万能強奪(スキルテイク)で餌付け無双 ~Fランクの俺、封印されていた神話級美少女を助けたら「最強の番(つがい)」として溺愛されました。

式条 玲

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第一章 異世界転生者と神話の暴食姫

第6話:お食事会

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「ブモォオオオオオッ!!」

 オークの群れが、地響じひびきを立てて殺到さっとうする。
 丸太のような腕が振り上げられ、俺の頭をカチ割ろうとせまる。鉄格子てつごうしの向こうで、バクスたちが「あーあ、ミンチだな」と嘲笑あざわらう声が聞こえた。

 だが、遅い。

 今の俺には【超音波】による全方位感知がある。背後からの攻撃だろうと、手に取るように分かる。

「――まずは前菜オードブルだ」

 俺は半歩踏み込み、振り下ろされたオークの腕を、素手で受け止めた。

 バチィンッ!!

 衝撃が走るが、スライムから奪った【物理耐性】がダメージを殺してくれる。
 俺はそのまま、オークの太い腕を強く握りしめた。

【対象:ハイ・オーク】
【強奪可能:剛力Lv3、皮膚硬化、棍棒術】

『――スキル【剛力Lv3】および【皮膚硬化】を強奪しました』

 ズリュゥゥ……。

 腕から流れ込んできたのは、獣臭い脂身のかたまりのような感触だった。

「うぐ、脂っこいな……」

 胃もたれしそうな野生の味。決して上品ではないが、エネルギーだけは満ちている。 
 ガクンッ、とオークの巨体が沈んだ。力を支える筋肉の使い方も、皮膚の硬さも、すべて俺が食らい尽くしたからだ。

 逆に、俺の身体には力がみなぎる。
 全身の筋肉が鋼のように引き締まる感覚。

「ふんっ!」

 俺は奪ったばかりの【剛力】を乗せ、オークの顔面を裏拳で殴りつけた。

 グシャアッ!!

 嫌な音と共に、オークの首がへし折れ、巨体が紙屑のように吹き飛んだ。
 吹き飛んだ死体は後続のオークたちを巻き込み、ボウリングのピンのようにたおしていく。

「は……?」

 鉄格子の向こうで、バクスの笑い声がこおりついた。
 俺は服についた返り血を払い、シルヴィアに声をかける。

「シルヴィア、残りは全部やる。好きに食え」

「ありがとうございます、カナメ様。……では、遠慮えんりょなく」

 シルヴィアが優雅ゆうがにスカートをつまみ、一礼いちれいする。
 次の瞬間、彼女の背後から「影」がふくれ上がった。
 漆黒しっこくの影は無数の牙となり、オークのれへとおそいかかる。

「ギ、ギャアアアッ!?」

 それは蹂躙じゅうりんだった。
 魔法ですらない、純粋な捕食ほしょく。 
 上位生物が下位生物に対して当たり前に行う純粋な食事。

 ライオンがシマウマをるがごとく、――いや、ライオンが無抵抗なネズミを一撃いちげきほふるがごとく、一瞬の出来事だった。

 オークたちは抵抗する間もなく影に飲まれ、断末魔だんまつまと共に消滅しょうめつしていく。

 わずか十数秒。

 部屋をくしていた三十匹以上の魔物の群れは、ちり一つ残さず「完食」された。

「ごちそうさまでした。……少しスジっぽくて、大味おおあじでしたわね」

「おいおい……とんだ早食いだな」

 俺は苦笑くしょうしつつ、唖然あぜんとしているバクスたちの方へ向き直った。

「な、な……なんだ、今のは!?」

 バクスが鉄格子てつごうしにしがみつき、叫ぶ。

紫水晶アメジストか!? あの宝石の力なのか!? おい、よこせ! その宝石を俺によこせぇぇッ!」

「……まだ言ってるのか、あんた」

 俺はあきれてため息をつき、ポケットから例の紫水晶アメジスト破片はへんを取り出した。

「ほらよ」

 カラン、と音を立てて、宝石を鉄格子てつごうしの向こうへほうり投げる。
 バクスは地面をいつくばってそれに飛びつき、狂ったようにかかげた。

「ははは! 手に入れた! これさえあれば俺は最強だ! ……おい、発動しろ! こいつらを殺せ!!」

 バクスが紫水晶アメジストに向かって叫ぶ。だが、石はただにぶく光るだけだ。
 当然だ。それはただの綺麗きれいな石ころなのだから。

「な、なんでだ……? なんで何も起きねえんだ!?」

 絶望の表情で、紫水晶アメジストを見るバクスたち。
 さっきまで威勢いせいのいい声はすっかり消えていた。

「言っただろ。“そんな大層なものは持っていない”って。アイテム頼りだなんて――勝手な妄想もうそうだってな」

 俺は鉄格子てつごうしに手をかけた。

【剛力Lv3】を発動。

 金属がきしむ音がひびわたる。

「さて。ここまで案内ご苦労だったな、バクスさん」

 ギギギギギギッ……!!

