湖の守護竜は彼の地を追われ。

たびびと

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第一章 港町カルビナ篇

#04 初めての街と自暴自棄

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 怪物と盗賊の一味を撃退した後、ラト、リーシャ、ミィナの三人は気を取り直して港町カルビナへ向かい街道を進んでいた。
 リーシャが遠い目で正面の空をぼんやり眺めながら、ぽつりと口にした。
「あいつ、結局何だったんだろ。あんな生き物、私見たことないわよ」
「俺もねぇ」
 戦っていた本人ですら知らなかったらしい。となればもうお手上げである。町に着いたら適当に調べてみるかなー、とそんなことを考えていたのだが、そこで予想外の人間が名乗り出た。
「あの……私、知ってます」
 振り向くと、二歩ほど後ろを歩いていたミィナが、胸の前で控えめに手を立てていた。
「あれはたぶん……“キメラ”だと思います」
 聞き慣れない名前に、二人して小首を捻ってしまう。するとミィナが補足の説明を加える。
「昔、よく祖母に読んでもらってたお伽話に出てきた怪物です。魔獣キメラ――獅子の頭を持ち、山羊の身体と蛇の尾を持つ魔物……。でも、本当に存在したなんて……」
 未だ信じ難いとでも言うように小さくかぶりを振った。
 ラトはその話をあまり興味なさげに聞いていたが、そのうち何かを思い出したらしく、あっと声を上げた。
「そういやあの野郎、俺と鉢合わせた時、ドラゴンの死骸食ってたんだよなー。お前らの後ろ歩いてたときにさ、なんかドラゴン臭ぇなぁと思って匂いを辿ってったらよ、いた」
「いた、ってあんたね……。そーゆーの先に言いなさいよ。じゃあ私たちが追ってたのって、そのキメラ? ってので間違いないじゃない。そいつがドラゴンを殺し回ってた犯人じゃないの」
 リーシャが指摘をすると、ラトは何を思ったのか急に黙りこくってしまう。誰も発言をしない数秒が流れ、不思議に思ったリーシャが声を掛けようとしたとき、彼の顔がゆっくりと彼女へ向く。
 度肝を抜かれたような表情をしていた。
「今気付いたのね……」
「おい、マジかよ! 逃がしちまったじゃねぇか! くっそ、こうなりゃ急いで追いかけようぜ!」
 突然踵を返して、走り出そうとするラトの首根っこをがしっと引っ掴む。
「バカ、今からじゃ間に合う訳ないでしょー。それにどこ行っちゃったかも分かんないし、手遅れよ」
「んだよ、ちくしょー!」
 ラトは心底悔しそうに悪態を吐き、一方のリーシャは呆れた溜め息を吐いた。
 有り得ないほど強いラトだが、やはりどこか抜けている部分がある。まぁ、そういう所があるからこそ、彼を一人の人として見れるのだろうけれど。ラトが何もかも完璧な超人であったなら、きっとリーシャはここまで一緒に旅を続けることは出来なかったに違いない。根拠はないが、何となくそんな気がするのだ。
 呆れながらもそんな事を考えていると、とててっと小走りでミィナがリーシャの隣に並んだ。
「それにしても、お二人ともすっごく強かったんですね! リーシャさんがエルフと人間のハーフだったなんて驚きました! あんな間近で魔法を見たのも初めてで、私もう興奮しちゃって! それにラトさんのあのすっごいパワー! あれも魔法の力のお陰なんですか!?」
 目を輝かせて、それまで抑えていたものを吐き出すかのように一息で捲し立てた。
 エルフの里で生まれ育ったリーシャは、物心付いた頃から魔法と馴れ親しんできたので魔法などもはや珍しくも何ともないのだが、やはり人間――特にリーシャのような少女にとって、魔法とは稀有なものらしい。
 まぁそれは置いておいて、一つだけミィナの解釈に間違いがあったのでそこは訂正しておかねばなるまい。
「うーん、ラトのあれは魔法じゃなくて素なのよね……」
「ええ!? ――ってことは、やっぱり……」
