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日帰り異世界と私と魔法師団長 何でもない日
しおりを挟む青空の映る水溜りを介して繋がる異世界で、異世界人特権で与えられた部屋でゴロゴロするのもいつものことだ。
そうして、そこに薄っぺらい笑みをはりつけた魔法師団長がやってくるのも、認めたくないもののいつものことではある。
「異世界人サマ、何でもない日おめでとう、ってことで、ハイこれ」
「……もうどこからつっこめばいいかもわからないんだけど、何これ」
「見てわかるとおり、きっちりラッピングしたプレゼントだけど?」
魔法師団長が渡してきた代物は、確かに申告通り、きっちり、お手本のようにラッピングされた正方形の箱だった。包み紙でラッピングされ、リボンもついている。大きさは手のひらに乗るくらい。
「こんなものをもらういわれがないんだけど」
「言ったろ? 何でもない日おめでとうって」
「その心は?」
「異世界人サマの誕生日は祝えないので、とりあえずお祝いしようと思って」
「…………」
こっちの世界に来ている間、元の世界では時間が進まない。あちらの世界の暦とこちらの世界の暦はどうあがいても沿わない。そもそも同じ時に来ている異世界人だって、来る前のあちらの日付はバラバラだという。つまり、何をどうやってもあちらの世界における『誕生日』はこちらでは祝えない。
それはそうとして、だから『とりあえず祝おう』という行動に出た真意がさっぱりわからないけれど、このプレゼントの大きさ、軽さ、嫌な予感がする。
「返す」
「開けもせずにそれかー。異世界人サマは慎重だな」
「あなたから意図の不明なプレゼントを贈られて、素直に受け取ると思ったの?」
「もちろん、思わなかったぜ?」
「……じゃあなんで準備したの」
「そりゃ、俺の本気の欠片でも感じてもらえたら儲けものと思って」
そう笑う魔法師団長は、私が箱の中身を薄々察したことをわかっているのだろう。
突き返されたプレゼントを片手で弄びながら、うそぶく。
「俺はいつでも本気だし、いつでもあんたを迎え入れる準備は整ってるってこと――改めて伝えておこうかなと」
「……どこかから早く異世界人を取り込めってせっつかれでもした?」
「それは年がら年中耳タコになるくらいには言われてるけど、これがそういうんじゃないっての、あんたわかって言ってるだろ?」
「…………用が済んだなら、帰って」
意図して顔を見ずに言うと、魔法師団長が肩をすくめる気配がした。
「ハイハイ、引き際はわきまえてますよ。大事なだいじな異世界人サマのご機嫌を損ねないうちに帰りますって」
言いながら、机の上にさっきの『プレゼント』を置くのを見て、私が口を開くより先に――。
「じゃ、またな、異世界人サマ。それは煮るなり焼くなり捨てるなり放置するなりしてくれていいぜ」
そんな言葉を残して扉の向こうへ消えて行った。
「…………」
クッションをわし掴んで、扉に投げつける。意味のない行為、八つ当たりだ。
机の上の『プレゼント』を睨みつける。そのまま視線に力を込めて、魔法でどうにかすることなんて簡単だ。簡単なのに。
結局私は、何もせずにそれから視線を外した。
「……ホントあの男、性質悪い……」
せめてもと悪態をついたけれど、自分でもわかるほどに声音は弱弱しかった。
わかられている。着実に、距離を縮められている。私が嫌になって元の世界に帰ろうとしないギリギリを見計らって、あの男は近づいてきている。
こちらとあちらの常識は違う。だから、あの箱の中身だって、意味などないのかもしれない――とは思えなかった。あの男は、魔法師団長は、確実な意味を込めて、あれを贈ってきたのだ。
もう一度机の上の小さな箱を睨みつけた。その中にあるだろう、きっと私の指にピッタリ嵌る指輪を思って、私は大きく溜息をついた。
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