マリスセイバー ー精神の行き着く先にー

丘の山小次郎

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「脱走…それもまた困りましたね。それと町長よ。様をつけるのを忘れるなよ。」

「あ…はい、メンソン様」 あの町長が渋々とはいえ人に頭を下げているのを初めてみた。

 「フ…ターケンよ。貴様はこんな小悪党ごとき町長を倒して満足か?もっと大きな力と闘い抗う気はないのか?」

「大きな力?」

「貴様は自分が誰か分かっていない…だから町長とわかり合おう、街をよくしよう、と言っただけのカーオルを槍で刺す。コントロールできなかったとしてもな。お前の中には有り余ったエネルギーが溢れているのだ。このままではお前の中には現場に満足できないお前の心の中に巣食う『鬼』を飼い慣らす事はできまい! 真実を知れ、ターケン。そうだ、いい事を思いついた、ターケンよ。お前が真実を探す気になるように手ほどきをしてやろう。ハァーッ…『ダビラバピーポ ダビラバピーポ』」

 メンソンと名乗る男は何か念仏の様なものを唱え始めた。すると、
「ウッギャアアアッ!」町長が苦しそうに喚いている。次の瞬間、信じられない事に町長の背中から奇怪な羽が生え出してきた。 そして見る見るうちにさらにメタボリックシンドロームと言わざるを得ない体が太り誇大化していく。いや、服を破りさり巨大化していく。目玉も膨張しギョロギョロと左右違う方を向いている。まさに化け物。モンスター化した。あり得ない。大きくなった口から、「ハアー、パギィパギィ!」人ではなくなった様だ。 私は心の中でまだきっと『あれ』だろうと現実逃避していた。拡張世界の非現実空間をメンソンという男が我々に見せているのだと。
しかし、「これは、現実の世界ですよ。淡い期待はしないでくださいね。」の一言で私の期待は打ち砕かれた。確かに現実世界ならではの感覚、ハッキリとした情景はそのままだから。先程、このメンソンという男が現れた時から、当たり前の感覚と日常は更に一変した。
「プギャァーッ! 」羽を広げパタパタと振り始め部屋の天井まで飛んでいっている。そして、
「ブッ!!」あのでかい口から唾液を口の先端を尖らせて水鉄砲の様にこちらに飛ばしてきた。驚きのあまり私は膠着してこの攻撃を食らう…次の瞬間、衝撃と共に地面に倒れる。

「危ない!ターケン!ボサっとしてるな!」 カーオルだ。カーオルが疾風のごとく駆けつけてくれて、私に体当たりをする様にして私をのけぞらせてくれたおかげで町長の粘液を喰らわずにすんだ。

「フ、ターケンよ。お前は町長を粛清するのがお前の行動原理、原動力だったな。だから町長とはこの場で決着はつけさせない。見ろ…あの異形と化した町長を。拡張世界の中ではなく今我々は現実の世界にいるのだ。今のお前では勝てない。今のお前では到底理解が及ばないだろうが町長は『想いの具現化』も使う。この世界にはない全く別の世界のものを兼ね備えたのだ。最もお前が真の力を出せたのなら話は別だがな。(父のナサームがいないから無理だろう)さあ、町長よ。我々の組織の根城まで飛んで行って待機していろ。どうする? ターケン。幸い、ここは拡張世界が使える空間。チャンスだぞ…」

 話の展開が急すぎて頭がついていかない。しかし、ここでなんとかしないと町長は逃げていく。どうするか。しかし本能なのか過去のDNAなのか。私の体が自然に動く。自然にこの耳飾りに手が伸びた。そして外して二本の刀が交差する紋章の様な模様の耳飾りを両手でじっくり握りしめた。

「ほう…」 

「先程からの話の流れで増幅させるエネルギーがあると言っていたよな? もう賭けるしかないんでな」

私は二本の刀の模様を見て、これだ。この武器だ、と。具現化しろと、強く念じた。すると次の瞬間、赤色の光が手のひらから、徐々に徐々に大きくなっていくエネルギーの様な物が発現した。更に赤い光は長くなっていく。日常は何処かへ飛んでいく。あまりの眩しさに目を閉じた。そして、少しずつ両の眼を見開いていくとそこには二本の赤い刀が左右一本づつ握りしめられている。実物ではない。エネルギーの具現化だとすぐ理解した。

 ——出せた—— 

「オオオー。いいぞ、ターケンよ。(やはり貴様は『ロタンゼルスの…』)紋章を強く念じたか。面白い」

メンソンは不気味に高揚している様だ。 



     
 
 



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