「うん、本人も自分が何者なのか分かってないんだけど、少なくとも“人間”でも“森民エルフ”でもないのは確かよ。エルフにもあんな身体能力は無いし。……でもラトってば、こう見えてもドラゴンと会話できちゃうのよね……」
 魔法とはまた別種の、竜と意思の疎通が可能という能力ちからを持つ、湖の王国レイクスティアに生きる最後の種族――。
「もしかして……“竜人族”、なんですか……?」
「消去法でね」
 ――尖がった特徴的な耳と美しい金髪を持つエルフに対し、竜人族はこめかみの辺りに小さな角が生えているのが大きな特徴だ。だがしかし、ミィナが反射的に視線を走らせたラトの頭部にそれらしき突起物は見当たらない。
 その様子を見たリーシャは、クスっと可笑しそうに笑んでから言葉を継いだ。
「でもラトの場合、角は無いし、竜人族なら小さい子でも出来るはずの“変身”も出来ないし、色々と謎なのよ。……もしかしてあんた、竜人族の落ちこぼれなんじゃないの~?」
 と小馬鹿にしたような頬笑みを浮かべて、右を歩くラトの脇腹を軽く小突く。しかし当のラトは、まるで他人事のような顔をして「どうだろなー」と興味無さげに呟いただけだった。
 そのリアクションの薄さに少々詰まらなく思いつつ、ふとミィナに目を戻す。ほわぁー……とキラキラと瞳を輝かせて、二人をじっと見つめていた。
「エルフのハーフと、竜人族……」
 そんな慣れない憧れの眼差しに、リーシャははにかみつつも居心地が悪そうに身を捩る。不意に顎に手をやり考え込むような仕草を取ると、その視線から逃れるように話題を切り替えた。
「そ、それはそうと、既にドラゴンが殺られてたってのいうのは本当なのラト?」
「おう」
「はー……道理でおかしいと思った。だって普通に考えたら、ドラゴンが居るはずの森を盗賊が拠点にしてるなんて有り得ないじゃない。少人数ならともかく、あれだけの人数が縄張りに侵入したらドラゴンは黙ってないだろうし。……ただそうなると、あのキメラがドラゴンを倒したあと何をしていたのか、っていうのが引っ掛かるのよね。近くの町や村で目撃例はなかったんでしょ?」
 目でミィナに問い掛けると、彼女はこくっと首肯する。
「だとすると、やっぱり辻褄が合わないわね……」
 考えれば考えるほど謎は深まるばかり。歩きながら思索に耽り、どうやら険しい顔つきで地面を凝視していたらしい。はっと我に返ったとき、ミィナが心配そうな視線を投げかけていた。
 んっんー! とわざとらしく咳払いを入れて顔を上げた。
「ま、今考えても仕方がないし、取り敢えず大きな町へ行けば何か分かるわよね! さーて、そうと決まれば急ぐわよ、二人とも!」

             ******


 レイクスティアは国土面積の五割が巨大な湖。それが湖の王国と称される所以であるが、それゆえ船による移動が一般化したためカルビナのような港町は特に栄えていた。
 だから、日が完全に沈むより少し前――空が仄暗くなり始めた時分にカルビナへ到着した三人は、その人の多さと活気に唖然とすることになる。
 町門を潜るとまず、煌びやかな鉱物灯こうぶつとう魔法灯まほうとうが視界を照らした。道の両脇に一定間隔で立ち並ぶそれは、貧乏な町や村では決してお目にかかることのできないものだ。その点では、白っぽい石造りやレンガ造りの建築物も同様のことで、茅葺き屋根の木造など比較にもならない。真っ直ぐに湖へと続くメインストリートには、信じられないほど数多の人々が往来していた。
 その光景を目にしたミィナがわぁ……と感嘆の吐息を零す。
「この国には、こんなにたくさんの人がいたんですね……」
「そりゃあ、まぁ、ね」
 などと、思わず知った風な返事をしたリーシャだったが、実のところ彼女もこれ程沢山の人間を見たことがなかった。きっとそれはもう一人の旅仲間も同様なはずなのだが――。
「おーい、お前ら何してんだー? 俺腹減ったから早く飯屋行きてぇんだけどよー」
 既に十歩ほど進んだ場所で、ラトが半身で振り返って二人を急かしている。
