、紛れて伝えるくらいなら。
タキのおすすめの店の、おすすめのスープはおいしかった。手間暇かかってそうな奥深い味で、食にあんまり楽しみを見いだせない『シーファ』でも素直においしいと思えた。
タキは『シーファ』があんまり食に関心がなくて小食なことを察して(まあ小食については察しても何もないけど)くれているらしく、おすすめもそういうのばかりだったので選びやすかった。
タキはこれまた手間暇かけて調理されていそうな肉料理を頼んでいた。これが『シーファ』の体じゃなかったら食べてみたかったかもしれないくらいには食欲をそそる匂いがした。
『シーファ』は五感は鋭いけど『おいしい』を感じることが稀なので、あんまり匂いと『おいしい』が結びついてない気がする。『私』でなければタキの食べている料理も「肉料理だな」くらいで終わっていたんじゃないだろうか。まあまずそもそも一緒にご飯を食べに行かなかったかもしれないけど。
まあそんなこんなで食事を共にし、お互い特に他に用事があったわけでもなかったのでそのまま宿に戻ったわけだけど。
当然(というのも何だか微妙なんだけど)レアルードの機嫌が悪くなり、その日が終わるまでべったり張り付かれたのだった。
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