恋の微熱に溺れて…

和泉 花奈

文字の大きさ
1 / 66
1度:犬系には要注意

1話

来年で二十代ラスト。あっという間に歳だけを重ねてしまった…。
葉月はづき 京香きょうか。二十八歳。独身。彼氏が人生で一度もいたことがない、可哀想な女だ。
でも、そんな可哀想な女も恋はする。その恋のお相手は年下で。イケメンで。社内で一番人気の男。
高望みだということは重々承知している。そんな彼を意識するようになったきっかけは、漢字違いの同じ苗字であるということだった。
私は葉っぱに月と書いて、葉月。彼は羽に月と書いて、羽月はづき
たったそれだけ?と思うかもしれないが、恋愛経験が乏しい私には、充分気になる理由となった。
でも、私なんかには手が届かない存在。想うだけ無駄だと知りながらも、気持ちが消えることはなかった。


           *


想い続けるだけで月日は経過し、特に接点もなく。
もうどうにもならないし、そろそろ諦めようと思った矢先の出来事だった。

「えー。皆様に大事なお知らせがございます。我社にとても大きな仕事を任せてもらえることになりました。
今からその大きな仕事に向けて、新しいプロジェクトを立ち上げます。各部署から数人、選出してください。よろしくお願いします。それでは以上で、朝礼を終了とさせて頂きます」

社長は言いたいことだけ言って去った。
社内はザワついていた。各部署の課長が社員に詳細を説明し、どんな大きな仕事が舞い込んできたのか、知ることとなった。
社員の反応はバラバラで。面倒くさそうにしている人もいれば、興味がない人、やる気に満ち溢れている人もいた。

私は正直、迷っていた。仕事内容的にやりたい気持ちもあるが、羽月くんがこのプロジェクトに参加するかどうかも気になっていた。
もし、参加するのであれば、私も参加したい。彼の様子を窺いながら、立候補しようか迷っていたら、課長が先に口を開いた。

「うちの部署からは、“ダブルハヅキ”に参加してもらおうと思う」

思ってもみないチャンスが訪れた。即座に返事をした。

「畏まりました。代表して、プロジェクトに参加させて頂きたいと思います」

課長は私が快く引き受けてくれたことを喜んでいる。
あとは慧くんがどう思っているのかが気になる。

「僕でよければ、やらせてください。よろしくお願いします」

慧くんもプロジェクトに参加することを表明した。私の心は一気に舞い上がった。

「おう。そうか。それじゃ、よろしく頼むぞ」

新しいプロジェクトに参加できるドキドキと、気になる人と一緒にお仕事ができるドキドキに、私は浮かれていた。


           *


次の日から新しいプロジェクトのチームに参加し、仕事を始めることになった。
急遽、新設されたこともあり、まだ色々とバタバタしている。
皆で協力し合いながら、なんとか落ち着くことができたのが昼過ぎ頃だった…。

「一旦、休憩にしましょうか」

プロジェクトのリーダーの声掛けにより、やっと昼休憩を迎えた。
お昼ご飯を買いに行こうと思い、歩き始めたら、呼び止められた。

「待ってください...!」

後ろを振り返ると、呼び止めた相手は羽月くんだった...。

「羽月くん。どうしたの?何かあった?」

「いえ。そういうわけではないんですが、その...」

言い淀んだ。何か言いづらいことなのだろうと身構えていたら、羽月くんがゆっくり口を開いた。

「一緒にお昼ご飯を食べませんか?」

想像していなかったことが起きた。まさか羽月くんにご飯に誘われるなんて、思ってもみなかったから。
嬉しかった。誘ってもらえたことが。私の答えは一つしかなかった。

「私でよければ、一緒に食べたいです。
なので、お昼一緒によろしくお願いします」

私の答えを聞いて安心したのか、嬉しそうな表情に変わった。
羽月くんの表情を見て、私の心は鷲掴みにされた。

「それじゃ早速、お昼ご飯を食べに行きましょう」

「うん。そうだね。行こっか」

こうして、ひょんなことから、二人でお昼ご飯を食べに行くことになった。


           *


羽月くんがおすすめのお店に連れて来てもらった。
そのお店は外観も内装もお洒落で。あまりこういった場に慣れていなくて。ソワソワしてしまう...。

「葉月さんは食べる物、決まりましたか?」

メニューを全然見ていなかったため、まだ何を食べたいか決まっていない。

「ごめんなさい。まだ決まってなくて...」

「そうでしたか。急かすようなことを言ってしまい、ごめんなさい」

羽月くんは何も悪くない。こういったお洒落なお店が得意ではない、私が悪いのだから。

「大丈夫だよ。羽月くんがそこまで気にする必要はないから」

「そうですかね?そう言って下さり、ありがとうございます」

二人の間に気まずい空気が流れ始める。
どうにか空気を変えるため、話題作りをしようと画策する。

「羽月くん。こんなタイミングで言うのもあれだけど、もう食べたい物が決まりました」

「そうなんですね。それじゃ、注文しちゃいましょうか。すみません...」

羽月くんのような人気者は、どんな場面にもすぐに臨機応変に対応できるんだなと思った。
同時に住む世界が違うなということを、再確認させられた。


           *


お昼ご飯を食べ終わった後、特に会話もせずに、会社に戻った。
もう二度とお昼に誘われることはないだろうなと思っていたが、次の日も羽月くんはお昼に誘ってくれた。羽月くんの気持ちが嬉しかった。
それから毎日一緒に食事をするようになって、距離が縮まった。
そんなある日、羽月くんから提案された。

「僕達、漢字は違いますけど、苗字が一緒なので、チームの人達が名前を呼ぶ時、どっちのことを指してるのか分かりづらいと思うんです。そこで提案なんですが、お互いに下の名前で呼び合うのはどうですか?」

確かに羽月くんの言う通りだ。業務を滞りなくこなすために、苗字が同じ私達は名前で呼び合う方がやりやすい。

「そうだね。それじゃお言葉に甘えて、慧くんって呼ばせてもらうね」

一瞬、慧くんの顔が赤くなった。慧くんのようなモテる男性でも、名前呼びされると照れるんだなと思った。

「分かりました。僕も京香さんって呼ばせてもらいますね」

男性に名前で呼ばれるのなんて、学生の頃以来なので、私まで顔が赤くなってしまった。

「うん。分かった。改めてよろしくね」

ただお互いの名前を呼んだだけなのに、気恥ずかしい空気が流れ始めていた。
上手く空気を変えられないまま、時間だけが過ぎていき、黙々と食事をし、会社に戻った。
距離が縮まっているはずなのに、なかなかあと一歩が踏み出せない。
ただの仕事仲間という関係なので仕方がないが、私が上手く会話を続けられないせいもある。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。