真実の番は執愛の枷を破却する

オリーゼ

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街へ行こう

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 朝食とも夜食ともつかない食事を摂ってから再びベッドの中で二人のんびりと過ごした翌朝。
「調子がいい」
 昨日の食後、ゴーレムに命じて作らせておいたパンを食べながらアリスターはしみじみと呟いた。
 栄養をつけろと、マークがたっぷりとジャムとバターを塗って渡してきたトーストが美味しい。誰かと食べる暖かい食事の良さを思い出してしまえば栄養価があっても元の食事に戻れない。マークの手の入った食べ物ならば炭でも食べられそうな気がする。
 紅茶を手に上機嫌でくつろいでいると、アリスターの室内着を着たマークがおもむろに口を開いた。
「この後、街に行こうと思ってるんだけど」
「どうして?」
「飯の材料、いるだろ? それと、ここに逃げ込む前、兄ちゃんに助けてもらおうと思って騎士が集まる飲み屋にいったんだ。でも、会えなくてさ」
「ご兄弟がいるのか?」
 そういえば、彼の素性を聞いていない。
 知っているのは名前だけだ。
「うん。中央騎士団の騎士なんだ。困ったら赤頭巾亭に来いって言われてたから行ったんだけど、兄ちゃんに会える前にそこに来た騎士の一人がラットを起こしかけて」
「ラット? マーク、君は出会ったあの時まで発情してなかったろう?」
 アルファの発情はオメガの発情ありきだ。
「俺にもよく分かんない。発情はしてなかったよ。中央騎士団の人が他にもいたけどその人達は反応してなかったし」
 じりっとアリスターの中で魔力が暴れた。
 騎士団員は基本アルファだ。
 彼が他のアルファの目に晒されたというだけで心が落ち着かないのに、そのうち一人は彼に発情したかもしれないということが受け入れられない。
 乱れて暴れはじめた魔力を胎に収めてアリスターが呻くと、マークが心配そうに自分を覗きこんでいた。
「なんか急に顔が青ざめたけど、大丈夫? 食べすぎ?」
「キス、してくれないか?」
「え? なんで? まあいいけど」
 唇を指してねだるとけげんな顔をしたマークは、それでもそこにくちづけをくれた。
 発情状態だった昨日と違ってたどたどしく唇を重ねるだけのものだったから、アリスターはその桃色の柔らかな髪を漉きながら首を傾げ、無防備な口腔に己の舌を捩じ込んで、柔らかく甘い舌を貪った。
 それだけで昂る吐息と対照的に荒ぶっていた魔力が鎮まり、 アリスターは息をつく。
「俺も一緒に行く」
 唇を外してそう伝えると、マークの顔が輝いた。
「え、本当に? 行ってくれんの?」
「行くに決まってる。ずっと引きこもっていたから、足を引っ張るかもしれないが」
 それでもマークが一人で他のアルファの前に行くのは我慢できない。
「治安は問題ないけど、またあのアルファにあったらやだなって思ってたんだよね。それに、二人で街に行くのってデートじゃん! あこがれてたんだ!」
 マークのはしゃいだ様子が嬉しい。
 運命が嬉しそうにしているだけで憂いが晴れていく。
 だが、いそいそとクローゼットを開けたアリスターは途方にくれた。
 浮かれた気持ちが急激に萎んでいく。
 屋敷を建て直した時にオーダーした外出用の服はすべて成人の儀の前のサイズで作られていて、今の痩せ衰えた体型に合っていない。
 出かけることもなかったからすっかり忘れていた。
「外に行ける服がない」
「え? 今着てるので良くない?」
「これで外に??」
 今着ているのは部屋着のゆるいシャツとズボンだ。
 ひょいとクローゼットをのぞきこんだマークは首を振った。
「俺だってアリから借りたこの服で行くよ。今から行くの上町寄りだけど下町だからね。こんな上等な服着てったら目立ってしょうがない」
 気になるならジャケットだけ羽織っていけばと言われ、アリスターは普段着用に仕立てられた、ぶかぶかの上着を身につけた。
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