すいませんが、この人は自分のものです

アカシア

文字の大きさ
13 / 33

第13話 言霊

しおりを挟む
私は今、蒼君の胸に顔を埋めています
何で埋めてるんだって?
理由は簡単です、恥ずかしいから
考えてみてください、もし、自分が、電車の停止により、バランスを崩れたら
――恥ずかしいでしょう

しかも、倒れて、支えてくれた人が好きな人兼夫
やっぱり、好きな人には、恥ずかしい姿は見せたくないのが普通でしょう

後1駅
それまでの辛抱です、澪

「ねぇ、あの子」
「ふふ、可愛いわね」

付近の人達が、私の姿を見て何か言っているのが、完璧ではありませんが、なんとなくの予想でわかります

「澪、大丈夫?」

私の背中にはゴツゴツとした、たくさんバスケットボールの練習をしたんだと伝わるような左手が添えられました

「大丈夫、です…」
「後1駅だから、我慢して」
「はい…」

大丈夫、蒼君がついてます、何も問題は起こらないはず

「可愛いな」
「それな、どこ高だろう」
「聞いてこいよ」
「無理に決まってるだろ」

私が、蒼君を買い物に誘った理由の1つ、こんな風に、全く知らない男性が、近づいてくるから

私は無意識に、蒼君の腕をいつも以上に強く握った
蒼君は、一瞬、困惑した顔を浮かべていたけど、すぐに意図を汲み取ってくれました


私は、蒼君の胸で安心していました。
もし、知らない男性が近づいて来ても、蒼君は私を守ってくれるはず

しかし、安心しきった心はとても脆かった
たった一言で安心しきった心を壊したんだから

「あいつ…どこかで見たような」

その声が、頭の中で何かがはじけたかのように響いた。

突然、胸がざわつき、過去の記憶がフラッシュバックのように蘇る。転校する前の苦い思い出、人にじろじろ見られたあの嫌な経験。ひとりになりたくて、それでも誰かの目から逃れられなくて、息が詰まるような日々。あの頃の感覚が、再び襲いかかってくる。

「澪、大丈夫か?」

隣の蒼君が心配そうに声をかけてくれているのは分かっているのに、言葉が出てこない。体が強ばって動けない。視界がぼやけて、息が少しだけ浅くなる。電車の騒音が耳に響いて、まるでここではない場所に連れていかれそうな感覚。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

蒼君の心配そうな顔が視界に入ると、胸の奥がキュッと締め付けられるようだった。

大丈夫、大丈夫、大丈夫

必死に落ち着こうとしたけれど、視界がぼやけて、体がすっかり言うことを聞かなくなっていた。
そのとき、隣で蒼君の声がふと耳に入った。

「澪、大丈夫、おれが守るから」

その言葉に安心したものの、状況をうまく飲み込めず、ただ蒼君の顔を見つめることしかできなかった。でも、彼は私の頭をそっと撫でてくれて、私が動くよう促してくれた。私は蒼君に従うまま、なんとか立ち上がり、蒼君の導きに従って目的の駅ではない駅で電車を降りた。

ホームに降りると、冷たい風が吹き込んできて、それが少しだけぼんやりとした意識を覚醒させてくれた。深呼吸しても、まだ胸がざわざわとしていたけれど、蒼君がそばにいてくれると思うと少しだけ気持ちが楽になった。

「…ここで少し休もうか」

蒼君がそう言って、私をベンチへと案内してくれた。座ると、さっきから動揺が止まらない自分が悔しくて、でも何もできない無力さが悲しくて、顔を伏せたまま彼に頼ってしまっている自分が恥ずかしかった。

「…ごめんなさい」

それだけがやっと口から出た言葉だった。彼をこんなふうに巻き込むつもりじゃなかったし、ただ楽しい買い物にしたかっただけなのに。どうして私は、こんなに弱くて、こんなふうに彼の前で崩れてしまうのだろう。

だけど蒼君は、私がどんなに情けない姿を見せても、ずっと、守ってくれた

「大丈夫だよ、何があっても俺は澪のそばにいるから」

その優しい言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。その瞬間、私が一人じゃないんだと改めて思えて、少しだけ気持ちが落ち着いた。

蒼君に何も言えないけれど、彼がそばにいてくれることがどれだけ心強いか。こんなにも彼の存在が自分を支えてくれてたなんて……蒼君がいないと、まともな生活を送れてなかったかもしれない
蒼君が私を支えてくれていることを、今まで以上に強く感じた。
私はこの気持ちに応えられるように、いつか彼に心の奥にあるものを素直に伝えられる日が来ればいいと、そっと心に願った。
そして私は蒼君の胸に寄りかかった

「次の電車まで、このままにさせてくれませんか?」

蒼君はこんなにも弱い私を受け入れてくれた

「うん、いいよ」

蒼君は私の背中に腕を回し、優しく、抱きついてくれた

◆◆◆

さぁ、考察タイムと行こうか

澪があんな風になった原因は、多分

『あいつ…どこかで見たような』

これで、澪は気分が悪くなり、過呼吸にもなった
そして、顔も青ざめてた

1番妥当な考えは、虐めとかなんだろう
虐めだったら、あのおれの体で隠していた火傷の後も直ぐに理解できる
過呼吸になったのも、トラウマで解決できる

しかし、おれはこの考えを否定したい、でも、それ以外の仮説が立てれない

転校してきたのも、虐めで解決できちゃうし、セーラー服の裾が長いのもを、皆んなに見られないようにしたい、見られて、今まで気軽に話してた関係が壊れるのを防ぎたいから

……いや、考えるのやめよう
今日は買い物を楽しんで、いつか、精神科に連れて行くか

おれは、無意識に、澪を強く抱きしめた

まだ7月だって言うのに、何故か風が肌寒く感じる





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...