私が一番あなたの傍に…

和泉 花奈

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8章:新しい一歩と将来への不安…

19話

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「愁の言う通り、私達はまだ学生だからっていうのも一つの理由かな。それに私達はこれから就活だって控えてる。同棲している余裕なんてあるのかなって。私はまだ自分の将来のことさえ決まってなくて。これから考えなくちゃいけないのに、愁との将来についても考えなきゃいけないことに、不安と焦りが募っちゃって。上手く答えがまだ出せてないの…」

話したい…って誘っておいて、自分の気持ちがまだ固まってないなんて、愁は呆れたかもしれない。
それでも、愁と向き合うためには、自分の気持ちを伝えないと、愁に伝わらない。伝えたい相手には、ちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃ、何も前に進めない。
ただ付き合っていれば楽しいだけの時間は終わった。これからは愁と長く付き合っていくために、考えなくてはならないことは考えなくてはならない。
それが同棲。その先の結婚に続いていることを信じて、私も愁との未来に想いを馳せる。二人が永遠に続くことを願って…。

 「そっか。ごめん。焦らせたよな…」

「ううん。愁は何も悪くないの。私が楽な方に逃げてただけ。でも、さっき話して答えが見えたかも」

ずっと先の将来まで、彼氏が考えてくれていた。それだけでもう彼女としては、答えはたった一つしかなかった。

「え?つまりどういうこと?」

「同棲を前向きに捉えようと思う。学生同士だから、生活を続けるのは難しいかもしれないけど、愁となら乗り越えられると思うから」

どうにもならないことや、喧嘩も増えるかもしれない。それも二人で乗り越えていきたい。

「本当にそれでいいのか?…ごめん。俺、あれから色々考えて。人に相談して。自分達にはまだ早いんじゃないかって思えてきて。そしたら、急に不安が押し寄せてきて。真剣に付き合っているからこそ、大事にしたい。だから、こんなにも悩むんだってことが分かった」

愁の気持ちが充分に伝わってきた。あれから愁もたくさん悩んでいたみたいだ。
お互いにお互いのことを思い、考えていた。この事実だけで私はもう不安はない。

「本当にそれでいいよ。今の私達なら、大丈夫だと思う」

根拠なんてない。喧嘩してダメになってしまうかもしれない。
それでも、私達の関係性を一歩前に進めたい。まだ早いかもしれないけど、私達なりに頑張ってみたい。

「幸奈…。そう言ってくれてありがとう。そうだな。今の俺達なら大丈夫そうだな」

根拠のない自信を二人で信じてみることにした。この先も長く一緒に居るために。

「うん。大丈夫。一緒に頑張ろう」

今から同棲するにあたって、考えなくてはならない問題が山積みだ。
でもこの場は深く考えずに、同棲することを喜ぼうと思う。

「幸奈、同棲するにあたって、ご両親に挨拶したい。実家に行ってもいいか?」

まさか親に挨拶したいと言われるなんて、思ってもみなかった。
ちゃんと親のことまで考えてくれていたことを知り、本当に私は愁に愛されているなと実感させられた。

「親に挨拶しに行ってくれるの?」

私は地方出身なため、実家まで帰るのは少し遠い。
それでも実家まで挨拶しに行きたいと思ってくれるだろうか。そして、私も私で実家に帰っていないため、緊張する…。

「それはもちろん。だって真剣にお付き合いしてるから、長い目で見ても親御さんに挨拶しておきたいだろう」

見た目がチャラいから誤解されがちだが、見た目に反して真面目なのが愁。
私よりも常に先を考えてくれていて。愁となら将来、結婚するのかなという想像までできてしまう。

「そうだね。自分の親に恋人の良さを知ってほしいし」

愁の親にも、私のことを受け入れてもらえたら嬉しい。そして、自分の親にも愁との交際を受け入れてもらえたら嬉しいなと思う。

「そうだな。うちの親にも挨拶しないとな」

こうして、同棲と同時に両家への挨拶も決まった。なんだか色んなことが一気に決まって。目まぐるしく変わっていく目の前のことに、私の心は緊張していた。


            *


あれから愁と話し合った。私の実家が遠いため、私の実家から挨拶しに行くことになった。
何より驚いたのが、愁がバッサリ髪の毛を切ってきたことだ。

「どうしたの?その頭…」

何気なく私がそう聞くと、愁は恥ずかしそうに答えた。

「少しでもチャラさをなくすために、髪の毛を切ってきた」

どうやら自分で自分の見た目を気にしているみたいだ。過去にそう言われたことがあるのか、単純にうちの親に少しでも気に入ってもらえるように…なのか、真意は分からないが、それだけ真剣に向き合ってくれていることだけは分かった。

