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素直な気持ち(バスト的な意味で)

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「ぜぇ、ぜえ……、つ、着いた……」

俺は今、とある教室のドアの前に立っていた。

『文芸部』

教室の札のところにそう書いてあった。ごくり、と思わず喉がなる。

 緊張する!! こ、ここに、春奈がいる、はず。

 ドキドキ、ドキドキ。

お、落ち着け! まずは走って乱れた心音と、呼吸を整えろ! 

「すぅー、はあー、すぅー、はぁー」

 俺は深呼吸を何度も繰り返した。少しづつだが体が楽になっていく。

「ふぅー、良し………。でも、暑い……」

 まだ昼間のように明るい夏の日差しが、廊下の窓から差し込んでいる。廊下をさっきまで走っていたのもあって、日差しが暑くてつらい。俺の体は今、内からくる熱い体温と、外からの夏の日差しに挟まれ、汗だくだ。
 額から頬へ汗の粒がいくつも走って、顎の先端から滴り落ちていく。背中は汗でしめっていて、カッターシャツが嫌に張り付いてやがる。
 
「あっ~、最悪だっ……。たくなんでこんなことになってんだよ……」

 そう思うと、春奈の顔しか浮かばない。そう、春奈のせいだかんな!

「あ、あいつめ!! お、俺の顔に、あのたわわな、おっぱ……! じゃなくて、ば、バストを無理やり押し付けやがって……!!」

 そのあげく走って逃げるという!! 残された俺の身にもなれっての!! なんか俺がすげえ悪いことしたみたいじゃん!! 春奈のセンパイである穂花《ほのか》さんにめっちゃ見られたときは、ほんともう俺、人生終わったと思ったからねっ!?

「てかあれは、春奈が俺に前のめりで倒れてきたせいだし……! んで紳士な俺がケガしないように優しく受け止めようとしただけだし……!」

 そしたら、あんな……、むにゅうって……、温かくて、柔らかで、ちょっと良い香りの、むにゅうが……。

 ほんと超幸せだった。

「もう一回……、お願いしたいッ……」

 いざ、春奈のところへ。

「って、違う違う……! 何を言おうとしてんだ……!? 春奈をまた泣かせる気か……!?」

 今俺が言うべきことは、『ごめんなさい』だ。そのために、穂花センパイは文芸部の部室に行くよう言ってくれて、場所も教えてくれたのだろう。

 俺はそっと、文芸部の部室のドアに手をかけた。でも、なかなか開けれない。

 また鼓動が激しくなり、俺の顔が熱くなる。だって春奈を想うと、思い出すんだよ! あの柔らかなバストを!? ぽよんって、あのステキすぎるバストをだ!! たぶん俺目で見ちゃうよ!? い、いやダメだ!! そこは我慢して春奈の顔をじっと見てだなあ…………!!

「……、ど、どんな顔して会えば良いかわからん……!」

 春奈の可愛い小顔……に、ぽよんな、

「おっぱい……、ふふっ」

 …………、うおっ、俺顔ニヤけてない!? ま、真面目な顔しろってんだ!! そして真面目に、春奈のおっぱいのことを考えるんだ! って違う違う!? アホか俺は!? てか、おっぱいって言っちゃたよ!? バ、バストだ、バスト!! 英語の方がそのなんか、言い方がマシな気がするし! は、恥ずかしさもわりと少ない気がするし!

「ば、バストだ、バ・ス・ト……! バスト、バスト、バスト、バスト、バスト、バスト、バスト、バスト……!」

 うし、もう大丈夫! 俺は、春奈を前にしても、おっぱい、なんて下品なこと言わない! そう、バスーーー、

 ガラガラ。

 えっ?

 突如、ドアにかけていた手が軽く引っ張られた。いや違う、ドアが自動でスライドして、

「ほ、穂花センパイ?? もしかして、迎えにきてくれたんですか?」

 文芸部の部室ドアが突然開かれてしまった。

 ちょっ!? ま、まじか!? こっちは心の準備が!?!?

「なっ、そ、爽太!?」

 愛らしい丸い瞳をめいいっぱい広げ、驚きに満ちた表情で、春奈が俺を見つめていた。白い頬は、春に咲くキレイな桜の色に染まっていて。
 淡い色の、小ぶりな口元が、わなわなと震えながら、慌てた声を発した。

「なっ、なんでここにいるの!?」
「いっ、いやあの、その!?」
「か、帰って……!!」

 春奈が、文芸部のドアを閉めようとした。ちょ、ちょい待てって! 俺は力をこめて阻止する。

「ちょ、ちょっと何なのよ!? か、帰って!」
「そ、そういうわ、わけにはいかない!」
「も、もう! い、いいから、帰って!!」

 春奈の必死な様子に、ひるみそうになる。このまま、ドアを離してしまいそうだ。でも、そうしたら、なんだろう、一生後悔する気がしたんだ。だから、

「は、春奈っ!!」

 俺は力をこめて、ドアを開ける。

 半身しか見えてなかった春奈の全身がお目見えだ。俺と春奈は対面した状態で。

「なっ、なな、何なのよ……!」

 身構えながら、じっと見てくる春奈に、俺は今1番伝えたい言葉を届ける。

「バスト!!」

 俺の大声が周囲に響く。俺はとても晴れやかだった。うし! 言えた! これで春奈も許してくれるはず! ん?

 春奈は、顔が硬直していた。小さな口元が、ぎこちなく、開いた。

「…………、そ、爽太?」
「お、おう。どした?」
「い、今…………、な、何ていっ、言った?」

 表情を強張らせ、尋ねる春奈。あっ、あれ? な、なんで? 俺、あ、謝ったよな? そう、さっき大声で、

 バスト。

「…………、あっ」

 俺の目線が春奈の、バストに向いた。たわわで、カッターシャツを押し上げていて、ステキすぎる。

「そ、爽太ぁぁぁっ…………!!」
「はっ!? い、いや、ち、違うんだ、は、春奈! ひっ!?」
「うぅ~!! うぅぅ~!!」

 両手で自分のバストを隠しながら、春奈が真っ赤な顔で、俺を睨んでいた。

 さ、最悪だ…………。

 真っ赤なお顔の春奈を前に、俺の顔は青ざめていた。

 まじで、どうしよ……!?!?
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