 感動するでもなく、相変わらず自分の欲求に忠実な態度には、額に手を当てて呆れる外ない。ミィナもあはは……と少し困ったように苦笑していた。
 ともあれ食事をしようという案に異論は無い。
 しかしミィナの場合は急ぎの用事があってカルビナに赴いたはずで、もしかするとここで別れを告げねばならない可能性がある。
「ミィナちゃんは~~……どうする?」
 その短い問いかけで、リーシャの確認せんとするところをうまく汲み取ってくれたらしい。
「私は――……いえ、大丈夫です。宜しければ私もご一緒させてもらっていいですか?」
 ミィナは少し考えるような仕草を取った後、穏やかな微笑みを浮かべた。
「もちろん!」
 と、なるべく明朗に頷いたつもりだったが、しかし内心では返答に生まれた僅かな間に首を傾げていた。ミィナの手を引いてラトに追い付いたリーシャは、通りの露店を眺めながら歩くラトの顔をひょいっと覗く。
「それで? ラトは何食べたいの?」
「食えりゃ何でもいい」
 考える素振りも見せず、即答。言い出しっぺのくせに、もしかして訊いた自分が悪いのか? と思ってしまう程の投げやりっぷりだった。
「……ならその辺の道草でも食べてれば?」
「何言ってんだリーシャ、この町は全部石畳だから草なんか生えてねぇぞ?」
「こんの……っ」
 ラトに一本取られるだなんて、こんなに屈辱的な事が他にあるだろうか。加えてラト本人にそんなつもりが無い事が、輪を掛けてリーシャを腹立たせた。思わず握り締めた拳をプルプルと震わせるリーシャを、ミィナが慌てて宥めに入る。
「ま、まぁまぁ、落ち着いて下さいリーシャさん……。えっと、もしお二人とも希望が無いのでしたら、せっかく港町に来たんですし、川魚料理なんかどうでしょう? 巨大湖ミューレ海から離れた土地では食べられないような大きな魚も、きっと食べられると思いますよ!」
 ミィナが狙ってその発言をしたのかどうかは不明だが、つい今しがた「何でも良い」とか言っていたラトが、“大きな魚”というワードに耳聡く反応する。希望に目を光らせじゅるっと舌舐めずりをした。
「でっかい魚……、丸ごと食えたりすんのかな」
「あんたってホント腹立つわね……」
 ともあれ目的は決まった。あとはそういった店を探すだけだが……。と思って周囲の街並みにさらっと視線を走らせるが、それらしき料理屋は見当たらない。
 すると何を思ったのか、ラトが急に歩行速度を速めた。
「あ、ちょっ! 待ちなさいよラト! あんたお店がどこにあるのか分かってるの!?」
「あっちから魚を焼いてる匂いがする」
 一言だけ口にしてスタスタと歩き続ける彼の後ろを、女子二人は半信半疑ながらも必死で付いて行く。町に入ってから2つ目の大きな十字路を左へ曲がり、少し進んで今度は右脇の建物の間の小道へ入る。しばらく続く似たような景色を通り抜けて、ようやくまた開けた場所へ出た。
「お、あったぞ」
 どでーんっと、周囲の建物とは一風変わった二階建ての木造建築が、通りを挟んだ向かいに構えていた。
 《川魚料理 くすを屋》と銘打たれた看板をでかでかと店先に掲げている。
 驚きや感心の言葉よりもまず最初に込み上げてきたのは、呆れ交じりの苦笑だった。
「本当、今更だけどあんたの鼻ってどうなってるのよ……」
「ラトさんすごいですー!」
 ミィナは胸の前で手を合わせて称賛の声を上げ、ラトが得意げに胸を張って笑い飛ばした。
「にっしっしっしっし! まあなー。そんじゃ入ろうぜ」
 建物と同様木製の大きな両開きの扉を開くと、ぴしっと綺麗な制服を着た店員が出迎えた。店内もしっかりと掃除されており、床はピカピカに磨かれて照明の光を見事に反射している。
 一方の三人は、道中、一晩野宿をしたので丸一日お風呂に入っていない。せめて先に宿に荷物を置いてシャワーを浴びてから来れば良かった、と今更ながら赤面してしまう。
「何名様ですか?」
「三人」
