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日帰り異世界と私と魔法師団長 全弾命中、の後
しおりを挟む「いやー、まさか異世界人サマから心配してもらえるなんて、うれしい限り」
「そんなんじゃない」
「じゃあどんなんで、あんなかわいい顔してくれたワケ?」
「…………」
「その顔もかわいいばっかりですけども」
相変わらず軽口ばっかり叩く魔法師団長は、いつもと変わりなく見えるけれど、決定的に変わったことがある。
この世界の魔法を使える人をすべて束ねても私には敵わない。そう感じるのには変わりないけれど。
魔法師団長個人の魔力量が段違いに増えている。――そしてそれを過不足なく使えるのだろう、と感じられる。感じさせられる。
元々魔法師団長の魔力量は他の人と段違いに多かった。でも今はそれと比べものにならないほどに増えている。それでもチートな私には及ばないけれど――象と蟻から、象と豹くらいには、なった。
それは、間違いなく『継承の儀』の影響で――だからこそ、いつもどおりに笑う魔法師団長が憎らしい。
……何も、言わないで。
ただ、ただ――祈りのように指輪に口づけて。
それだけで去って行った、くせに。
「かーわいい」
魔法師団長が、目を細めて笑う。いとしい、いとしいと、その瞳に映して。
それに気付いてしまって、気付かされてしまって、顔を隠そうとしたけれど、いつものクッションは魔法師団長にぶつけたときのまま床にある。
魔法を使う余裕もなく、赤くなった顔を背けるしかできなくて。
「なぁ、……わかってるんだろ?」
その問いかけにも、首を横に振れなくて。
魔法師団長がゆっくり近づいて、私の頬に触れて、目と目を合わせようと覗き込んでくる。
「俺はもう――あんたがここに移住しなくてもいいから、俺のモノになってほしいって思ってるの。あんたのチートに価値はあるけど、その価値を抜きにしてあんたのことを好きなの、わかってるだろ?」
「……ど、して、今になって……っ」
「あんたの足元にも及ばなかったときは言う気がなかった。何をどう言ったってあんたに移住してほしかったから。でも――もうあんたがこっちに移住しなくても、俺が会いに行けるから」
界を超えるだけの力を、手に入れたから。
訪れるのを待つだけでなくて、会いに行けるから。
囁いて、私のこめかみに、魔法師団長は唇で触れる。
「好きだよ、異世界人サマ。……名前は呼べなくても」
名前は、その人を固定するものだ。強く人と人を結ぶものだ。
魔力の強すぎる私たちは、だから人の名前もうかつに呼べない。
異世界の者同士だから、なおさらに。
でも、――でも。
「レガート」
「……っ! ……覚えて、たのか、俺の名前」
ぜんぶは呼べない。ファミリーネームまで含めて呼んでしまったら、きっと強く強く、それこそこの世界にまで紐付いてしまうから。
「……あなたがわらってると、くるしい。好きだよって、かわいいって、軽口ばっかり叩く口が憎らしい。肝心なことは何一つ言わないその線引きが、かなしい。あなたといたら、そういう感情ばかりなのに――ちゃんと、言ってほしかったって、何も知らないまま、あなたが危険に向かったことを知らなかったのが、くやしいって、思ってしまったから」
「…………」
「――移住する勇気は、まだない。それでも?」
「……言っただろ? もう、俺が会いに行けるって。会いに行ったって、住んだって、いいんだ。それくらい――好きだよ」
それが、あいのことばだと、わからないはずはなくて。
遠回しな私の言葉が、ちゃんと伝わってしまったから。
見上げる私の顔に影が落ちてくる。私はそっと目を閉じて、与えられるものを受け容れた。
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