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EXTRA(番外編)
【IF】彼女と三笠・2
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●出会って一年目のバレンタイン小話
「ハッピーバレンタイーン、嬢さん」
「こんにちは、三笠さん。……今の台詞と併せて考えると、その手にあるのはチョコレートですか」
「ご名答~。市場調査は綿密に行ったから、そんなに趣味悪いもんじゃないと思うぜ?」
「買った本人の見解としては?」
「一応派手過ぎず地味過ぎず一定以上のクオリティが保証されてる既製品を選んだから、俺の差し出すものでもあんたが妥協して受け取ってくれる品だと自負してる」
「こう、……いろいろとつっこみたいところはあるんですが、なんで私がもらう側なんですか」
「だってあんた、あの四人組どころかその関係者からもバレンタインはもらう側なんだろ?」
「どこでどうやってそれを知ったのか非常に気になるところですが、そこは私が安易に首を突っ込めるところじゃないので置いておきます。……別にこっちが要請してそうなったわけじゃないんですが、慣例としてそうなってますね」
「だったらやっぱり暗黙の了解には従っといた方がいいだろうと思って」
「そもそもあなたこういうイベント事に乗る人なんですか?」
「あんたたち周り見てたらそういうのも面白そうかもと思って」
「製菓会社の陰謀が大成功した末に定着したチョコを渡すだけのイベントが?」
「違う違う、そっちじゃなくて、本場の方。親しい人に感謝を込めて贈り物をする、的な方」
「『親しい人に』? 『感謝を込めて』?」
「そんな胡散臭げなものを見るまなざしで一語一語はっきりと訊くほど?」
「あなたが私の親しい人かどうかはこの際置きますが、あなたが私に感謝を示したりしたいと思うような出来事があった記憶がなくて」
「前半にちょっぴり傷つかないこともなかったけど嬢さんだからな……」
「どちらかと言えば私が贈る側だと思いますし」
「え、嬢さん俺にチョコくれんの?」
「普通に用意してないしあげるつもりもないですが」
「……ちょっと期待しちゃったんデスケド。罪作りな嬢さんだなー」
「一瞬考えたくらいには感謝してはいるんですけど、暗黙の了解と不文律の存在もあって、そんなに軽々しくこのイベントには乗れないんです」
「……受け取っては、くれるんだよな?」
「ええ。……それも、調べ済みでしょう?」
「んじゃ、はい。どーぞ、嬢さん」
「ありがとうございます。三倍返しはできませんが、ホワイトデーには何らかのお返しをしますので」
「――……あー、やっぱり、俺はまだ嬢さんにとって遠い位置づけなんだなー」
「いきなりなんです」
「あんた、四人組は別として、その周囲の身内組からのバレンタインのプレゼントは『何も返せませんが、それでもよければ受け取ります』的な感じに応えるんだろ」
「そろそろ情報源が気になるというか一人しか思いつかなくなってきましたが、……まあ、そうですね、彼らに見合うものをそれぞれに返すというのはちょっと小市民には難しかった結果、こういう形で落ち着きました」
「つまり、お返しを返そうとしてくれてるってことは、俺はその枠組みには入ってないワケだよな?」
「それはもちろん。あなたと私、会ってまだ数か月じゃないですか。そもそも私に関わるスタンスが違うあなたに、同じ対応なんてしません」
「まー、それはわかってるんだけど、距離を感じるなっていう。――とりあえず、当面の目標としては、来年のあんたに『お返しはしませんけど』ってバレンタインチョコを受け取ってもらうことだな」
「……そういうの、反応にも対応にも困るんですけど」
「でも、拒否も拒絶もしないでいてくれるんだろ?」
「ノーコメントで」
●出会って2年目の受験期の話(だいぶ仲良くなってる場合)
「なに、もしかして嬢さん緊張してるとか?」
「私だって、一生に一度の試験に緊張くらいします」
「一生に一度とは限らないだろ?」
「そういう不吉なこと言わないでくれます?」
「ってか共通一次なんだしそんな気負わなくても二次でどうにでもなるんじゃ?」
「確かにどうしようもなく大コケしない限りは二次でどうにでもできますけど、センターの結果がいいに越したことはありませんから。……それに、ここで失敗したら、今までここに向けて頑張ってきた努力が報われません」
「そうやって気負いすぎるのもどうかと思うけど?」
「ここで気負わなくてどうするんですか」
「そうじゃなくて、自然体の嬢さんでいいってこと。俺は嬢さんの努力を知ってるから、そんな気負わなくても嬢さんならできるって思ってるけど」
「……それ、ちょっと、殺し文句です」
「おお、貴重な嬢さんの照れ顔いただき」
「そういうこと言うから、ちょっといいこと言っても効果半減になるんですよ」
「それくらいの方が付き合いやすいだろ? 嬢さん」
「……否定はしません」
「ま、っつーわけで。コレ、どーぞ?」
「……お守り?」
「一生に一度の試験だし、定番らしいから?」
「……盗聴器仕込んでませんか?」
「嬢さんが俺のことどういう目で見てるのかよくわかる発言だし前科があるので仕方ないとはいえ完全に善意だった俺の心が傷ついた」
「あなたに完全な善意で行動するなんてできたんですか?」
「真顔で言わないで嬢さん」
「完全な善意は疑ってますけど、善意は疑ってませんよ。……予想外でした。ありがとうございます」