 しかしラトにとってそんな事はどうでも良い事なのだろう。臆することなく人数を伝えて、店員に示された席にどかっと腰を下ろした。
「それでは御注文の品がお決まりになりましたら、お呼びください」
 一言添えてメニューをテーブルの上に置く。一礼して立ち去ろうとする店員をラトが呼び止めた。
「なぁ、一番でっかいの頼む」
「ええと……でっかいの、と申されますと、量が多いものをという事でございますか? それでしたら、メニューの一番後ろに載っております“くすを屋スペシャルセット”などいかがでしょう?」
「おう、じゃあそれの大盛りで!」
「かしこまりました、“くすを屋スペシャルセット”の大盛りをお一つ、ですね。……お連れのお二人はどう致しますか?」
 ずっと歩き通しだったため、久しぶりに座って一息吐いていたところへ急に振られ、いくらか挙動不審になってしまう。
「え!? あ、ああ……。あー、えーっと、私はもう少し考えてから決めるので大丈夫です」
「あ、あの、私も後で注文します……」
 リーシャとミィナが答えると、店員は「かしこまりました」と頭を下げた後、スマイルを残して厨房へと消えて行った。
 それを見送ったリーシャは、はぁ……と溜め息を吐いてぐでーんとテーブルに突っ伏す。
「なーんか勢いで入っちゃったけど、ここ相当場違いな感じじゃない? 普通にその辺の酒場にしとけば良かったかも……」
「ですね……、お料理もかなり高いですし……」
 げんなりした表情でメニューを眺めていたミィナが、そのページを開いたままリーシャに差し出してきた。示された場所を見ると、確かに20,000GILLの表示がある。五日分の食費は賄える金額だ。
「うわ、本当。ちょっと何これ、高すぎでしょ。量も半端じゃないし……。えーっと、なになに……“くすを屋スペシャルセット”だって。こんな金額払える訳ないじゃない、ねぇ?」
 そのアホほど高価な品名を読み上げてから、あれ? とどこかで聞いたような名前である事に気付く。首を捻りながら正面に座るミィナを見ると、顔面蒼白でリーシャを凝視していた。その視線がゆっくりとスライドし、リーシャの隣に座るラトへ向けられる。
 それで気付いた。
「あ……」
 そう、さっきラトが注文していたやつが、まさにそれだった。しかし焦る事はない、さっき頼んだばかりなので今ならまだ注文キャンセルが効くだろう。危ない危ない……と、逸早く気付けたことに安堵しつつ店員を呼ぼうとした。
 その矢先――
「お、来た来た」
 ラトの言葉に、ばっ! とすごい勢いで振り返った。
 確かに、先ほどの店員が豪勢な料理を乗せたカートを押して来るのが見える。
 ……いやいや、きっと別の客が頼んだやつでしょ。なんて、半ば自分に言い聞かせるように心中で呟いて、椅子に座り直す。
 カラカラとカートを押す音が、彼女らのテーブルの前で止まった。
「お待たせ致しました、“くすを屋スペシャルセット”でございます」
「うっひょー! んまそー!!」
 場も弁えず歓声を上げるラト。隣で硬直していたリーシャが、ギギギッと軋みを上げそうな感じで店員を見上げた。
「あの……いくら何でも早過ぎないですか……」
 すると店員はニッコリと営業スマイルを浮かべて誇らしげに説明を始める。
「ええ、何分こちらのメニューは調理にも時間がかかりますゆえ、当店では予め調理し保存しておいたものをお客様に提供しております。品質につきましても“時間保存器タイムシール”という魔法道具マジックツールによって調理完了直後の状態をそのまま保っておりますので、ご安心ください。それでは、当店自慢の一品をお楽しみくださいませ」
 そんな長めの前置きのあと、カートに乗せられてきた皿たちが続々とテーブルに置かれていった。きらきらと光沢を帯びる刺身や、香ばしい匂いを発しながらぷちゅぷちゅと脂が染み出る焼き魚――それら料理の数々を見れば、店員の言っていることが嘘でないことは一目瞭然だ。
 止める間も無く、ラトがそれらを目にも留まらぬ速さで口に運び始める。
