【完結】±Ｄａｙｓ

無理やり転校編

たかが服、されど服

「おー、標準服も似合うじゃん、嬢さん」

「どうもありがとうございます。お世辞でも悪い気はしませんね」

「いやいやいや、お世辞じゃないって」

「ではそう思っておくことにします」

「……嬢さん、なんつーか捻くれてんなー」

「ありがとうございます」

「いや、褒めてねぇよ？」

「知ってますけど」

「……あ、そう」

「っていうか君、何でまだここに居るわけ？」

「居ちゃ悪いってのか？」

「悪い。邪魔。目障り。君特別クラスの所属じゃないでしょ」

「うわ、ヒデェ言われよう。いいじゃねぇか別に。もうちょっと嬢さんと喋りたいだけだって」

「え」

「……嬢さん、その顔はいくらなんでも俺傷ついちゃいそうなんだけど」

「それはすみません」

「今の明らかに言っただけだよな？」

「まあそうですけど。これ以上の厄介事も厄介な人間もごめんなので申し訳ないですがお引き取りください間に合ってますから」

「……ノンブレスで言い切っちゃうほど迷惑なんだ？」

「迷惑というかお断りなだけです」

「それ、どう違うわけ」

「『迷惑』だとマイナス感情を含みますが、『お断り』ならプラスマイナスゼロな感じです」

「なるほど。とりあえず、『お断り』の方がマシなわけね」

「どちらにしろ拒絶の意ではありますが」

「……いやそこは敢えて明言しないで欲しかったんだけど。傷つくってマジで」

「そう言われても。偽りのない本心ですし」

「……追い討ち？」

「そんなつもりはなかったんですが、結果的にそうなりましたね」

「…………」

「？　今度はどうしたの、レンリ」

「………………」

「そんな目で見られても」

「はいはいはーい！」

「いきなり何、ユズ」

「代弁！　レンリはオレ達ほっといてソイツと話してるのが寂しいんだと思います！」

「それはあんたじゃなくて？」

「オレもだけど！　ほら、レンリも否定してないし！」

「…………」

「いや、この歳になってそんなことで寂しがるとかどうかと思うんだけど」

「そういうのに年齢は関係ないと思いますよ？　自分が好意を持つ相手に自分を見ていて欲しいと思うのは、至極当然のことだと思いますし」

「なんかその言い方もどうかと思うんだけど……っていうかミスミ、さりげなく――ええと三笠さんとの間に割り込んでくるってことは、あんたも寂しいだの何だのって思ってるわけ？」

「ええ、もちろんです」

「そこはそんなイイ笑顔で答えるところじゃないと思うんだけど」

「それは僕たちが決めることだよ。……うん、サイズもぴったりみたいだね。特注の甲斐が――」

「わわ、ちょ、カンナ！」

「……特注？」

「き、聞き間違いですよ、聞き間違い」

「その反応がむしろ確信に至らせてるから。……なんか異様にサイズぴったりだと思ったら、これ特注なの？　何がどう特注？」

「あー、えっと、それは、その……」

「ハキハキ喋れカンナ」

「嬢さん嬢さん」

「何ですか。今取り込み中なんですが」

「うわ、冷たい視線。ちょっとクセになりそー」

「変態はお断りなんですが」

「いやいやいや、そこは俺の名誉のために否定させて。変態じゃないから。ただの軽口だから」

「はあ。で、何ですか」

「んー、いや、『特注』の意味、教えてやろうと思って」

「……知ってるなら教えてください」

「！　そんな奴から聞くくらいなら僕が――」

「黙れカンナ。あんたの説明だとまた何か都合の悪いこと隠されそうだから三笠さんから聞く」

「……っ」

「今回ばかりは仕方ありませんよ、カンナ。日頃の行いが悪かったんだと思って諦めましょう」

「実際悪いしね！」

「……ユズ？」

「え、何？！　カンナ怖いよその目！　人殺せそうだよ！？」

「いい加減、口は災いの元だって理解した方がいいですよ、ユズ」

「だ、だってホントのことじゃんー！」



「いやー、アイツら面白いなー。嬢さんの前じゃいつもあんななワケ？」

「……外野は放っておいて、説明してもらえます？」

「ああ、『特注』についてだったっけか」

「ついさっきのことを忘れないでください」

「悪ィ悪ィ。この学園の標準服ってのはちょっと変わっててな。カタログから選ぶのとオーダーメイドがあるんだよ。カタログからだと、まあいくつかのサイズと多少のデザインを選べる。んで、オーダーメイドだと全身の詳細データからこまごましたとこまでサイズ合わせて作ってくれるのな。デザインも一点モノ。基本は変わんねぇけど」

「『標準服』なのにデザインが違うんですか？」

「まぁな。でもちゃんと全体で統一されるようにデザインされてるらしいぜ？」

「……『特注』というのは『オーダーメイド』ってことですか？」

「いや、それがまたややこしいっつーかなんつーか。……んー、わかり易く言やぁ、オーダーメイドの上級版ってとこだな。特別クラスの服にしか適用されてんの見たことねぇんだけど、嬢さんの場合は標準服にも適用されたことになるな。オーダーメイドじゃ弄んない部分のデザインを弄ってるとかじゃねえかと思うけど。何せ標準服で『特注』ってのは初めて見るから詳しくはわかんねぇな」

「…………」

「……嬢さん？」

「………………何か弁解は？　馬鹿ども」

「い、いや、黙ってたのは悪かったですが、大きくは弄ってないですし、言わなければわかりませんよ？」

「そ、そうそう！　それに似合ってるし！」

「あー……その、オーダーメイドも特注もさして変わりはないからね？」

「いやあるだろ。標準服で頼もうとすると金額天井知らず――っつーか実質発注不可って聞いたぜ？」

「……へぇ」

「……ああもうホント君出てってくれないかな」

「何でそう余計なこと言うかなっ？！　オレたちに何か恨みでもあるの！？」

「それ、標準服は……デザイナーの厚意、だから……」

「？　厚意？」

「……はぁ。やっぱり言わないと駄目ですか」

「どういうこと、ミスミ」

「この学校のデザイン関係は全て、カンナのお兄さんがやってるんですよ。あなた、気に入られてるでしょう？」

「デザイン……ってことは藍里さん？」

「……。そうだよ、あの愚兄」

「いっつも言ってるけど愚兄呼びはどうかと、……何、あんたたち、藍里さんまで巻き込んだわけ？」

「違うよ。何でわざわざ愚兄を引き入れる必要があるのさ。注文するときに勘付かれたんだよ。……知られたら面倒だから黙ってたのに」

「絶対あの人会いに来ますよね……親族特権フルに使って」

「変なとこ行動的だしテンションの上がり下がり激しいからあんまり近づきたくないのにっ」

「それに、いつも良いところとっていくから、嫌い……」

「……あんたたち、藍里さんには結構世話になってた気がするんだけど」

「世話になってたから嫌なんだよ。逆らいにくいし」

「逆らわなきゃいいだけの話だよねそれ」

「僕たちに関係ないならそうするんだけどね。……っていうか君、絶対僕たちが愚兄に来て欲しくない理由わかってないでしょ」

「？　今ユズとレンリが言った通りじゃないわけ？」

「そうだけど、その根本的な理由って言うか……うん、いいよ。むしろわからないままで居てくれた方がいい気がする」

「その言い方ものすごくひっかかるんだけど」

「いえいえ、そこは気にしないでください」

「そうそうスルースルー」

「……気にしない、で……」

「あんたたちってこういうときばっか団結するのが性質悪いよなマジで」