万能強奪(スキルテイク)で餌付け無双 ~Fランクの俺、封印されていた神話級美少女を助けたら「最強の番(つがい)」として溺愛されました。

式条 玲

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第一章 異世界転生者と神話の暴食姫

第3話:誘惑の紫水晶

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 洞窟どうくつを脱出した俺たちは、最寄もよりの都市に到着していた。

 今の俺たちの格好は、人目をしのぶには丁度いい。
 俺は引き裂かれたスーツの上に、シルヴィアは漆黒しっこくのドレスの上に、それぞれ洞窟の白骨死体から拝借はいしゃくした薄汚うすぎたないローブを羽織はおっているからだ。

 【ルルデン】はこのあたりではさかえている都市だ、と門番が得意げに説明していた通り、中は活気にあふれていた。
 文無しは冒険者組合ギルドか、もしくは国営の仕事斡旋所あっせんじょへ行けと助言されたので、俺たちは迷わずギルドを選んだ。

 酒と汗の匂い。荒くれ者たちの怒号どごうと笑い声。
 扉を開けると一瞬だけ視線が集まるが、俺たちの薄汚い格好を見てすぐにらされた。

「新規登録を頼みたい。二人だ」

 受付の女性職員は、事務的な態度で水晶玉を取り出した。

「はいはい、身分証がないなら登録料で銀貨2枚ずつね」

「現金はない。これで頼む」

 俺はポケットから、アシッドスライムを倒した時に手に入れた光石こうせきを数個、カウンターに転がした。
 ローブを拝借はいしゃくした白骨死体からは、少しの銀貨も手に入れることが出来たが、まだ通貨の価値が分からない以上、下手に浪費ろうひはしたくない。

「……ふん、質の悪い魔石ね。まあ、登録料くらいにはなるかしら。まずはアンタからね」

 職員はそう言うと、露骨ろこつ面倒めんどう臭そうな態度で俺の方を見た。

「ああ」

 俺は水晶に手を置く。
 一瞬のあわい光と共に、空中にステータスが表示された。

 【名前:カナメ】
 【職業:なし】
 【保有スキル:万能強奪スキル・テイク

「……ん? 『万能強奪スキル・テイク』? 初めて聞くスキルね……」

 職員がまゆをひそめた。
 俺は心臓が跳ねるのを抑え、「ああ、これは盗賊シーフ系のスキルです」と適当な嘘をつく。
 職員は「戦闘向きじゃなさそうね」と鼻で笑い、羊皮紙ようひしに書き込んだ。

「判定はFランク。一番下よ。次はそっちの彼女」

 職員があごでしゃくると、シルヴィアが一歩前に出た。
 その瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。

 ――待てよ。
 この水晶、どこまで表示される?
 コイツは仮にも洞窟の底で封印されていたような怪物だぞ。
 もし【種族:月蝕の神喰らいエクリプス・イーター】なんて表示されたら、その時点で俺たちは「人類の敵」認定だ。

(シルヴィア、待て!)

 俺が止めようとするより早く、シルヴィアの白く細い手が水晶に触れていた。

 バチッ!!

 鋭い音が響き、水晶玉が激しく明滅めいめつした。
 俺の時ににぶく光っていたが、反応が違うようだ。
 代わりに、水晶の中が泥を流し込んだようにどす黒くにごり始めた。

「きゃっ!? な、なによこれ!?」

 職員が悲鳴を上げて手を引っ込める。
 シルヴィアは小首を傾げ、不思議ふしぎそうに俺を見た。
 ……そうか。彼女の魔力にエラーを起こしたのかもしれない。こんな冒険者組合ギルドにある安物の測定器で、測りきれるわけがない。

 だが、これはチャンスだ。

「……あー、すみません。連れは生まれつき魔力の扱いが得意ではなくて」

 俺は咄嗟とっさに嘘を重ねた。

「魔力をうまく制御できなくて、魔導具にさわるとよく変な動作を起こさせてしまうんです」

「はぁ? もう、勘弁してよ……壊れたかと思ったじゃない」

 職員は水晶をペチペチと叩き、黒いモヤが消えたのを確認して溜息をついた。

「ステータスが見えないんじゃ評価しようがないわね。まあ、その細腕じゃ剣も振れないでしょうし……彼女もFランクでいいわね?」

「はい、それで構いません」

「まったく、無能な男に病持ちの女……お似合いのカップルだこと」

 職員はあざけるように言い捨て、鉄で出来たプレート(Fランクの証)二枚と、俺たちの名前が魔法で刻印されたカード二枚を放り投げた。
 俺は内心でガッツポーズをした。
 これでいい。
 俺たちは「無害なFランク」という隠れみのを手に入れた。