 店員は相変わらず朗らかなスマイルを崩さぬまま礼をすると、カートを押して厨房へ戻っていった。
 ムシャムシャガツガツズルズルと一心不乱に貪るラトが、ぱっと顔を上げる。ごっくんと口の中のものを嚥下してから、目の前に一枚の皿を持ち上げた。
「うんめぇ! おいリーシャ、これ超うめぇぞ! お前が作ったやつより断然うめぇ。リーシャが作るといつも焦げっちくなるからな!」
「……ねぇ、今度からあんたの分、作らなくて良い?」
 感謝どころか、プロと比べた挙句にまさかのダメ出し。思わず眉根を寄せてラトを睨みつけるも、しかしそれ以上怒る気にはとてもなれなかった。
 バッグに入れてあったお財布の中身を確認したところ、余裕でお金が足りない事に気が付いたのだ。それが分かった途端、ダラダラと背中から嫌な汗が噴き出してきた。
「――全然足りないし……」
 すっかり青ざめた表情で絶望感を露わに呟いた。お金の管理は全てリーシャが担当しているので、ラトは一銭もお金を持っていない。今リーシャが所持している分で全てなのだ。
 そんな、もはや笑いが込み上げてくる程の危機的状況に、普段の彼女からは考えられない結論に辿り着く。
「……どうせ足りないなら、別にいくらでも同じよね。あ、ミィナちゃんも好きなの頼んじゃって良いわよ」
 それまで心配そうにリーシャを見つめていた彼女が、えっ!? と困惑交じりに声を上げる。
「でもさっき、お金が足りないって……」
「あーうん、それなら大丈夫だから。さーて私は何を頼もうかしら」
 ふんふんっ♪ と鼻唄を歌いながらメニューに視線を走らせるリーシャの目元に、煌めく一粒の雫をミィナは見た気がした。

 流石に全ての料理に魔法道具を用いているわけではないようで、リーシャとミィナが注文を終えて、少し経ってから料理が運ばれてきた。それまでリーシャは心ここに在らずといった状態だったが、料理を一口食べるとあっと言う間に破顔した。
 やはり高価なだけあって味は良く、悲しいかなラトの言った通りだとリーシャは納得してしまった。暫く会話するのも忘れて、食べ物を口に運ぶ作業に没頭した。
 パンを頬張っていたラトが、唐突によく分からんことを口走る。
「あひふぁはほーふんは?」
「明日? うーん、取り敢えず町の集会場に行って、手ごろなクエストを見つけるしかないんじゃない?」
「リーシャさん、今のでよく分かりましたね……」
 言いつつリーシャとラトを交互に見るミィナの視線に籠っているのは、感心半分呆れ半分だ。確かに我ながら、ラトにも随分慣れてきたもんだと実感してしまう。
「まぁこれだけ一緒にいればね。……ミィナちゃんは明日どうするの? ここに来る途中、出稼ぎに来たって言ってたけど、良かったらミィナちゃんも集会場行ってみる? 私たちは町外でのクエストを主にやると思うけど、多分普通の求人募集もしてると思うし」
 尋ねたものの、今までのミィナの態度からして本当のことは言わないだろうと予想していて、案の定、ミィナの瞳が微かに揺らいだ。
「……集会場って、色んな人が集まってるんでしょうか?」
「うん、私たちみたいに仕事を求めてる人は勿論だけど、逆にクエスト依頼が目的の人もいると思うわよ」
 予期せぬ反問を少しばかり意外に思いながら首肯して答えた。スープを啜りながらミィナの反応を窺っていると、ミィナは考え込むように目を伏せて、そのまま小さく口を動かした。
「――お金持ちも?」
「え? あーうん、多分いるんじゃない?」
 何故そんなことを聞くのか、不思議に思ったリーシャだったが、敢えてそれに触れることはしなかった。
「そう……ですか……」
 呟いたミィナは依然目は伏せていたが、しかし何やら意を決したような眼差しを、テーブルの一点に向けていた。
 それきり会話が続かない。
 けれど傾きかけた空気を破ったのは、意外にも、横から聞こえたゲフッという下品な音だった。
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