兄妹は愛し合う

春雷海

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新たな住処(1)

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『終点鹿島駅、鹿島駅に到着いたしました。 降りの方は忘れ物がないように注意をしてください』

 市内鉄道が運営・運転する電車の重々しい響きが駅構内に伝わると同時にブレーキが掛けられて停車する。

 列車から降りてくるのは数少ない乗客たち――殆どは中年や年配の男性と女性、老人たちが殆どであった。
 しかし、そんな鹿島駅に二人の若い男女が降り立つのを見て、鹿島駅にいた周辺の人たちは驚愕の顔を浮かべていた。

 その二人は全体的に柔らかい線の可愛らしいる栗髪ロングヘアーの少女と温厚で男前が少々浮き出た短髪の青年であった。

 この鹿島駅というのは若者に惹かれる物が何も無く、一応はコンビニやスーパーはあるものの、それ以外は殆んどないとしか言いようがない場所だ。
 こんな場所に来る若者など殆どいない筈が、今目の前には少女と青年がこの鹿島駅に降り立っている。

 それ故にこの駅周辺に住んでいるのは殆どが中年や年配が多く、若者たちの数が少ない――いるとしても小学生か中高生で大学生以上の若者はこの駅に住んでいない。またこの場所は名所もなければ目につくようなものも皆無。

 それでも中高生や中年、年配の住人らを合わせると人口は七百人程在住している。

「兄さん、ここが約束の場所?」

「あぁ、そうなんだけど……意外と素朴だな」

 少女と青年――雪代紗綾と永斗は周囲の視線を気にすることなく、そのまま歩き進めていく。
 そして、無人のきっぷ売り場と小さな待合室、改札機のない改札を二人は通り過ぎて、そのまま鹿島駅の外に出た。

 木造で創られた小さな駅舎の鹿島駅から見えた景色は至って平凡、しかし温かみのある風景が広がり、空気の匂いが変わったことがわかった。
 道を通る自動車の音すらきこえない上に、畑が目立って農家風の建物がいくつか見られ、どれもが似たような田舎の風景がそこにはあった。

 その光景を見た二人は思わず唖然としてしまった。特に永斗が。
 永斗の先輩より紹介された物件と場所については聞いたが、まさかこれほどとは思いもしなかった。

「……す、凄い場所だね、こんな場所だなんて思ってもなかった」

「……俺も正直予想していなかったよ。まさかこんな田舎だとは思いもしなかった」

 二人は戸惑いながらも会話をすると、永斗は周囲を見渡す――何かを探すように。その行動に沙綾は首を傾げて尋ねようとした時。

 一台の自動車が走っているのが見えると同時に、その車は駅の周辺に停車して——駐車場がないため適当に――から次いでそこから出てきたのは一人の女性。
 セミロングヘアーで切り目で猫のように若干鋭い目つき、ゴムパンツとTシャツといった実用性を中心な服装の彼女は永斗と紗綾を見つけると駆け寄ってくると……ふにゃりとした笑顔を浮かべた。

「あぁっごめんねぇ! ちょっと遅れちゃったかなっ、待たせちゃってごめんねっ!」

「あっ、え、えぇ。 久杉(くすぎ) 歩(あゆみ)さんですよね?」

 永斗の言葉に女性、久杉 歩は頷いて言葉を紡げる。

「そう、あたしがそうだよ。 うちの健ちゃんから聞いてるよっ、ここに住むための家を案内してほしいって……君たちだよね?」

 永斗と紗綾の姿を見て、戸惑いと若干困惑した様子で尋ねる歩。
 若い、というよりも、この鹿島で家を購入して暮らすにしてもまだ幼く見える二人であるが……。

(プライベートに関しては突っ込まない! それが、鉄則!)

 歩は心の中で自ら言い聞かせると同時ににこやかな笑顔を浮かべて会話を紡げた。

「さてさて! 健ちゃんが紹介したお家まで案内させてもらうよっ、二人の新しい門出を祝うためにね!」

 * * * * *

 歩が運転する自動車に乗って、流れゆくその光景を永斗と紗綾は何気なしに見ていた。
 景色が単調なせいか、まるで数分前に見た光景を、繰り返し眺めているような気分にさせられる。まるでスローモーションのような景色に見える。

 しかし、二人は決して厭きることはなく寧ろ都会では見られないだろう自然の景色を見つめていた。

「いい景色だね、に――永斗さ、ん」

 いつもの『兄さん』ではなく、名前を云いづらそうにしながらも笑顔を浮かべて言う紗綾に永斗は頭を撫でることで応えた。
 頭を撫でられて嬉しそうにして、永斗に寄り掛かろうとする紗綾であるが。

「あーっ、ええっと、独り身にはきついからちょっと勘弁してほしいかなぁなんていっちゃう歩さんです」

 今更ながらの恥ずかしさを感じたのか紗綾は慌てて離れては頬を赤く染めてしまう。対する永斗は寂しげにして、手持ち無沙汰となった手をプラつかせては窓の外を見つめる。

(……ここなら父さんたちにもバレないだろ)

 何せこんな田舎だ、両親が住んでいる場所よりも遠い上に自分たちは所在さえも残していない。
 事情を聴かずに家の購入手続きもしてくれた先輩にも永斗は感謝しなければならない……しかし問題はここからだ。

 紗綾と暮らすため、これからも一緒に生活するためにも、多くの課題がある。

 生活するに至って必要な品の購入や近所付き合い、買い物に行く際に必要な足と道順等々を覚え、やるべきことがたくさんある。働き先も見つけなければならない……しかし大学中退の高校卒業を雇ってくれる場所はここにあるのだろうか。

 予想もつかないことが沢山起こるだろう、田舎と都会の違いに愕然とすることもあるだろう。

 正直言って、不安は大きくある。 だが、それでもその不安を乗り越えてみせると心中で固める。
 困難な選択を選んででも紗綾と一緒に生活することを望んだのは永斗自身なのだ。

「紗綾、俺はやってみせるからな」

「もうっ、そこは『俺たち』じゃないの? 一人で頑張らないで、一緒にやるの!」

 そんな決意の籠った言葉を紗綾は否定して、笑顔で答えた。

 ……紗綾にはかなわないなと永斗は苦笑しては彼女の頭を再び撫でた。












「あのぉ、だからぁ、勘弁してぇと申しているんですけど…………うぅあたしも恋人ほしいなぁ。 健ちゃん、早くもらってくれないかなぁ。もう既成事実しかないかなぁ」
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