万能強奪(スキルテイク)で餌付け無双 ~Fランクの俺、封印されていた神話級美少女を助けたら「最強の番(つがい)」として溺愛されました。

式条 玲

文字の大きさ
7 / 11
第一章 異世界転生者と神話の暴食姫

第7話:共犯者(パートナー)

しおりを挟む

 バクスたちをりにして、俺たちは深層しんそうからの帰路きろについていた。
 行きは荷物持ちを演じていたが、帰りは違う。
 おそい来る魔物は、俺の【剛力】による一撃か、シルヴィアの影によって瞬殺しゅんさつされる。俺たちはピクニックのような足取りで階層かいそうを戻っていた。

「……ふぅ。そろそろ限界か」

 中層ちゅうそうあたりまで戻ったところで、俺は立ち止まり、こめかみを押さえた。
 ズキズキと脳が痛む。
 バクスから奪ったユニークスキル【音速加速ソニックアクセル】。やはり、こいつは少し「クセ」が強すぎた。

「カナメ様、顔色が真っ青ですわ。そろそろ『排出パス』してしまいましょうか」

「ああ、頼む。オークの脂身とバクスのスパイスが混ざって、最悪の食い合わせだ。吐きそうだ」

 俺たちは人気の少ない小部屋に入り、腰を下ろした。
 シルヴィアが俺の胸に手を当てる。

「では、いただきますね。……んっ」

 宿屋やどや以来、二度目となる口づけ。
 シルヴィアのくちびるが重なり、俺の体内から暴れ回るエネルギーが吸い出されていく。
 相変わらず、脳の中身を直接でられるような奇妙な感覚だ。

「……ん……ふぅ……」

 くちびるはなしたシルヴィアが、恍惚こうこつとした表情でほほめた。

「凄い……。これがユニークスキルの味……。濃厚のうこうで、ピリピリして……最高です」

「味わってる場合か。とにかく。……ありがとう、だいぶ楽になった」

 頭痛が引いていく。これで一安心だ。

 そう思って立ち上がろうとした俺を、シルヴィアがせいした。

「待ってください、カナメ様。……この『音速加速ソニックアクセル』と、さっき食べたオークの『剛力』。風味が似ていますわ」

「風味?」

「ええ。これなら、お腹の中で混ぜ合わせられるかもしれません。……試してみてもよろしいですか?」

 シルヴィアが上目遣いで尋ねてくる。
 ――スキルの合成。
 昨日の夜、宿屋で彼女から、スキルを合成が出来るという話を聞いてはいたが、試すのはこれが初めてだ。

「ああ、任せる。失敗しても文句は言わないさ」

「あら?ご安心くださいませ。別に材料にしたスキルがなくなるわけではございませんわ。スキルとは物体として存在しているわけではございませんから。の融合でございます」

「なんだかよく分からないが、とにかく頼むよ」

「ふふっ、腕によりをかけますわね」

 シルヴィアが両手を組むと、彼女の手の中で赤と青の光が混ざり合い、紫色のスパークを放ち始めた。
 彼女の体内という「」を使って、二つの異なるスキルを融合ゆうごうさせる。
 暴食の眷属プレデターでも最上位の個体でしか出来ない芸当げいとうらしい。
 俺が【万能強奪スキル・テイク】して、シルヴィアが【融合ゆうごう】させる。
 これこそが、彼女と俺だけの「共犯者」としての力。

「美味しくできましたわ、カナメ様」

 シルヴィアの手のひらには、まるで宝石のように輝く光の球体が浮かんでいた。

 さっきまでの荒々あらあらしい「生肉」のようなスキルとは違う。甘く、芳醇ほうじゅんな香りがただよってくるようだ。

「……あーん、してくださいますか?」

「おいおい、流石さすがに一人で食べることくらいは出来るさ」

「いけませんっ!王子様おうじさまのお口にわたくしが運ぶことこそが、一番のスパイスですから」

 俺は苦笑くしょうし、彼女に言われるがまま、その光を口に含んだ。
 舌の上で転がした瞬間、けるように喉の奥へとすべり落ちていく。

 ――美味うまい。

 バクスの薄汚うすぎたな執念しゅうねんや、オークのけもの臭さは綺麗きれいサッパリ消え失せている。

 あるのは純粋に濾過ろかされた、上質な魔力の旨味だけ。
 これぞまさに、至高のフルコースだ。

「……軽いな」

 さっきまでの、脳を万力まんりきめ付けるような重圧がない。  俺が捕食った時よりも、強い魔力を感じる。
 恐らくシルヴィアの魔力も合わさったことにより、スキル自体の威力は上がっているはずなのに、負荷ふか激減げきげんしている。