 俺は分厚い鉄格子てつごうしを、素手すででこじ開けた。

 飴細工あめざいくのようにひしゃげた鉄の棒をまたぎ、俺はバクスたちの前へと歩み出る。

「おかげで楽に深層しんそうまで来れたよ。礼を言うぜ」

   ◇

「ひっ……!」

 バクスの取り巻きたちが、悲鳴ひめいを上げて逃げ出した。

 俺は追わない。

 本当なら【マナ回復】持ちの魔導士は捕食っておきたかったが……今の俺の容量メモリじゃ、あぶらっこいオークのスキルと、これから食うバクスの『本命』だけでパンク寸前すんぜんだろう
 。
 これ以上、めば、消化不良で自滅する。バイキングでも腹八分目はらはちぶんめが鉄則だ。

 用があるのは、目の前で腰を抜かしているリーダーだけ。

「く、来るな……! 俺はAランクだぞ! 『疾風』のバクスだぞ!」

「ああ、知ってるよ。自分から紹介してくれたじゃないか」

 俺は一歩ずつ近づく。

「お前、逃げ足だけは速いからな。地上でおそって逃げられたら面倒だと思って、ここまで付き合ってやったんだ。……ここなら逃げ場はないだろ?」 

「て、テメェ……最初から、俺を……!?」

 バクスの顔が恐怖でゆがむ。

 ようやく理解したようだ。自分が狩る側ではなく、狩られる側だったということに。  追い詰められたネズミが、最後に選ぶ道は一つ。

めるなァァァッ!!」

 バクスが絶叫と共に立ち上がる。  全身から魔力がき出す。

「――【音速加速ソニックアクセル】ッ!!」

 バクスの姿がき消えた。

 速い。先ほど【キラーウルフ】で見せた速度よりもさらに上だ。
 俺の動体視力では、その姿をとらえることはできない。

 殺気と共に、風が俺の顔にせまる。

 目視は不可能。だが――

 【強奪可能スキル:音速加速ソニックアクセル

 視界に浮かぶシステムウィンドウの文字と、鼻をつくような、濃密な魔力の匂いでバクスの位置を正確にマーキングしていた。  

「そこか」

 俺は防御も回避もせず、あえて正面からその突撃を受け止めた。

 ザシュッ!!

 するどい痛みが走る。バクスの短剣が、俺の左肩に突き刺さった。

 だが、それだけだ。

 スライムの【物理耐性】と、オークの【皮膚硬化】。二重の防御スキルが、刃を骨まで届かせず、筋肉で食い止めさせたのだ。

「なッ……硬ぇ!?」

「捕まえた」

 驚愕きょうがくで動きが止まったバクスの腕を、俺の右手ガッチリと掴んだ。

「放せ! 放せぇぇッ!」

「終わりだよお前」

 俺はニヤリと笑い、宣言せんげんする。

「――ご馳走さんいただきます

【対象:バクス】
【強奪実行:ユニークスキル『音速加速ソニックアクセル』】

『――ユニークスキル【音速加速ソニックアクセル】を強奪しました』

 ドクンッ!!

 心臓が早鐘を打つ。  

 腕から流れ込んできたのは、オークの脂身とは比べ物にならない――荒れ狂う電流のような衝撃だった。 

「ぐ、ぅ……ッ!」

 舌がしびれるほどの刺激。のどけるような強烈きょうれつな味わい。
 バクスが人生をかけてみがき上げてきた「速さ」への執念しゅうねんが、高濃度のスパイスとなって俺の脳髄のうずいを直撃する。

 美味い。

 だが、胸焼けがひどい……!
 純粋な魔力の塊だった【絶対封印アブソリュート・シール】とは違い、人間のスキルには「執念しゅうねん」や「手癖てくせ」といった不純物ノイズが多すぎるのだ。
 さっき食ったオークの脂っこいスキルも相まって、脳が、胃袋が、俺のメモリが限界をうったえている。

 世界がスローモーションになった。

 舞い上がるほこりしたたる血のしずく、そしてバクスのゆがんだ表情。すべてが止まって見える。

 これが、加速の世界か。

「あ……が……?」

 俺が手を離すと、バクスはひざからくずれ落ちた。

 最大の武器を奪われた喪失そうしつ感と、魔力を強制的に引き抜かれたショックで、白目をいている。

「な、なにをしやがった……?か、返せ……、俺の……速さが……」

「安心しろ。お前の『速さ』は、俺がもっと上手く味わってやる」

 俺は肩に刺さった短剣を引き抜き、傷口を押さえた。

【皮膚硬化】のおかげで出血は少ない。すぐにふさがるだろう。

 背後から、シルヴィアが歩み寄ってくる。
 彼女はバクスを一瞥いちべつもしない。俺の傷を見て、まゆをひそめた。

「カナメ様、無茶をしますね。わざと受けたのですか?」

「ああ。あいつの速さを確実に捉えるには、これが一番確実だったからな」

「……もう。わたくし王子様おうじさまは、意外と脳筋ですのね」

 シルヴィアはあきれたように言いながら、俺の傷口にそっとくちびるを寄せた。
 れた感触と、温かい魔力がみ込んでくる。彼女なりの治癒ちゆ魔法なのだろう。

「さて、カナメ様。このゴミバクスはどうします? 食べちゃいます?」

「いや、こいつのスキルは全部奪った。もう出し殻スカスカだ」

 俺は廃人のようになったバクスを見下ろした。
 こいつの命そのものには、何の価値もない。

「放置だ。運が良ければ生き残れるんじゃないか? ……魔物だらけのこの深層で、スキルもなしにな」

 俺たちはきびすを返した。
 背後から「置いていかないでくれぇぇ!」という絶望的な叫び声が聞こえたが、俺たちが振り返ることはなかった。

 手に入れた【音速加速】と【剛力】。

 腹の中には、消化しきれないほどの力がうず巻いている。
 胃もたれするような感覚だ、シルヴィアに中身を『パス(排出)』してもらわないと、この吐き気は収まりそうにない。


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