万能強奪(スキルテイク)で餌付け無双 ~Fランクの俺、封印されていた神話級美少女を助けたら「最強の番(つがい)」として溺愛されました。

式条 玲

文字の大きさ
2 / 11
第一章 異世界転生者と神話の暴食姫

第2話:封印された神話の暴食姫

しおりを挟む

 スライムを処理した後、俺は洞窟どうくつの奥へと進んでいた。 
 道中、何度か魔物の気配を感じたが、今の俺には視界に頼らずとも周囲を感知出来る手段を得ていた。天井に張り付いていた巨大なコウモリ――【ブラッドバット】を見つけたのは僥倖ぎょうこうだった。

 【対象:ブラッドバット】 
 【強奪可能スキル:超音波、魔力感知、吸血】

 俺の目には、あいつが「飛ぶ宝箱」に見えていた。俺はスライムから奪った【酸弾】をはなってコウモリを地面に叩き落とし、暴れるその体に容赦ようしゃなく手を触れた。

『――スキル【魔力感知】および【超音波】を強奪しました』

 生温かい血液をすすったような、鉄錆てつさびの味。 
 魔物のスキルだから、不味まずいのか、あるいはスキルというものが、総じて不味まずいのか。
 コウモリが動かなくなるのと同時に、俺の視界がひらけた。
 周囲にただよう「魔力の流れ」と、ね返る「音の波」が、地形を3Dマップのように脳内に描画びょうがしているのだ。

「……ん? なんだ、この流れは」

 【魔力感知】が、異常な反応を捉えた。
 ダンジョンの最奥から、けた違いの魔力が奔流のようにあふれ出している。
 スライムやコウモリのような泥水めいた魔力ではない。もっと純粋で、濃密な……。

 まるで、そこに「魔力の太陽」があるみたいだ。
 俺はその匂いに惹かれるように、足を速めた。

 やがて、空気が一変した。
 腐臭ふしゅうと湿気に満ちていた洞窟が、なめらかに整えられた人工的な石畳いしだたみへと変わる。
 そして最奥の広間に足を踏み入れた瞬間、俺はその光景に息を飲んだ。

「なんだ、これ……」

 広大なドーム状の空間。

 その中心に、巨大な紫水晶アメジストの塊が鎮座していた。

 いや、ただの水晶ではない。 

 水晶の中には――ひとりの少女が閉じ込められていた。

 月光をんだような銀色の髪。透き通るような白い肌。
 豪奢ごうしゃ漆黒しっこくのドレスをまとい、両手を胸の前で組んで眠るその姿は、この世のものとは思えないほど美しく、そしてどこか禍々まがまがしかった。

 俺の視界に、警告色のような赤いウィンドウが浮かび上がる。

【対象:神喰らいの魔神の封印】
【ランク:神話級ミソロジー
【強奪可能:封印術式の構成魔力】

「神話級……?この紫水晶アメジストが封印術そのものということか……?」

 表示された文字に冷や汗が出る。
 だが、俺の視線はすぐに、封印の奥にいる少女のほうへと移った。

【対象:シルヴィア】
【種族:月蝕の神喰らいエクリプス・イーター(封印状態)】
【強奪可能:???(測定不能)】

 測定不能のエラーが出るほどの化け物。関われば死ぬ。俺の生存本能がそう警鐘を鳴らす。
 だが、その寝顔はどこか寂しげで――かつて社会の歯車として使い潰され、孤独に死んだ自分と重なって見えた。

「……こんな暗い場所に一人きりじゃ、目覚めが悪いよな」

 俺は無意識に、水晶の表面に手を触れていた。
 助けようと思ったわけじゃない。ただ、その美しさに触れたかっただけかもしれない。

 だが、俺のスキルは「極上の獲物」を見逃さなかった。

『――神話級結界【絶対封印アブソリュート・シール】を検知』
 『ユニークスキル【万能強奪スキル・テイク】を発動。術式構造を解体、および捕食を開始します』

 バキィッ!! と高い音が響いた。

 俺の手が触れた場所から、魔法陣を構成する光の文字が、俺の手のひらへと吸い込まれていく。
 数百年、あるいは数千年もの間、彼女を縛り付けていた絶対的な鎖が、俺という「捕食者」によって咀嚼されていく。

