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バストの中心で愛を叫ぶ

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「つぅー……!! そ、爽太ぁ……!!」
「ひいっ……!?」

 文芸部の部室の前で、俺は小さな悲鳴を上げ、硬直していた。なぜかって? 目の前にいる幼馴染、春奈が顔を真っ赤にして俺を睨んでいるからだ。

 ギロリ。

 うおっ……!? 殺気を感じる!?!? もはや、これまでか!? いや、このままで終わるわけにはいかない! なんとか春奈に許してらわないといけない!! 『バスト』とか言ってすみませんでした、と(土下座しながら)。あと、バストに顔うずめてすみません、もねっ!!

「は、春奈さんや~……」
「つっ!?!? ゥゥゥゥゥゥゥゥゥツッ………!!」

 めっちゃ威嚇された。野生動物かよ! 怖えええええ!! 

 俺の頭のなかで、後悔の念とともに駆け巡る

『バスト』

 という言葉。ど、どうして俺は、春奈を目の前にして、そんなことを言っちまったんだろ……!!

 自然と目線が下に向いた。そこには変わらないモノ、春奈のご立派な、ナイスソフトボールサイズの一回り大きい感じ。

「そ、爽太ああああっ……!!」
「はう!? 見てない見てない!! ほんと見てないよ!?」
「その言い訳は見てると一緒でしょ!!」

 確かに! あっ!

 春奈が、文芸部の教室のドアに手をかけていた。まずい、春奈は教室ドアの内側だ。それにたいして俺は、外側。閉められたらドアが俺と春奈の間に立ちはだかる。まだ、ろくに話もできてないのに。

「ちょ、ちょっと待てって!?」

 俺も勢いよくドアに手を伸ばした。閉められてたまるか!!

 ギュッと、離さないように力を込めて握る。

「ひゃっ!? えぇっ!?!?」

 と、同時に春奈が声を裏返した。何かすごく驚いていて。白い頬はキレイな赤色に染まり、小さな口元は恥ずかしげに震えている。

 俺は首をかしげた。ど、どうしたんだ? 一体……、あっ。

 ほんのり、温かい俺の手のひらの内側。それに、柔らかくて、なめらかな感触。自分の手の内にあるそれに、俺は目を見張った。ドアを掴んだつもりが、

「そ、爽太ぁぁ……!?」
「うっ!?!?」
 
  春奈の小さな詰まった声音に、思わず驚いた。俺の手が、春奈の小さな手を、ぎゅっと握りしめる。春奈の体温が、急に熱くなったように感じた。

「「あっ……」」

 どちらからでもなく、ほんと同時だった。俺と春奈は顔を見合わせていて。

 さらりと、艶のある黒髪が小さく揺れる。透明感のある白い肌は朱に色づいていく。紅葉のようにキレイで、それでいて可愛らしい、春奈の恥じらう表情。

「つっ!? は、離して……!」

 春奈が勢いよく手を振った。その反動で俺の手が振りほどかれて、

「あっ……!」

 春奈の小さな声。力いっぱい手を振った反動のせいか、春奈がバランスを崩した。後ろ向きに、床に吸い寄せられるように倒れていく。

「つっ!! おい!」

 俺は慌てて両手を伸ばした。春奈を支えるために、両肩をしっかりと掴み、引き寄せる。

 ふわりと、甘く心地いい香りが、俺の鼻を通った。それほどまでに、春奈が俺のそばにいた。

 春奈の顔が、俺の間近にある。

 お、おいおい、ど、どうすんだこれ……!?

 春奈は、赤い顔で俺を見つめ、

「……、ぐすっ」

 瞳に涙を溜めだした。な、なにぃ!? ど、どうしたんだ!? 

「ば、ばかぁ……」
「えっ!? は、春奈?」
「そ、爽太の……、ばかぁ!!」
「なっ!?」

 な、なんだいきなり!?

 混乱している俺をよそに、春奈は勢いよく話しだした。

「ばか! えっち! すけべ!! へんたい!!」
「お、おい!? は、春奈!?」

 そ、それは今日の俺のことか!? いやまあ、春奈のバストに顔押し付けてしまったり、手を握ったり、それに肩をつかんだり……、思い当たる点はいくつもある! そして、大声で『バスト』とか言うし! でもそれは春奈が原因だろ!? 俺は故意にやった訳ではない!!

「爽太のえっち!! ほんとなんなの!! 変なことするし、へ、変なこと言うし!! もう! もう!! スケベッ!!」
「いや、それは春奈が悪いんだろ!?」
「つぅ!?!? ううううう!!!!」

 春奈の大きな瞳から、大粒の涙が、溢れた。
 
 し、しまった!? 俺、何言って、

「爽太なんて、嫌い!!」

 えっ? 

 俺の血の気が、引いたのが分かった。

 春奈が泣きながら、大きな声をあげる。

「もう顔見たくない!! どっかいって!! 離して!!」

 春奈が俺の手を無理やり振り払おうとする。俺の両手が、春奈の左右の肩から離れようとしていた。

「お、おい待てって! はる、」
「爽太なんて、嫌い!!」

 その言葉に、俺の胸の奥が、痛いほど、震えた。聞き間違いであってほしい。でも、

「嫌い!! 嫌い!! もう嫌い!! 爽太なんて嫌い!!」

 やめろよ。俺は、そんなの、聞きたくない。

「お、おい、春奈!」
「話しかけてこないで!! うう、爽太なんて、」

 顔を赤くして泣きながら言う春奈。息を吸い込み、さらに言おうとしていた。

『大嫌い』って。

 俺は……、そんなの望んでいない。でもこうなったのは、俺のせい。春奈に変なことして、春奈に、変なこと言って……。

『バスト』なんて、そんなの伝えたいことじゃない。俺は、小学生のときに春奈と出会ってからずっと、

「春奈ッ!!」
「ひゃ!?」

 俺は大声で幼馴染の名を叫ぶ。そして、俺が春奈に一番何を言いたいのか、全力で、心の奥底から、叫んだ。

「大好きだああああっーー!!!!」
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