「よし、行こうかシルヴィア」

「……」

 俺は振り返り際、ふところから「コロン」と音を立てて、一つの石を床に落とす。
 シルヴィアを封印していた紫水晶アメジスト。俺がした際、砕けて飛び散った破片はへんをいくつかひろっておいたのだ。
 親指サイズしかないが、それでも、この薄暗い建物の中では燦然さんぜんあやしくきらめいた。

「おっと、いけない」

 俺はあわててそれを拾い上げる。
 だが、その一瞬の輝きを見逃さない連中がいた。

「おいおい、兄ちゃん。随分ずいぶんといいモン持ってるじゃねえか」

 近づいてきたのは、がらの悪い3人組の冒険者。
 そしてその背後、ギルドの奥の席では、いかにも上質な装備に身を包んだ金髪の男が、するどい視線をこちらに向けていた。

 金髪の男の表情に、明らかな「欲望」が浮かぶのが見えた。
 計算通りだ。
 「Fランク」というレッテルのおかげで、最高のカモが釣れたかもしれない。

「おい、聞いてんのか? その宝石と、後ろの女を置いてけ。そうすりゃ見逃してやるよ」

 目の前のチンピラが剣に手をかける。
 俺は小さくため息をつき、その肩に手を置いた。

 【対象:Dランク冒険者】
 【強奪可能スキル:初級剣術Lv2、威圧】

『――スキル【初級剣術Lv2】、【威圧】を強奪しました』

 手のひらから伝わってきたのは、乾燥した砂を噛んだようなジャリジャリとした不快感だった。 浅い。薄い。何の深みもない、ただ覚えただけの技術。

「……不味まずいな」

 俺は思わずつぶやいた。

「は?」

 男の動きが止まった。
 いや、止まったのではない。男は振り上げた剣をどうすればいいのか分からず、困惑こんわくした顔で自分の手を見つめているのだ。
 まるで、初めて剣をにぎった子供のように。

「な、なんだ? 腕が、振り下ろせねえ……!?」

「振り方はこうだろ?」

 俺は男の手から剣をスッと抜き取った。
 奪ったばかりの【初級剣術】が、俺の体に最適な重心移動と筋肉の動きを教えてくれる。
 俺は流れるような動作で剣を一閃いっせんさせた。

 ヒュンッ!

「ひっ……!?」

 男の腰ベルトだけが綺麗きれいに切断され、ズボンがずり落ちる。
 マヌケな下着姿をさらし、尻もちをついた。

「剣の使い方も知らないのか? 冒険者組合ギルドの訓練場からやり直した方がいいぞ、先輩」

「て、テメェ……何をした!? 魔法か!?」

 男たちはパニックになり、逃げ出すように建物から出ていった。

 静まり返るギルド。
 誰もが「Fランクの新人が、Dランクを一瞬で制圧した」事実に驚いている。
 だが、俺の狙い通り、奥の席にいた金髪の男だけは違う反応をしていた。

 彼らはひたいを寄せ合い、俺のふところのポケット――さっきの宝石をしまった場所――を凝視ぎょうししながら、ヒソヒソと何かをささやき合っている。
 その粘着質な視線を見れば、何を話しているのかなど手に取るように分かる。

 『あの素人が勝てたのは、あの宝石のおかげだ』
 『あれは身体能力を強化するアーティファクトに違いない』

 ……そんなところだろうか。
 金髪の男の瞳には、隠しきれない貪欲どんよくな光が宿やどっていた。
 完璧だ。
 俺は「自分の力」ではなく、「アイテムの力」で勝ったと思われている。

 俺が紫水晶アメジスト落とした理由は二つあった。

 ひとつは、紫水晶アメジストの価値を測るためだ。文無もんなしの俺たちが商人へ宝石を持って行っても、足元を見られ、安く買いたたかれていたことだろう。
 こいつらの反応から察するに、この紫水晶アメジストは、人をおそってでも手に入れたくなる程度には魅力的に見えるらしい。

 そしてもうひとつの理由は、紫水晶アメジストに釣られたやつからスキルを奪うことだ。
 この紫水晶アメジストに本当に価値がないのであれば、それならそれでどうでもよかった。
 価値があることが分かった以上、これから接触せっしょくして来るやつらは、戦闘慣れしている――つまり、有用な戦闘向けのスキルを持っている可能性が高い。

「行くぞ、シルヴィア」

「はい、カナメ様」

 俺たちはギルドを出ようとした。
 しかし、急なくらみにふらつき、ひざをついてしまった。
 ズキズキと、こめかみが痛む。

「カナメ様、顔色がすぐれませんわ……ちょっと『食べ過ぎ』たのかも知れませんね。」

 心配そうにシルヴィアが俺の顔をのぞき込んだ。


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