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Part1 第一章

第一話 婚約解消

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 今思い返せば時々私は変な夢を見ていた。その夢はどこか懐かしくとても心が穏やかになる。私はショートヘアの黒髪の女の人にお母さんと言っていた。玄関の方から「朝練がある」と言ってすぐに家から出る弟と妹らしき人物。それに比べて私はギリギリの時間までテレビゲームを楽しんでいる。

 その姿を見た母親は「弟と妹を見習って規則正しい生活を送りなさい」と怒りながら言ってきた。だが私はその事に気に病むことも無く《私の波乱の恋の行方は…Part1》と言う題名のゲームを毎日している。友達に誘われて始めたがとても面白くて時間があればしている。
 そうしているうちに登校時間が迫ってくる。そんな日々を過ごしていた日は突如無くなった。享年18歳だった。死んだ原因は交通事故で私は沢山ある交通事故の中で死んだ1人だった。

 その記憶を思い出したのは私がアメリア・マルティネス公爵令嬢として15年間生きた時だった。この国の公爵家の中でも一番か二番に入る程の権力を持った家系だ。
 なぜ記憶を思い出したかと言うとーー

「アメリア・マルティネス公爵令嬢、僕と婚約解消して頂きたい」

 この一言が私の運命を大きく変えた。婚約解消、と言う言葉により私はショックを受けて前世の記憶を思い出してしまったのだ。この人の事をとても愛していたからとてもショックだった。

 前世の記憶が蘇って頭痛がとても酷くて数秒ポツンと立っていたが周りの人は「ショックを受けているのだわ」「現実か分かっていらっしゃらないのでは?」と言う声があがった。
 私は意識を取り戻して目の前にいる婚約者レオナルド・ネルソン、この国の第一王子に質問をした。

「婚約解消とはどう言う事なのでしょうか。理由をお聞かせ頂いても?」

 婚約とは親同士が決めたもの。つまり政略結婚。貴族の中ではよくある話で子供が婚約解消をしたいと言っても出来るものではない。ましてやこのお茶会の最中に言うものではない。婚約解消をしたいのであれば両家の親と一緒に話し合って決めなければならない。
 その過程を飛ばして公衆の面前で婚約解消をしたいなどと言ってはならない。言うということはそれなりに重大な理由があるにちがいない。例えば、失敗して罪を問われて身分剥奪されたことや親に私以上に相応しい相手が見つかってそちらとの婚約を進めてしまっていることなど…大抵、身分の事や親の事だと思った。

「何を言っている。とぼけるつもりか。貴様がエレナにしたことは分かっている」

 そう言い、バッと紙を私の目の前に差し出してきた。その内容はーー私がエレナ・ラミレス伯爵令嬢に対して暴力や暴言をしていたと書かれてあった。
 私は思わず二度見した。なぜそのようなことをしたのかと言うと、見せられた紙にはエレナ・ラミレスに私が暴力や暴言をしたと書かれていた。もちろん私はこの紙に書かれていることは一切していない。それにエレナ・ラミレスは私の従姉妹だ。なぜエレナに暴力や暴言をしないといけない。確かにエレナは私と比べると身分は低いが相手は伯爵令嬢だ。公爵令嬢が虐めないといけない理由なんて一切ない。

 そしてふと、思ったのだ。

 ーーこの展開見たことある。それは前世の記憶の方から思い出した。確か《私の波乱の恋の行方は…Part1》の悪役令嬢の断罪イベントだ。だが何故これを思い出したのだろうか。確かに展開は似ているが現実の私は何もしていない。事実無根だ。
 しかし…ゲームの登場人物の名前が同じな人間が多い。アメリア、レオナルド、エレナ。この三人の人物は今行われている断罪イベントで出てくるキャラクターである。
 これは…ゲームの世界だと潔く認めるしかない。私は《私の波乱の恋の行方は…Part1》の悪役令嬢に転生したことを。ゲームの通り進むなら私はーー。

「アメリア・マルティネス、貴様はエレナ・ラミレスに犯罪に近い行為を公爵令嬢としてはならないことを何度か行った。それによりーー」

 バッと今度は契約書みたいな紙を私に見せてきた。そこにはこの国の王様の名前と目の前にいるレオナルドの名前が書かれている。

「身分剥奪され平民とする。そしてアメリア・マルティネスは国外追放とする」

 身分剥奪…?国外追放…?私はエレナに暴力や暴言をしてはいない。だがレオナルドにそんな事を言っても聞く耳を持たないだろう。

 そう思っている時にレオナルドから少し離れた位置から肩ぐらいまである赤髪に海のような青い瞳を持ったエレナが現れた。あの位置からだと私が婚約解消され国外追放される話は聞こえているだろう。だがエレナの顔は笑顔だった。従姉妹が婚約解消される時に浮かべる顔ではないだろう。
 なら今回の主犯はエレナで間違いない。顔色一つで犯人に仕立てあげるのは間違っていると思うがエレナが犯人だろうと言う理由は他にもあった。

 それはエレナが私の物を欲しがる性格にある。物だけでなく人も。今まで気に入ったドレス、友達、全て私から取っていった。ドレスは仲良くなった両親を説得して私から奪っていった。私はエレナがどうしても欲しいと言うからあげた。エレナが着たほうがいいと思って渡した。だが心の中ではエレナに渡したくなかった。仲良くなった友達はエレナの方が好きになり、私から離れてエレナと一緒にいるようになった。

 だから婚約者のレオナルドにも目をつけるとは思っていた。ここ最近のレオナルドは私と会ってくれなくなりエレナと一緒にいる目撃情報が出ていた。あんなに可愛い女の子が言いよってきたらどんな男も惚れてしまう。事実、レオナルドはエレナに惚れてこんな事までしてしまっている。

 だが私は身分剥奪され平民になると聞いた時はとても嬉しかった。

「平民になるって本当ですか!?」

「ああ。1週間以内にこの国から出てもらうことになっている」

「よっしゃー!!!」

 私が満面の笑みで叫ぶと他の人がギョっとした顔で私を見てきた。

 なぜ満面の笑みかと言うと、私はずっと平民になりたかったからだ。そう思ってしまっているのは前世の記憶のせいかと思う。前世の私は庶民として15年間生きていた。だが親の事業が成功して金持ちになった。普通は喜ばしいことだが私はそうではなかった。
 なぜなら元庶民の私が金持ちの生活にとても窮屈していたからだ。だからいつも心の中で失敗して借金まみれになれと不吉なことではあるが思っていた。私にはシャンデリアがある家なんて嫌でしょうがなかった。

 だから平民になると聞いた時は嬉しかった。平民になったらエレナに暴力や暴言をしたことを認めてしまうことでもあるが平民になることはとても喜ばしいことだった。それにレオナルドにいくら弁解をした所で話を聞いてくれるとは思えない。

 それに平民になることでエレナと会わずに済む。もう、こんな思いをしなくて良いのだ。
 この事を鵜呑みにすることで私は逃げ道を作り出そうとした。

「平民になりたかったのでとても嬉しいですわ!」

「……そうやって意地を張るのはやめろ」

「意地を張っているように見えますか?」

 レオナルドは黙り込んだ。でもその気持ちは分からなくもない。公爵令嬢の私が満面の笑みで「平民になりたかった」などと言えば疑いたくもなる。

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