「まあ渡した時の嬢さんの顔が見たかったのもあるから確かに完全な善意じゃあなかったな。どういたしまして、嬢さん。がんばってな」
「ハッピーバレンタイーン、嬢さん」
「こんにちは、三笠さん。……今の台詞と併せて考えると、その手にあるのはチョコレートですか」
「ご名答~。市場調査は綿密に行ったから、そんなに趣味悪いもんじゃないと思うぜ?」
「買った本人の見解としては?」
「一応派手過ぎず地味過ぎず一定以上のクオリティが保証されてる既製品を選んだから、俺の差し出すものでもあんたが妥協して受け取ってくれる品だと自負してる」
「こう、……いろいろとつっこみたいところはあるんですが、なんで私がもらう側なんですか」
「だってあんた、あの四人組どころかその関係者からもバレンタインはもらう側なんだろ?」
「どこでどうやってそれを知ったのか非常に気になるところですが、そこは私が安易に首を突っ込めるところじゃないので置いておきます。……別にこっちが要請してそうなったわけじゃないんですが、慣例としてそうなってますね」
「だったらやっぱり暗黙の了解には従っといた方がいいだろうと思って」
「そもそもあなたこういうイベント事に乗る人なんですか?」
「あんたたち周り見てたらそういうのも面白そうかもと思って」
「製菓会社の陰謀が大成功した末に定着したチョコを渡すだけのイベントが?」
「違う違う、そっちじゃなくて、本場の方。親しい人に感謝を込めて贈り物をする、的な方」
「『親しい人に』? 『感謝を込めて』?」
「そんな胡散臭げなものを見るまなざしで一語一語はっきりと訊くほど?」
「あなたが私の親しい人かどうかはこの際置きますが、あなたが私に感謝を示したりしたいと思うような出来事があった記憶がなくて」
「前半にちょっぴり傷つかないこともなかったけど嬢さんだからな……」
「どちらかと言えば私が贈る側だと思いますし」
「え、嬢さん俺にチョコくれんの?」
「普通に用意してないしあげるつもりもないですが」
「……ちょっと期待しちゃったんデスケド。罪作りな嬢さんだなー」
「一瞬考えたくらいには感謝してはいるんですけど、暗黙の了解と不文律の存在もあって、そんなに軽々しくこのイベントには乗れないんです」
「……受け取っては、くれるんだよな?」
「ええ。……それも、調べ済みでしょう?」
「んじゃ、はい。どーぞ、嬢さん」
「ありがとうございます。三倍返しはできませんが、ホワイトデーには何らかのお返しをしますので」
「――……あー、やっぱり、俺はまだ嬢さんにとって遠い位置づけなんだなー」
「いきなりなんです」
「あんた、四人組は別として、その周囲の身内組からのバレンタインのプレゼントは『何も返せませんが、それでもよければ受け取ります』的な感じに応えるんだろ」
「そろそろ情報源が気になるというか一人しか思いつかなくなってきましたが、……まあ、そうですね、彼らに見合うものをそれぞれに返すというのはちょっと小市民には難しかった結果、こういう形で落ち着きました」
「つまり、お返しを返そうとしてくれてるってことは、俺はその枠組みには入ってないワケだよな?」
「それはもちろん。あなたと私、会ってまだ数か月じゃないですか。そもそも私に関わるスタンスが違うあなたに、同じ対応なんてしません」
「まー、それはわかってるんだけど、距離を感じるなっていう。――とりあえず、当面の目標としては、来年のあんたに『お返しはしませんけど』ってバレンタインチョコを受け取ってもらうことだな」
「……そういうの、反応にも対応にも困るんですけど」
「でも、拒否も拒絶もしないでいてくれるんだろ?」
「ノーコメントで」
●出会って2年目の受験期の話(だいぶ仲良くなってる場合)
「なに、もしかして嬢さん緊張してるとか?」
「私だって、一生に一度の試験に緊張くらいします」
「一生に一度とは限らないだろ?」
「そういう不吉なこと言わないでくれます?」
「ってか共通一次なんだしそんな気負わなくても二次でどうにでもなるんじゃ?」
「確かにどうしようもなく大コケしない限りは二次でどうにでもできますけど、センターの結果がいいに越したことはありませんから。……それに、ここで失敗したら、今までここに向けて頑張ってきた努力が報われません」
「そうやって気負いすぎるのもどうかと思うけど?」
「ここで気負わなくてどうするんですか」
「そうじゃなくて、自然体の嬢さんでいいってこと。俺は嬢さんの努力を知ってるから、そんな気負わなくても嬢さんならできるって思ってるけど」
「……それ、ちょっと、殺し文句です」
「おお、貴重な嬢さんの照れ顔いただき」
「そういうこと言うから、ちょっといいこと言っても効果半減になるんですよ」
「それくらいの方が付き合いやすいだろ? 嬢さん」
「……否定はしません」
「ま、っつーわけで。コレ、どーぞ?」
「……お守り?」
「一生に一度の試験だし、定番らしいから?」
「……盗聴器仕込んでませんか?」
「嬢さんが俺のことどういう目で見てるのかよくわかる発言だし前科があるので仕方ないとはいえ完全に善意だった俺の心が傷ついた」
「あなたに完全な善意で行動するなんてできたんですか?」
「真顔で言わないで嬢さん」
「完全な善意は疑ってますけど、善意は疑ってませんよ。……予想外でした。ありがとうございます」
「まあ渡した時の嬢さんの顔が見たかったのもあるから確かに完全な善意じゃあなかったな。どういたしまして、嬢さん。がんばってな」
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