「いいじゃん。似合うよ」

髪型を新しくしただけで、新鮮で。新しい一面が見れた気がした。

「本当か?実は俺も新しい髪型、気に入ってるんだ」

人は見た目が第一印象の上で大事だ。きっと愁は見た目のせいで損してきたこともあるのだろう。
だからこそ、愁は気合いを入れてきたんだと思う。見た目からも誠意が伝わるように。
今までと違う自分になれて、愁も良い気分転換になったのであろう。
私は愁がそれで気持ちが晴れやかになったのであれば、それで構わない。私自身としては、どんな愁でも好きだから。

「そっか。自分が気に入っていることが一番だと思う」

「そうだな。あと俺的には大好きな彼女に好評だったのも大きいけどな」

さり気なく私の意見も肯定してくれる。それが愁の優しさであり、愛情表現でもある。

「私の意見も大事だったんだね。そう言ってもらえて嬉しい」

「そりゃそうだろう。だって彼女にはいつまでもかっこいいって思ってほしいから」

それは私も同じだ。いつまでも彼氏に可愛いって思ってもらいたい。
私も愁と同じ様に、努力し続けられるように頑張ろうと思う。

「うん。そうだね。私もいつまでもそう思ってもらえるように、頑張ろうと思う」

愁のご家族に会う際は、私もできるだけ綺麗めな格好を意識して、お家にお邪魔しようと思う。

「幸奈は充分、そのままで大丈夫だと思うけどな」

自分の親に紹介しても恥ずかしくないと、言われているような気がした。
それが更なる自信をもらえて。少しだけ親に会う緊張が解けた。

「ありがとう、そう言ってくれて」

愁とお付き合いするにあたって、色んなことがあった。
色んな人に迷惑をかけてきたし、決して順当にお付き合いできたわけじゃない。
だから、私達の交際を認めてもらえないかもしれない。罪には罰が与えられるべきだから。
でも、欲をかいてもいいのなら、自分の親にも、愁の親にも、私達の交際を認めてもらいたい。
もう愁のことに関しては、遠慮せずに欲張ると決めた。失いたくない。あなたと一緒に居られないのなら、私は他に何も望まない。
それぐらい、私の中では大恋愛だ。たとえ周りから見たら、大学生のおままごと恋愛でしかないとしても。

「当然だろう。俺の彼女は世界一可愛くて、いつでも自慢したいくらいなんだから」

それは私も同じだ。世界一かっこよくて、いつでも自慢したいくらいに。

「楽しみだな。幸奈の両親に会うの」

私も愁の親に会うのが楽しみだ。緊張もしているが、好きな人の親がどんな人なのかも気になる。そういった意味では、とても楽しみだ。

「私も楽しみ」

両家への挨拶を考えつつ、物件も探している。もちろん、両親のお許しを得てから一緒に暮らそうと思っているので、まだ物件を眺めているだけに過ぎないが…。
住む家を変えるだけで、できれば住む地域は変えたくない。大学もバイト先のことも考えると、その方が有難いから。
しかし、この辺の物件は、大学が近いこともあり、大学生の一人暮らし向けの物件が多い。そのため、同棲向けの物件があまりない。
せめて隣町にした方がいいのかもしれない。そう思い始めているが、どうしてもこの地域に思い入れがあるため、学生のうちはここから離れたくない。
こだわりすぎると見つからないと分かっていながらも、どうしても住む地域にこだわってしまう。
まだ時間があるし、急いでいないため、長い目で見ながらゆっくり探していた。今は両家への挨拶のことだけを考えていた。
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