恋の微熱に溺れて…

和泉 花奈

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5度:不穏

17話

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「うん。そうしたい。だから、そうする」

「分かりました。それじゃ、ここで待っててください。鍵はかけておいてくださいね」

そう言って、慧くんは部屋から出て行った。きっと早退することを伝えに行ってくれたのであろう。
私は言われた通りに鍵をかけて、ここで待った。早く慧くんが駆けつけてくれないかなと思いながら…。
すると、足音が聞こえてきた。そして、再びドアがノックされた。
慧くんかもしれないと思い、開けようとした瞬間、声が聞こえてきた。

「葉月、ここに居るのか?」

この声は如月くんだ。ドアにかけた手を一旦引き、居ないフリをすることにした。

「…鍵がかかってるな。やっぱりここに居るのか?」

そう問われて、正直に答えるほど、バカじゃない。無視し続けた。

「このまま聞いてくれ。さっきは本当にごめん。逃げられるのが嫌で。自分の気持ちしか見えてなかった。
周りにはちゃんと説明しておいたから。俺達は付き合ってないって。
本当にごめん。それだけ伝えに来た」

如月くんはそれだけ伝えると、その場を去った。
私は突然のことに、まだ脳が追いついていなかった。
軽くショックを受けていると、また足跡が聞こえてきた。

「京香さん、慧です。開けてください」

今度こそ慧くんの声だ。私は迷わず、扉を開けた。

「すみません。お待たせ致しました。…京香さん、何かありましたか?」

慧くんは私を見てすぐに分かったみたいだ。
私は今あったことを正直に答えた。

「さっき如月くんが来て。謝って去ってたの…」

私の言葉を聞いた瞬間、慧くんの怒りは頂点に達した。

「…許せません。俺の彼女を傷つけておいて、俺の居ないところで接触しようとするなんて」

「ドア越しだったから、直接会ってはいないよ」

「そういう問題じゃありません。京香さんの気持ちを一切考えていないことに、腹を立てているんです」

慧くんのその一言を聞いて、私は腑に落ちた。
そっか。私がずっと感じていた違和感は、これだったのだと…。

「京香さん。俺、今日は京香さんを一人にしておけないので、家に来てください」

慧くんのたった一言に、私は救われた。
慧くんがいいのであれば、是非ともお邪魔させて頂きたい。

「うん。そうしたいです。なので、よろしくお願いします」

こうして、このまま慧くん家へ行くことになった。
慧くんも一緒に早退してくれて。とても心強かった。
きっと早退の報告をする時に、自分が送っていくと言ってくれたのであろう。
ついでに荷物まで持ってきてくれて。何から何までお世話になりっぱなしだ。

「ありがとう。慧くんが居てくれて心強いよ」

お礼を伝えずにはいられなかった。

「俺は京香さんのためなら、なんだってできますので」

「本当に慧くんのその気持ちがとても嬉しい」

「俺も嬉しいですよ。京香さんにそう言ってもらえて」

今はその一言が心の支えになっていた。
でもこの後、この一言が私の心の中を圧迫するなんて、この時の私は知る由もなかった。

「さて、お家に帰りましょうか」

照れて誤魔化された。そんなところも愛おしく感じた。


           *


慧くん家に帰宅して早々、慧くんは私を甘やかした。
まず一緒にソファに座り、私を後ろから抱きしめてくれた。
そして、温かい飲み物を用意してくれた上に、マッサージまでしてくれた…。
こんなの少女漫画でも見たことないくらい、甘やかされている。もう何もしたくなくなりそうだ。

「ありがとう、慧くん」

「気にしないでください。俺がしたくてしていることなので」

抱きしめてくれる温もりから、優しさが伝わってきた。
こんなにも誰かに想われたことなんてないから、少し戸惑うこともあるけど、慧くんの気持ちを嬉しく思った。

「その気持ちが嬉しいの。たくさん想ってもらえて、幸せだなって」

私も同じように、慧くんを想っているつもりだが、それが慧くんに伝わっているかは分からない。
慧くんみたいに、上手く伝えられるようになりたい。
もっと自分の気持ちを届けられるように、頑張ろうと思う。

「京香さんが幸せなら、俺も幸せです」

慧くんが耳元で甘く囁いた。
その声が私の心の中を軽くしてくれた。

「京香さん。何かしたいことや、してほしいことはありますか?」

いきなり言われても、すぐには思い浮かばない。
でも、強いて言うならば…。

「美味しいものが食べたいかな。安心したら、お腹が空いちゃった」

「分かりました。それじゃ、美味しいものをデリバリーしましょう」

そう言って、慧くんはスマホを取り出し、操作し始めた。

「うちの近所だと頼めるものは、この辺ですかね…」

色々なお店があり、私は正直、こういった形で注文するのは苦手なので、訳が分からなかった。

「ごめん。私、こういうの苦手だから、見せてもらってもよく分からなくて…」

私がそういうと、慧くんは優しく微笑んだ。
そして、笑いながら安心した顔をしていた。

「大丈夫ですよ。京香さんはこういったこと、苦手そうだなと思っていたので」

心配する必要はなかったみたいだ。
どうやら苦手なことは、バレていたみたいだ。

「ただ京香さんが、どんなものが食べたいのか知りたかったので、お見せしただけです」

確かに知らないと、食べたいものも見つからない。
慧くんの親切心を無駄にしてしまって、申し訳ないなと思った。

「ごめん。そうだとは知らず…」

「大丈夫ですよ。今から二人でじっくり見ましょう」

再び慧くんは、スマホの画面を見せてくれた。
画面上にはたくさんのお店があって。どのお店が良いのか、私にはよく分からなかった。

「京香さんは今、甘いものが食べたいとか、軽いものが食べたいとか、そういった希望はありますか?」

今の私の気分は、これしかなかった。

「私は軽食で、甘いものが食べたいな」

私の言葉を聞いた慧くんは、「分かりました。今、メニューを出しますね」と言って、スマホを操作し、メニューを見せてくれた。

「甘いもので軽食だと、こんな感じですね…」

先程より数は減ったが、それなりにまだ数はある。
その中から気になったものを見つけた。

「慧くん、これがいい」

私がいいなと思ったのは、オシャレなカフェのドリンクだ。

「このお店、いいですね。飲み物も食べ物もメニューが豊富ですし」

確かにメニューがたくさんある。選ぶのにまだ時間がかかりそうだ。
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