真実の番は執愛の枷を破却する

オリーゼ

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昼の赤頭巾亭にて

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「……つか、れた」
 荒く息をついたアリスターの背中をマークが労るようにさすってくれる。
「帰りは乗合馬車とかなにか考えよ。荷物もあるし」
 アリスターは今移動手段を持たない。
 乗り物を動かす使用人もおらず、転移陣も使えない。
 二人で歩けばたいした距離じゃないと軽く言ったマークに従って歩いたのだが、引きこもりにはたいした距離だった。
 それでもなんとか最初の目的地の赤頭巾亭に辿り着いて扉を潜ると、騎士学校の生徒達が楽しげに喋りながら遅めのランチを食べていた。
 視線が髪を目立たない色に変えた自分から流れてマークの上で惚けたように留まるのを感じ、アリスターはさりげなく彼らの視線を防ぐ位置に己の身を入れ替える。
 騎士学校の生徒もアルファだ。
 今はマークに向けられる穢らわしいその視線を魔力で黙らせることも出来なかった。
 出会ってから一日と少ししか経っていないのに、アルファとしての本質である魔力が封じられていることや、今の自分の有様に悔しさを覚えることばかりだ。
「あら、昨日の弟くん! あの時飛び出て行ったから、心配してたんだ」
「昨日はごめんなさい」
「いいのよ。エドの様子も明らかにおかしかったし。あなたが運命の番だったとか?」
「彼の運命は俺だ!」
 誰か他の人間が彼の運命と言われることに耐えられない。
 抱き寄せて忌々しい首輪の上からその頸にキスをすると、面食らった女将との間をマークが取り持った。
「あの後に番が見つかったんだ。俺の運命はこいつだけだから」
「あら、そうだったの?! ごめんなさいね。さ、二人とも座って。もう少ししたら騎士団の子達も来るはずよ。ヒューゴも昨日休みだったから今日は来るんじゃないかしら」
 昼時に来てくれたんだから何か食べて行って。ランチも自慢なの。と朗らかにソツなくフォローを入れた女将に入り口がよく見えるテーブルを勧められて、アリスターは眉を寄せたまま硬い椅子に座った。
「そんな難しい顔をしてないで、ランチ食べよ!」
 メニューを差し出したマークの手を握ると、へにゃりとその凛々しい眉毛が下がった。
「なんだよー。ほら、何がいい?」
「君が選んでくれるなら、なんでもいい」
「それだって何かあるだろ。肉とか魚とか」
 首を振るとマークは苦笑してメニューを開いた。
「おっ、ローストビーフあるじゃん。俺はこれにして……アリは食べやすい消化に良さそうなものがいいよね。女将さん、ローストビーフと煮込み一つづつ」
「はいよ。17リブラ80アスだ」
 女将に言われてアリスターは財布を取り出して金貨を出した。
「え?! ちょっと! こんな大きいのじゃ釣りが出せないよ!」
「……これが駄目だと小切手しかない。釣りはいらないから取っておいてくれ」
「馬鹿っ! それ一枚で10万リブラだ! 中央騎士団の給料の一年分以上だぞ!」
「代金は支払わないと。腹も空いているだろ?」
 手のひらをこちらに向けてアリスターを制し、マークは女将に申し訳なさげに頼む。
「おかみさん、ごめん。兄ちゃん来るの待たせてもらっていい?」
「そっちもヒューゴにつけとくよ。金の受け渡しは兄弟でやっとくれ」
「ありがとう! おかみさん!」
 青年の眩しさと自分の不甲斐なさに、アリスターはそっと目を伏せた。
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