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第四章

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「智則、学食行こうぜ」
 篠崎がいう。
 篠崎も見物αを気にしていて、俺から離れるなという。結果、佐久間と三人で過ごす時間が増えた。
 …そんなにか弱く見えんのかね?
『篠崎と二人きりになるな』
 岡田先輩の忠告が耳によぎったが、学食ならばと人目もあるし付き合うことにした。ちなみに今日佐久間は体調不良で休みだ。

「智則、あそこ空いてるから先に取ってきて」
 篠崎に指さされた場所はわりと奥まっていた。篠崎がもどってくるのを待っているとひそひそとまた、俺を何かしら言っている声が聞こえた。
 ホントにウザイ
 篠崎が親子丼定食と焼肉定食をもって戻ってきた。
「はい。智則は親子丼でしょ」
「…ありがとう」
 お金を渡そうとすると断られた。「次、おごってよ」と。
 …親子丼を前にして少し困ってしまう。師匠の猛なら、これを食べるのはダメだというだろう。自分で持ってきたわけではない。
「あ~ん」
 篠崎が口をあけた
「へ?」
「いや、なんか美味しそうだから一口俺にくれない?」
「お、おう」
 良かった。先に篠崎に食べさせれば、師匠の言いつけには違反しない。
 レンゲで掬って篠崎の口に放り込んだ。
「うん、おいしい!」
 にっこりと笑っていう。
 ここのところ、篠崎は落ち着きを取り戻している。噂では恋人ができたらしい。一時の不安定さは消えていた。
 親子丼を食べ進めていく。副菜も篠崎の口に放り込んだあとに俺も食べる。
「おいしい、おいしいなぁ」
「大袈裟だなぁ」
「う~ん、味を感じるのが久しぶりで。味覚がヤられていたからね。今は戻っているけど。」
「…しばらく前、お前体調悪そうだったもんなぁ。もう大丈夫なのか?」
「う~ん。α特有の症状だからね。原因をなんとかしないとまたすぐ味覚が無くなるんだろうな。あ~ん」
 口をあけられたのでまた、鶏肉を放り込んでやる。
「お前、やつれすぎ。」
「しょうがないじゃん?肉はゴム食べているみたいだったし、パンとかモサモサするだけだし、硬い食べ物はいがぐりを口に入れてる感じでさ。サプリメントと点滴で乗り切ったよ。…うん旨い」
「…もっと食うか?」
 トレイごと渡そうとしたが遠慮された。肉がゴムって気の毒すぎる。再発するなら食べれるときに食べてほしい。って焼肉定食もたいして手を付けてないなぁ。美味しくないのか?
「交換するか?」
「ううん。食べるよ」
 そう答えるわりに篠崎の箸は進まない。肉を細かくしていっているだけで、口には運んでいない。まだ味覚障害は治ってないのか?
「…原因わかっているんだろ?なのに、治らないの?薬とかさ…」
「病気ってわけじゃないからね。心因性だから。まぁ、何が効くかはわかっているんだけどね」
「だったら、それを飲めばいいじゃん」
「精液だけど?」
 ゲホっとむせた。
「お、おま…」
 食堂でいう事か!
 苦しくて目に涙が溜まる。篠崎が指を伸ばしてそれを拭きとり…舐めた。
「…甘い」
「……やっぱお前まだ味覚障害だ。涙はしょっぱいんだよ」
 とりあえず、篠崎が食べれる親子丼を押し付けて、焼肉定食を奪い取った。もうバラ肉にはなっているけど十分おいしい。
「あ~ん」
 また、口を開けられる。ため息をつきつつ肉を口に放り込んでやった。
「…………おいしい」
 飲みこむとすぐに口をあけられた。しょうがないからとにかく口に運んでやった。気分は介護人だ。
「久々に、満腹まで食べれた。智則ありがとうね。…人に給仕してもらえると味を感じるんだな。」
 ……恋人は口に運んでくれないのか。激やせした篠崎を見るとちょっと気の毒だ。
「…明日は俺がおごるよ」

 翌日も学食でポイポイと篠崎の口にご飯を放り込んでいると後ろから頭をはたかれた。
 思わず振り向くと、怒りのあまり頬をひく付かせた岡田先輩がいた。
「あ、き、ば~~」
「え?先輩イタイイタイ」
 拳で頭をぐりぐりされる。いや、これ地味に痛いから。
 直後に、付近の空気が重くなった。…これ、篠崎の威圧だ。
「篠崎、大丈夫だ。岡田先輩は俺の為に叱ってくれているんだよ」
 何を𠮟られているのかは分かっていないけど、この人は俺を成長させてくれる人だから、理不尽な事ではないはずだ。
 周囲を見渡すと、大半がうずくまっている。岡田先輩も脂汗が浮かんでいる。
「篠崎!!」
 怒鳴ると篠崎ははっとして威圧を弱めた。…一時よりは安定したと思っていたけれど、やはり篠崎は本調子ではないのだろう、こんな風に無分別に威圧をふるうなんてらしくない…。
 岡田先輩を椅子に座らせて休ませる。皆あてられはしたが、医務室に行かねばならないほどの事態にはなっていない。
「すみません…」
 岡田先輩は篠崎の謝罪を完全に無視した。


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