兄妹は愛し合う

春雷海

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引き裂かれた兄妹(2)

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 冬が明け、春が来る前の三月になって、永斗は大学二年生になった。

 といっても普段とは変わらず、大学と寮を行き来しながら、時にバイトをするといった日常——紗綾がいない日常に少しだけ慣れを悲しいことながら覚えてしまった。

 二年次になったことにより新しい抗議も受けられるようになり、その申請もしなければならない。単位のためには興味もわかない講義も受けなければならないのが大学のつらいところだ。

 とりあえず、二年次から受けられる講義と個人的に好感を抱いている教員の講義を選んだあと、大学を出た。
 寮に入ったら備え付けられている部屋のテレビを使ってゲームしようと思ったが。

「あ……」

 大学寮までの路を歩いた最中で思い出す――部屋にある冷蔵庫が空っぽであることを。
 永斗が住んでいる寮は食事は自分で創らなければならない……最初は手古摺ったものの、今では簡単な料理くらいは作れるようになった。

 寮の路から逸れて、永斗は駅の路に切り替えて歩き進めた。そちらには大学生にとってありがたい、安いスーパーがあるのだ。

(今日は野菜炒めにするか)

 適当に思いついた料理と必要に購入する材料を思い浮かべて、道を歩き進めていった。

 * * * * *

 今日は運が良かったのか特売日であった。お陰で普段購入しない材料と菓子を購入できた――普段ならしない贅沢だ。

 満足げに頷いて永斗はスーパーを出ると、そのまま寮の路に入ろうとすると同時に駅構内から人だかりがあるなか……その群れの中に紗綾の姿が見えた。人ごみの向こう側で遠目からの姿を見ただけだが、それでも永斗は見違うはずがない。

 彼女の姿を目にしたのが一年ぶりで、久しぶりに胸をときめかせた。
 永斗の足は自然と彼女に向かって駆け出した。人ごみの中をかき分けるように走り、途中人にぶつかって文句を言われたが簡単に謝罪して、向かっていく。

 紗綾の背中は徐々に拡大していき、すでに手を伸ばせば届きそうな距離となり――。

「紗綾!」

 衝動的に叫んでは彼女の手をつかんだ。その声に驚愕したのは掴まれた本人だけでなく、周囲の人も振り向いたもののそれは一瞬だけですぐに興味をなくしては顔を戻して歩き進めていく。

 そんな周囲を気にすることなく、永斗は紗綾を見て本人であることを確認してからすぐさま移動する。

 とりあえずは落ち着いて話ができる場所に連れて行くことにした。そして、一年ぶりに会った最愛の妹とゆっくりと喋りたかった――彼女もその思いと同調するように永斗の手を握り返してきた。





 視界にあった適当な喫茶店に二人で入店。店内はマスター以外誰もおらず、一番端の席を案内されてはコーヒーとカフェオレを注文する。しかし、お互い飲むことも話すことなかった。

 永斗は手持ち無沙汰のように視線を動かしていたが、自然に紗綾に目を向けた。
 紗綾は携帯を打ち込んではやがて終えたのかスカートのポケットに仕舞い込んだ――そして永斗に微笑んだ。

「ごめんね、兄さん。 ちょっと友達に嘘の予定を作ってもらったの」

「……大丈夫なのか、父さんたちにバレは」

「大丈夫。最近緩んできたから……ようやく泊まりも許されたのよ」

 苦笑いをしてカフェオレを飲む紗綾の顔は陰りが見えて、頬が若干膨れ上がっていた。
 更によく見ると薄くはなっているが青痣が額に残っており、唇にも切れた痕が見られた……永斗の視線を感じ取ったのか紗綾が額に触れて語りだす。

「兄さんが出て行った後も、父さんと母さんからお説教を受けてるの……兄さんのことを忘れなさいって。もちろん、そんなことは出来ないから喧嘩してる――最近はもう諦めたのかな、顔を合わせても何も言われなくなっちゃった」

 寂しそうに笑う紗綾に永斗は答えることができず、ただ視線を逸らす。
 その環境にしてのは自分の所為だ、兄としての理性を働かさせず、ただ欲望のままに彼女を貪ってしまった罰がこれだ――自己嫌悪で永斗の中を支配していた時。

「こら」

「痛っ」

 そんな永斗の心を見抜いたのか紗綾はデコピンしてのため息をついた。

「あのね、別に私は後悔なんてしてないよ。 私が望んだことなんだもの……寧ろ私のわがままのせいで兄さんを困らせたんだよ、怒ってない?」

「っそんなわけないだろ。 後悔なんてしていない、むしろ俺は嬉しかったんだっ、同じ気持ちを思ってくれて……この一年忘れることなかったっ」

 紗綾の言葉に反射的に大声で叫びかけたのを何とか抑えて、永斗は言葉を紡げては思い出す。

 * * * * *

 物心がついた時から紗綾を異性として見ていた。そう見られなかった。
 幼いころからずっと我慢して、普通の兄妹を演じていた。世間や常識がそうだからだと、強く思わせて。

 しかし、その兄弟関係が限界を見たのは、永斗が高校一年生の春のことだった。
 永斗はその時女子生徒に告白されて、その対応に悩んでいたとき、紗綾が下着姿で部屋に入ってきては抱き着いてきた。

『……兄さん、好き、大好きよ。兄さんじゃなきゃ、いや』

 耳元に涙声で囁かれて、永斗の理性は崩壊した。

 昔から異性として見ていた妹からの言葉に暗い喜びと恍惚に思考が上手く回らずに行動していた――気が付けば永斗は紗綾の下着を剥がし、欲望のままに一線を越えていた。

 紗綾の首周りにはキスマークがいくつか付けられ、ベットには血と液体まみれ――それを見て蒼褪めてしまう永斗に、紗綾は優しく微笑んでは抱きしめてくれた。

 それが二人の禁忌が成立した時であった――。

 最初は不安に満ちていたが、それでも一年も経てば慣れが生じて、両親がいない間には互いを求めあった。それが結果として注意力と慎重さを欠いて、結局はバレてしまい、引き離されてしまった。

 * * * * *

「……」

「? 兄さん?」

 大学生活は確かに楽しいものであったが、紗綾がいないだけで永斗の世界はモノクロームとなった。

 何もかも空しく、つまらなかった。
 紗綾に会いに行く勇気もなかった、ただ状況に流されるまま生活していた――これからもそうして生きていくのか?

(そんなのは、ごめんだ……っ!)

 永斗は若干冷め切ったコーヒーを飲みほしては、紗綾の手を掴む。

「に、兄さんっ?」

「紗綾……」

 永斗は紡ごうとする言葉に迷い、一瞬だけ硬直するもそれでも迷いを捨てる。

 これから紡ごうとする言葉は間違いであることは理解している。そして、それは幾ら紗綾でも許容することは出来ないかもしれない――それでも永斗は紡げた。

「一緒に、駆け落ちしないか?」

 紗綾と一緒に誰にも邪魔されない場所を目指すために――。
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