地球最後の瞬間を、君と

空月

文字の大きさ
1 / 2

地球最後の瞬間を、君と

しおりを挟む



「あっ、このカップ麺5分のやつだった。地球消滅まであと何分だっけ?」

「あと5分。なんでギリギリになって作り出すかな」

「食べたい気持ちが高まったのが今だったんだって」

「そもそも最後の晩餐がそれでいいの?」

「いいじゃんカップ麺。俺のおふくろの味だし」


 そう言って笑うヤツの名は笠木ミツギ。
 何の縁だか、地球最後の瞬間を過ごすことになった友人である。
 というかヤツが押しかけてきたというのが正しい。地球消滅三十分前に呼び鈴を鳴らされてびっくりを通り越したのも記憶に新しい。


「俺、麺は硬め派だからギリギリいける!」

「食べてる最中に地球終わるんじゃない。最後の瞬間がそれでいいわけ?」

「えー、食い終わるって」

「どんだけ早食いするつもりなの」

「俺は新記録を出してみせる……!」

「はいはいお好きにどうぞ」


 わざわざ人の家に来てまでするのがそれか、と思わなくもないけど、こういうちょっとわけわかんないやつなのは出会った当初から変わらない。

 ――ある日、全世界に『声』が響いた。
 全世界あらゆる人の――もしかしたらあらゆる生物の――耳に、脳に、心に、響き渡ったその声は、「この地球は処分対象になった」と言った。
 そしてそのことを、私たちに『理解させた』。
 荒唐無稽な状況を、荒唐無稽な話を、そういうものだと、それは紛れもない現実で覆せない事実なのだと『理解させた』。

 そういうわけで全人類は、否応なく『地球が消滅するらしい』という現実を受け入れることになったのだ。
 パニックはもちろん起こったし、それでも現実と認めない人もいた。
 いろんなふうに、いろんなところで騒ぎになって、だけどそれはやがて収束していった。

 ――地球消滅の日に向けて。


「黙り込んで何考えてんの?」

「ここに至るまでを思い返してた。いろいろあったなと思って」

「のわりに感慨なさそうだけど」

「地球消滅発表からの流れがスピーディすぎて心がついてってないのかもね」

「あー、まあ確かに1週間前告知じゃなぁ」

「せめて1年前とかにしてほしかったね。『声』の主にはその辺今後の参考にしてほしい」

「あの口ぶり、『他の地球』があるっぽかったもんな」


 そろそろいいかな、と呟いて、ヤツがカップ麺の蓋をべりべりと全部はがす。
 ふわりと湯気が舞って、おいしそうな匂いが私のところまで届いてきた。


「いっただっきまーす」


 それからは一心不乱、早食いの大会にでも出ているのかという勢いで食べ進めていく。
 それを眺めながら、そんなんで味わえてるんだろうかとぼんやり考える。
 正真正銘の、この地球での最後の晩餐なのに。


「他にこんなギリギリにご飯食べてる人もいないだろうし……いやいるかもしれないな」


 地球が消滅するということは人生が終了するということで、人生の最後においしいものを食べて終わりたいという人は結構いるかもしれないと思う。三大欲求だし。


「ん?」


 独り言に反応されたので、なんでもないと首を振る。

 あっという間に麺を食べ終え、スープをごくごくと飲み干して、ヤツはふうと息をついた。
 時計を見れば地球消滅まであと1分。早食いにもほどがある。


「あー、満たされた。この変わらない味がいいんだよな」

「そりゃよかったね。……で、カウントダウンは1分を切ったわけだけど」

「実のある会話がしたい?」

「どっちでもいい」


 人生最後が実のある会話だろうとそうでなかろうと、こいつと過ごしたという事実は変わらないのだ。


「じゃあ、衝撃の事実を暴露。俺、お前のこと好きだったんだよ」

「そんなの知ってるし」

「え。マジで? いつバレ?」

「地球最後の瞬間を一緒に過ごしに来たところで」


 そしてそんなこいつのことを追い返さずに家に招き入れた時点で、私も似たような気持ちだということだ。知ったのはその瞬間だったけど。


「なんだー。結構勇気いったのになー。……じゃあそのついでにもう一個。俺、あの『声』の主と同種の存在だって言ったら?」

「それも今更」


 今更だ。それが本当でも嘘でも。


「これはバレてないつもりだったんだけどなぁ。っていうかバレるはずなかったんだけどな」

「どんなシステムにもバグはあるってことじゃない?」

「そっかー。今後の課題だな」


 『声』が響いたとき。
 高校で知り合い、同じ大学に進学して、なんとなく距離が近づき、なんとなく互いの家を知っているまでに親しくなったと思っていた人間が、『そうではない』のではないかと気づいてしまった。
 私の人生にひょっこりと現れた、否、降ってきた、そういう存在ではないかと。
 『声』が事実を、現実を否応なく私たちに『理解させた』ように、その存在は『刷り込まれた』のではないかと。


「……なんで私だったの?」

「それこそ一目惚れってやつ。『声』で通知する前に処分対象の地球の様子見てたらビビッと来て。運命ってやつ?」

「ずいぶん一方的な運命だことで」

「手厳しいなー。そんなとこも好きだけど。好きになったけど」


 これまでに見たことのなかった甘やかな笑みを浮かべて、ヤツは言う。


「だからさ、お前だけ、消滅から逃れさせちゃおうかなって」

「そうして私の記憶をまた弄って、今度は別の地球だかそれ以外の場所だかで生きさせるの?」

「そこはどっちでもいいや。今のままのお前でも、何も知らないお前でも」


 それは睦言だろうか? 語る声はどこまでも甘くて、思考を蕩かせる。
 催眠術にかかったように、急激な眠気が襲ってくる。


 やっぱり一方的だ、と思いながら最後に見た時計は、地球消滅の時間を過ぎていた。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...