「ええ。バクスの手癖てくせといった『不純物ノイズ』は、わたくしがすべて消化しておきましたから」

 シルヴィアがぺろりとくちびるめる。

「今のそれは、純粋じゅんすい魔術式まじゅつしきとして圧縮・最適化された状態です。これなら、カナメ様のメモリを圧迫することもないでしょう?」

「なるほど……。ただ排出パスするだけじゃなく、『調理』もしてくれるってわけか」

 奪ったままの「生のスキル」は不味くて重いが、シルヴィアを通せば「栄養」だけを美味しく摂取できる。それどころか、シルヴィアの魔力で元のスキルよりもを高めてくれる。
 やはり彼女は、俺にとってかせない共犯者パートナーだ。

『――スキル合成完了。オリジナルスキル【音速の重砲ソニックキャノン】を獲得しました』

 【音速の重砲】
 効果:音速移動の運動エネルギーを、攻撃力へと一転換して叩き込む必殺の一撃。

「すげぇな……。これなら、ドラゴンのうろこだって素手すででぶち抜けるぞ」

「ふふっ、わたくしの愛の結晶けっしょうですもの。大切に使ってくださいね?」

 最強の矛を手に入れた。

 俺は拳を握りしめ、確かな手応えを感じていた。

   ◇

 夕日が沈む頃、俺たちは【ルルデン】の冒険者組合ギルドに戻っていた。  ボロボロの服に、疲労困憊ひろうこんぱいの表情。いかにも完璧な見た目だ。
 俺たちはフラフラと受付カウンターへ向かった。

「あ、あれ? アンタたち……生きてたの?」

 昨日Fランク認定をした女性職員が、幽霊ゆうれいでも見るような目で俺たちを見た。

「バクスさんのパーティと一緒にダンジョンへ行ったって聞いたけど……バクスさんたちは?」

「……うぅ……」

 俺は拳を震わせ、涙声を作る。

「し、死にました……。深層で、魔物の巣モンスターハウス遭遇そうぐうして……」

「えっ!?」

「バクスさんが……『俺がおとりになるから、お前たちだけでも逃げろ!』って……最期さいごまで立派に戦って……!」

 俺の迫真はくしんの演技に、ギルド内がこおりついた。

 数秒の静寂せいじゃくの後、爆発ばくはつしたようなさわぎが巻き起こる。

「おい嘘だろ!? あの『疾風』が全滅だって!?」

「深層で魔物の巣モンスターハウス!? すぐにギルドマスターを呼べ!」

「騎士団にも連絡だ! Aランク冒険者たちが全滅するような魔物の巣モンスターハウスだ!もしかしたらダンジョン外まで魔物が溢れてくるかもしれねぇぞ!」

 ギルド中が蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。
 当然だ。街の最高戦力が消えたのだから。
 受付嬢も顔面蒼白で立ち上がり、奥へ走ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってて! 今マスターを呼んでくるから、詳細な報告を……!」

「す、すみません……俺たち、もう怖くて……少し休ませてください……!」

「え? あ、ちょっ……!」

 パニックで指示系統が麻痺まひしている今がチャンスだ。

 俺はシルヴィアの肩を抱き、混乱する冒険者たちの隙間すきまって出口へと急いだ。

 誰も、Fランクの荷物持ちごときには構っていられない。

 これで「完全犯罪」の成立だ。

   ◇

 ギルドを出た頃には、すっかり日が落ちていた。
 喧騒けんそうが遠ざかる。夜風が心地よい。

 俺は大きく伸びをした。

「さて、と。これでこの街での用事は済んだな」

「ええ。バクスという大きな獲物も食べ尽くしましたし、そろそろ次の狩場へ?」

「ああ。騒ぎが落ち着く前にずらかるぞ。この街のダンジョンじゃ、もう物足りない」

 俺は夜空を見上げた。

 手に入れたのは、最強への切符と、最高の相棒。

 だが、これはまだ始まりに過ぎない。
 この世界には、まだ見ぬ強力なスキルを持った勇者や、魔王軍が蔓延はびこっている。

 俺の視界に、月明かりに照らされたシルヴィアのステータスが映る。

 その【強奪可能】の欄には、まだ『???』と表示されている部分が多い。
 俺が彼女のすべてを知り、彼女を満たせるほどの主になるには、まだまだ力が足りない。

「行くぞ、シルヴィア。世界中の理不尽ごちそうを、俺たちで食いくす旅だ」

「はい。どこまでもおともしますわ――わたくしの最強の王子様おうじさま

 俺たちは並んで歩き出す。

 二人の影が、月明かりの下で一つに重なっていた。


(『第一章 異世界転生者と神話の暴食姫』 完 )






──────────────────── 
【第一章 完結!】
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

これにてこれにて第一章『異世界転生者と神話の暴食姫』は完結です。

第二章からは、いよいよ「最強の家族」の結成に向けて物語が加速します。
「ケモ耳の娘」や「口の悪い妖刀少女」など、魅力的な新キャラクターも続々登場しますので、絶対にお見逃しなく!

最後に、作者からのお願いです。

もし「面白かった」「続きが読みたい!」「書籍化してほしい!」と思っていただけましたら、 お気に入り登録や投票をお願いいたします!
引き続き、全力で更新していきます!
 ────────────────────
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...