真実の番は執愛の枷を破却する

オリーゼ

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辛かったんだよ

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 発情の熱を落ち着かせたアリスターはマークを部屋に連れて行くと豆だらけになっていた足をポーションで治し、シャワーを使わせ、ソファーに導いた。
「なにこれ?」 
 空腹を訴える彼にキッチンで用意してきたいつもの食事を出したところ、戸惑ったように尋ねられてアリスターは首を傾げた。
「食事だが?」
「石鹸とスライムと下痢便と錠剤に見えるんだけど?」
「少し味気ないが、栄養価は計算されている」
「す、すこし?! こんなん食事じゃない! 家畜のエサの方がまだマシだ。栄養が取れればいいってもんじゃない。アリ」
 悲鳴じみた声で諭されて、アリスターは戸惑い、肩を落とす。
「……それで充分じゃないか。今、この家にある食べ物はこれだけだ。腹が空いているんだろ?」
 腹を満たすには十分だ、という意図をこめてそれを勧めるが青年は悲しげに首を振る。
「それでそんなに痩せてるの? アリは貴族……というか、その髪の色は王族だよな。なのに、なんでこんな生活してるの? 使用人一人いないし、屋敷もあちこち埃まみれだ。男爵や子爵だってもう少しましな生活をしてる」
 マークは距離を縮め、柔らかな手でアリスターの骨の浮いた手を包み込んだ。
「俺はあんたのことをもっと知りたい」
 番にそう言われたら否はない。
 アリスターは両親や使用人のこと、魔封刻印の事を包み隠さず口に出した。
「……というわけで、今は使用人をこの屋敷に置かず、ヴィクトルに魔力を融通してもらって生活している」
 話終えて、アリスターはギョッとした。
 彼はその愛しい薔薇色の瞳から滂沱の涙を流して鼻水を啜り、嗚咽をこらえていた。
「どうして泣いてるんだ?」
「つらかったんだな……アリスター」
 頭を抱き寄せられて、その甘い匂いのする腕に包まれる。
「俺は、別に……つらくなんて……つらいなんて……ただ、両親にもうしわけなくて……」
 混乱しながら今思っている事を口に出していくうちに声に嗚咽が交じり、瞳から熱いものがこぼれ落ちてマークの胸元を湿らせる。
「それがつらいって言うんだ。アリ」 
 幼子がそうされるように何度も頭を撫でられてぼさぼさ髪を漉かれ、アリスターは自分の渇ききひび割れていた心が暖かく満たされるのを感じた。
「とりあえずこの餌を食べて少し休もう。腹が空いてると余計辛くなるし」
 自分が落ち着いたのを見計らってマークはからりと言って、彼のいうスライムをすくって口に運んだ。
「なんだこりゃ。すごい……なんで言ったら良いんだ? ああ、虚無だ。俺は虚無を食わされている」
「ごめん……すぐになにか手配する」
「いや、いいって。事情があるのにごめん。腹が膨れたらとりあえず休んでその後に二人で考えよう。俺も疲れてるし、アリも眠れていないみたいだし」
 と思いやりをみせたマークだったが、口に運んだ食事についてはユーモアに満ちた毒を吐いた。
「こっちは埃の塊。このクソは見た目よりはマシな味だけど見た目だけでクソ喰らえだ。錠剤はまだマシ。水で飲み込める」
 普段、食べきれていなかったそれらも、マークの言葉に笑いながらの賑やかな食事によって完食することが出来た。
その後、寝台の惨状も叱られて、マークの指導でベッドシーツを二人で協力して引きなおし、掛け布団もしっかりとかけて、頭を抱きしめられて眠った。
 珍しくすぐに深い眠りに落ちて、あの悪夢を見ることなく眠れ、スッキリとした目覚めを迎えることが出来た。
 不思議なことに、起きた後も彼と出会うまで苛まれていた不愉快で不自然な躰の昂りはなりを潜め、成人の儀の前に近い体調に戻っていた。
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