万能強奪(スキルテイク)で餌付け無双 ~Fランクの俺、封印されていた神話級美少女を助けたら「最強の番(つがい)」として溺愛されました。

式条 玲

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第一章 異世界転生者と神話の暴食姫

第5話:『疾風』の罠

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 バクスのパーティと共に、俺たちは【大森林の地下迷宮】に潜っていた。このダンジョンは、地下へ進むほど強力な魔物が現れる構造になっているらしい。

 俺とシルヴィアの役割は、彼らの荷物持ちポーター
 表向きはそうだが、連中の狙いが俺のふところにある「紫水晶アメジスト」であることは明白めいはくだ。

「カナメ君、遅いぞ! その程度ていど荷物にもつで息を上げるな!」

「す、すみません……!」

 巨大なリュックを背負せおわされ、俺は演技たっぷりに息を切らせて見せる。  実際には、スライムから奪った【物理耐性】と、コウモリから奪った【超音波】による平衡へいこう感覚強化のおかげで、この程度の重量など羽毛のように軽い。
 だが、ここで余裕を見せるわけにはいかない。

(……それにしても、いい匂いだ)

 ふと、鼻を抜ける香ばしい香りに意識がいった。 
 俺はバクスの背中を見つめながら、視界に浮かぶウィンドウを確認する。

【対象:バクス】
【強奪可能:音速加速、上級剣術、短剣術、危険察知】

【対象:パーティメンバーA(戦士)】
【強奪可能:剛力、盾術】

【対象:パーティメンバーB(魔導士)】
【強奪可能:火魔法Lv3、マナ回復】

 歩くビュッフェだ。

 特にバクスの【音速加速】は、そこにあるだけで鼻腔をくすぐるような、スパイシーで刺激的な香りを放っている。
『音速』という名前からして、ただ足が速くなるだけじゃないはずだ。おそらく、俺の身体能力を劇的げきてきに変える「メインディッシュ」級のスキル。
 あれを食えば、どんな味がするんだろうか。

「ギャアアアッ!」

 前方から、おおかみ型の魔物の群れが現れた。
 バクスの仲間の一人が、俺たちに向かって叫ぶ。

「チッ、【キラーウルフ】だ! おい新人、下がってろ!」

「こいつらはれで連携してくる! かこまれたらFランクのお前らなんざ秒殺びょうさつだぞ!」

 5匹のけだものが、大口おおぐちを開けてこちらへ向かってくる。
 なるほど、動きが統率とうそつされている。Fランクの俺たちなら、遭遇そうぐうした時点で死を覚悟する相手というわけか――。

「チッ、雑魚ざこが。俺が行く!」

 バクスが前に出た。
 次の瞬間、彼の姿がブレた。

「――【音速加速ソニックアクセル】」

 ヒュンッ!!

 風を切る音だけが残り、バクスの姿がき消える。
 いや、消えたのではない。速すぎるのだ。
 一瞬でキラーウルフのふところもぐり込み、短剣で首を切り裂き、その勢いのまま次の個体へ。

 ドサッ、ドサッ、ドサッ。

 数秒後、バクスが元の位置に戻ってくると同時に、その獣たちは血をき出して絶命ぜつめいしていた。

「ふん、準備運動にもならねえな」

 バクスが髪をかき上げながら、チラリとこちらを見る。
 俺は期待通りに驚いて見せた。

「す、すげぇ……! 今、何も見えませんでした!」

「ははは! まあFランクの動体視力じゃ無理もないさ。これがAランクの実力ってやつだよ」

 バクスは鼻高々に笑っている。

 だが、俺の目はごまかせない。
 今の動き……加速の瞬間に魔力のタメがあった。俺の【魔力感知】はそれを逃さなかった。
 そして、停止時にわずかな硬直が発生する。
 強力だが、燃費が悪く、スジが多い。
 ――調理法つかいかたが下手だ。俺なら、もっと上手くさばける。

すごいですわ、バクス様。まるで風のようでした」

 シルヴィアも、わざとらしいお世辞せじを言って拍手はくしゅしている。
 その瞳の奥が、「早くあれを味わいたいですわ」と俺にうったえかけているのを感じて、俺は苦笑くしょうした。
 あせるな。いただくのは、もっと奥へ行って……向こうが牙をいてからだ。

   ◇

 順調じゅんちょう階層かいそうを進み、俺たちは地下5階層に到達とうたつした。
 ここは本来、Bランク以上のパーティがいどむ危険地帯らしい。
 空気もよどみ、壁の向こうから聞こえる魔物のうなり声も低く、重くなっている。

「さて、ここらで少し休憩きゅうけいといこうか」

 バクスが足を止めたのは、行き止まりの部屋の前だった。
 部屋の中央には、不自然なほど大きな宝箱が置かれている。

「おっ、宝箱だ! ついてるぜ!」

「待ってください、バクスさん。なんか嫌な予感がします」

 俺は忠告した。これは演技ではない。

【魔力感知】と【超音波】が、部屋の中にひそむ「大量の気配」をとらえていたからだ。
 だが、バクスは聞く耳を持たない。

「大丈夫さ、カナメ君。俺たちがついてるんだ」

「おい新人、さっさとその宝箱を開けてこいよ。罠解除の練習だ」

 ドガッ!