「ぐ、ぁ……ッ!?」

 熱い。痛い。全身の血管が膨張する感覚。
 体が爆発して肉片にでもなってしまいそうだ。
 だが、俺の脳髄のうずいを駆け巡ったのは、死の恐怖ではなく――極上の陶酔とうすいだった。

 甘い。
 とてつもなく甘く、濃密で、芳醇ほうじゅんな魔力の奔流ほんりゅう
 数千年の時を経て熟成された最高級の神酒ネクタルを、喉の奥へ直接流し込まれているようだ。

「は、ぐ……ッ、ぁ……」

 許容量を超えた快楽に、背骨が震える。

 全身が焼き切れる寸前の熱量。だが、俺の【万能強奪スキル・テイク】は、そのすべてを一滴残らず飲み干し、俺の肉へと変えていく。
 コップ一杯の水しか入らなかった俺の器が、強引に湖サイズまで広げられていくような感覚。

 やがて、最後の一滴まで味わい尽くした時――水晶が音もなく霧散むさんした。

 支えを失った少女の体が、重力に従って傾く。
 俺は荒い息を吐きながら、慌ててその細い体を受け止めた。

「……ん……」

 長い睫毛まつげが震え、ゆっくりとまぶたが開かれる。

 そこにあったのは、宝石のような紫色の瞳。
 眠りから覚めたばかりの彼女は、消滅した魔法陣と、飛散した紫水晶アメジスト、そして自分を抱きとめている人間おれを見て、数秒沈黙し――。

「……わたしの呪いを、食べたの?私を触っても平気なの?」

 鈴を転がすような、美しい声だった。

「……?ああ、特に痛みはないぞ」

「勇者たちが命がけでほどこした『絶対封印アブソリュート・シール』を、味わうように……跡形もなく?」

 「あー……結果的にそうなったみたいだな。紫水晶アメジストに触ったら、勝手にスキルが発動して」

 俺が弁解べんかいしようとすると、彼女は俺のほほに冷たい手を添え、至近距離で瞳を覗き込んできた。
 値踏みではない。それは、畏怖いふと歓喜が混じったような、熱っぽい視線。

「嘘よ。ただの人間ごときに、あの膨大な魔力の塊は飲み込めない。触れた瞬間に魂ごと蒸発するのがオチだわ。わたしにだって食べれなかった神話の封印なんだもの」

 彼女は艶然えんぜんと微笑んだ。
 それは魔性の笑みでありながら、どこか求婚者のような甘さをはらんでいた。

「でも、貴方は平気な顔をしている。あれだけの『極上の味』を飲み込んで、なおたましいに余裕があるなんて……」

「……余裕なんてないぞ。死ぬかと思った」

「ふふっ、謙遜けんそんしなくていいわ。わたしには分かるもの。貴方、人間種に見せかけているけれど、わたしよりもずっと『上位』の捕食者でしょう?」

 彼女――シルヴィアは、俺の首に腕を回し、うっとりと身をゆだねてきた。


「認めましょう。貴方様が私わたくしの運命の王子様なのかもしれません。……我が主、御名みなをお聞かせ願えますか?」


「……カナメだ」

「カナメ様。……ふふ、素敵な響きです」

 彼女は婀娜あだっぽくささやくと、ゆっくりと俺から身体を離した。
 そして一歩下がると、美しい漆黒のドレスをつまみ、うやうやしくカーテシーをしてみせた。表情はどこか小悪魔的だった。

 どうやら俺は、とんでもない怪物の封印を「美食」として平らげ、あまつさえ封印されていた怪物から、「もっとヤバい怪物」だと勘違いされてしまったらしい。
 だが、体の中で渦巻うずま芳醇ほうじゅんな魔力を感じる。あの封印結界が、俺に膨大な魔力を与えてくれたのだ。

 ……この俺なら、本当にどんなやつが相手だって倒せるかもしれない、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...