 パーティの戦士に背中をられ、俺とシルヴィアは部屋の中へとたたらをんだ。

 俺たちが宝箱に近づいた、その時。

 ガシャァァァン!!

 背後の入口に、重厚じゅうこう鉄格子てつごうし落下らっかしてきた。

「え?」

 俺は振り返る。

 鉄格子てつごうしの向こう側で、バクスたちがニタニタと笑っていた。

「悪いな、カナメ君。
 そこは『魔物の巣モンスターハウス』なんだわ」

「え……? バクスさん、何言ってるんですか? 開けてください!」

「開けるわけないだろ?そこにいる魔物は、新鮮しんせんな肉にえてるんだ。」

 バクスの本性があらわになる。
 さわやかな笑顔は消え、そこにあるのは卑劣ひれつな捕食者の顔だった。

「死ぬ前にカナメ君の持っている『宝石アメジスト』、こっちに投げてくれないか? 死体から探すのも手間だからさぁ!」

 バクスが鉄格子てつごうし隙間すきまから手を伸ばし、ゲラゲラと笑う。
 俺はおびえたふりをくずさず、しかし内心では冷静に分析ぶんせきしていた。

(なるほど。自分たちで手をくださず、魔物に俺たちを殺させる気か……)

 Aランクの実力があれば、Fランクの俺たちを殺すなど造作ぞうさもないはずだ。

 だが、奴はそうしなかった。
 理由は一つ。俺が持っている「宝石アメジスト」だ。
 奴はあれを、俺ごときがDランクを一撃いちげきたおせるほどの「強力な自動防衛機能付きオートディフェンスアーティファクト」か何かだと勘違いして、警戒しているのか。

 もし直接攻撃して、宝石アメジスト反撃カウンターを食らったらたまらない。だから、魔物を使って安全に所有者オレを始末し、主を失った宝石だけを回収する。

 臆病おくびょうなほどの慎重しんちょうさ。

 それが、この男がAランクまで生き残れた理由か。

 ズズズ……ッ。

 部屋の奥のやみから、巨体が姿をあらわす。
 豚の頭に、丸太のような腕。【オーク】だ。それも一匹や二匹ではない。十、二十……部屋を埋め尽くすほどの軍勢ぐんぜい
 殺気さっきと、吐瀉物としゃぶつのような悪臭あくしゅう充満じゅうまんする。

 俺は、シルヴィアを抱き寄せた。

「おいおい、声も出ねえのか? 最後に命乞いのちごいくらいしてみせろよ!」 

 魔導士の男が、ゲラゲラと下品に笑いながらはやてた。

「バクスさん、助けて……! なんでこんなことを!俺たちが何かしたんですか……!?」

「悪く思うなよ。君が持ってるその宝石……かなり貴重なアーティファクトだろ?俺たちが効率よく強くなるためにはそれが必要なのさ。Fランクなんかが持ってても仕方がないだろ?これは適材適所……つまり『資源の有効活用』ってやつさ」

 バクスはニヤリと笑い、両手を広げた。

 やはり、か。

「Fランクのお前らが、Aランクの俺たちの踏み台になって死ぬ。どうだ? 社会の役に立てて光栄だろう?」

 パーティの戦士がバクスに同調するように言った。

「宝石が欲しいだけなら直接奪えばいいじゃないですか……!こんなところに閉じ込めて殺そうとするなんて……!」

「なぁに、下手に俺が攻撃して、変な呪いや反撃が発動したら怖いんでね。だからこうして、誰も邪魔しない地下迷宮まで来たってわけさ。
 それに、下手に弱い魔物に襲わせて生き残られても困るからな。だから、こうしてお前らがアーティファクトを使っても勝てないであろう奥まで来た。
 魔物になぶごろしにされるまで見物させてもらうとするさ」

 ――資源の有効活用。社会の役に立つ。

 その言葉を聞いた瞬間、俺の顔から――偽りの恐怖がスッと消え失せた。
 俺が前世で、くさるほど聞かされた経営者どもの戯言たわごとと同じだ。

「……そうだな。そのルールには賛成だ」

 俺は立ち上がり、冷徹れいてつな目でバクスを見上げた。服のほこリを払う手つきは、あまりにも軽い。

「あ?」

 急に態度たいどを変えた俺に、バクスがまゆをひそめる。俺は鉄格子越しに、バクスへ向かって指を鳴らした。

「資源は有効活用しなきゃな。……ちょうど俺も、シルヴィアの『えさ』にこまっていたところだ」

「は? 何言ってんだお前、気が狂ったか?」

「シルヴィア。食事の時間だ」

 俺の言葉に、シルヴィアが嬉しそうに微笑ほほえみ、一歩前へ出た。
 彼女の紫色の瞳が、暗闇の中であやしく発光する。

「はい、カナメ様。……ずっと我慢がまんしていましたのよ?」

 振り返った彼女は、オークのれを見て舌なめずりをした。

「まあ、なんて脂の乗った……質の悪そうなお肉ですこと。数だけは多いですから、ジャンクフードくらいにはなりそうですわ」

 彼女の視界しかいに映るすべてのオークに、【強奪可能】のウィンドウが浮かんでいる。 

 狩られるのは俺たちじゃない。



 ここから先は、一方的な「」だ。




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