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魔術
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「ねえ、マルク。あなた今日変な夢を見なかった?」
「夢ですか?」
「そう、変な夢。ヒゲのお爺さんが出てくる変な夢」
お嬢様の言葉に指が止まります。ありますね。心当たりがとっても。でも、どうしてお嬢様が僕の見た夢のことを知っているのでしょう。
「あるみたいね。どんな夢だったか教えて」
教えない理由はありませんし、どうして僕がお嬢様のお願いを断れるでしょう。事細かにお伝えします。と言っても、僕にはお爺さんが何を言っていたのか最後の一言以外全くわからなかったのですから、ほとんど何も伝えられないのと同じようなものなのですが。
「あら、マルクには聞き取れなかったのね。どうしてかしら。ひょっとするとあなたの生まれに関係しているのかもしれないわね」
生まれ、つまり僕が転生者だと言う事です。そのあたりの事情をお嬢様は承知しています。そもそも、僕がお嬢様に拾われるきっかけとなったのが、僕が口走った向こうの事柄にお嬢様が興味を持ったからなのですから。どうやら昔からそういう人たちがたびたび現れるらしく塔にはそんな人たちの言動も記録されていたそうです。そんな記録を目にしていたお嬢様が、何を言っていたか僕は忘れてしまいましたがよく分からないまま向こうの知識を口走っていた身寄りのない僕を見つけ嬉々として家に連れ帰ったそうです。あの時のお嬢様のおじいさま、つまりご当主様のなんとも言えない表情は忘れられそうにありません。
「そうでしょうか」
僕としては覚えていることも少なくなっているので自分が転生者だと言う事も忘れているときもあるんですが。
「可能性は否定できないわね。魔術はあくまでこの世界に根差したものにしか作用しないもの。あなたの魂は馴染んだとはいえきっとまだ別の世界のものなのよ。そういうのは直接質問すればよいから、また今度にしましょうか」
ん?
「それじゃ、何か渡されなかった? 手紙とか石とか石とか」
石が多いですお嬢様。それじゃ石を受け取っていないとおかしいって言っているようなものじゃないですか。確かに石を貰ってますけれども。
「これくらいの白い石を貰いました」
にっこり笑うお嬢様、可愛いです。
「これよね」
シーツの中から取り出される見覚えのある小石が出てきました。
「そうです。でも、どうしてお嬢様がお持ちなんですか。僕部屋に置いてきたのに」
「簡単よ。私も同じ夢を見たの」
えっと、それはどういう意味なのでしょうか。
「聞こえていなかったならわからないわよねぇ。あの夢は、ウィルクヴィスト魔法学院の入学許可を伝えるもので、この石はその許可証なのよ」
「魔法学院ってあの魔法学院ですか」
世界には少なからず魔法使いと呼ばれる人たちがいます。彼らが魔術を学ぶのが魔法学院だと言われます。ですが、誰もその場所を知りませんし、魔法使いたちもその場所を明かそうとしません。ですので、魔法使いになるものはある時になると魔法学院に攫われるのだとか、使い魔の鳥が入学許可書を届けるのだ、など風説出鱈目は枚挙につきません。ただ一つだけ入学を断ると殺されるのだという点だけは共通していますが。
「そう! あの魔法学院。実在するのは知っていたけれど、実際に誘われるとは思わなかったからびっくりしたわ。これでどんな場所なのか直接見ることが出来る訳だけど、楽しみね」
「お嬢様!」
思わずお嬢様の言葉を遮ります。
「申し訳ありません。ですが、一度整理をさせてください」
「いいわよ」
「僕とお嬢様は同じ夢を見て、白い小石を渡されました。それは魔法学院の入学許可証です」
「そうね」
「魔法学院は実在して、僕と、お嬢様はそこに入学しないと死んでしまうかもしれませんと」
「そうよ、入学するのが楽しみね」
「楽しみね、じゃないです。そんな得体のしれないところに行くなんて危険すぎます。そもそもお嬢様は塔主なんですよ。お嬢様がいなくなったら自治区が成り立たなくなります。メイドとしてどちらの意味でも反対させていただきます」
無礼に当たるのは承知していますが、それでも主人を止めなくてはならないと確信した時には譲るわけにはいきません。
「得体が知れなくはないわよ。知らなかったかしら。おじいさまここの卒業生よ」
「ええっ???」
「卒業後も色々規則があって学校のことは詳しく話せないなんて言ってどんなところかは教えてもらえなかったけど。信じられないなら聞いてみればいいわ。卒業生なのですか、って。ほら、少なくとも得体のしれない場所、ではないわよ」
確かのご当主様は、物に明かりを付与したり、軽い物であれば引き寄せたりと簡単な魔術をお使いにはなられますが、それを魔法学校で学んだものとは思いませんでした。魔術というものはその気になれば比較的簡単に誰でも学ぶことが出来ます。実際に使えるようになるかどうかは本人の素質次第と言いますが。
ですが、だからと言って塔主の責務を放り出してしまうわけにはいかないでしょう。
「マルク、忘れてるのかもしれないけど、これ、入学許可とはいうけれど、拒否すれば死というペナルティが課せられる入学強制よ」
「出鱈目ではないのですか」
そんな危険な学校に好き好んで入る人がいるとも思えないのですが。
「どうかしら。マルクみたいに捻くれた人がやっぱりいるみたいだけど、大体行方不明になっているみたい」
ほんのり赤い唇を楽しげにほころばせてお嬢様は怖いことを言います。それ、僕行方不明になるの決定ですか?
「そうねぇ、私もマルクがいなくなるのは嫌ね」
だから一緒に入学しましょう。と艶やかにお嬢様は笑います。こうなればそれも吝かではありませんが。
「塔主の責務を何とかしませんと」
自治区の存続にかかわる問題です。お嬢様1人で決定できることでもありません。いえ、個人的な意見を言わせていただくならば、お嬢様の年頃の女の子がこんな権謀術数渦巻きかねない権力の傍にいること自体異常で普通に学校に通えるならば通っていただきたいですけれど。
「その辺は幾つか腹案があるけど、おじいさまと相談しましょ。だからまずは、腹ごしらえね。マルクお願いね」
「はい、お嬢様。ただいまお持ちします」
そうですね、腹が減っては戦は出来ぬと申しますし。
そして、僕はワゴンを何とか部屋へ入れ準備を始めました。
「夢ですか?」
「そう、変な夢。ヒゲのお爺さんが出てくる変な夢」
お嬢様の言葉に指が止まります。ありますね。心当たりがとっても。でも、どうしてお嬢様が僕の見た夢のことを知っているのでしょう。
「あるみたいね。どんな夢だったか教えて」
教えない理由はありませんし、どうして僕がお嬢様のお願いを断れるでしょう。事細かにお伝えします。と言っても、僕にはお爺さんが何を言っていたのか最後の一言以外全くわからなかったのですから、ほとんど何も伝えられないのと同じようなものなのですが。
「あら、マルクには聞き取れなかったのね。どうしてかしら。ひょっとするとあなたの生まれに関係しているのかもしれないわね」
生まれ、つまり僕が転生者だと言う事です。そのあたりの事情をお嬢様は承知しています。そもそも、僕がお嬢様に拾われるきっかけとなったのが、僕が口走った向こうの事柄にお嬢様が興味を持ったからなのですから。どうやら昔からそういう人たちがたびたび現れるらしく塔にはそんな人たちの言動も記録されていたそうです。そんな記録を目にしていたお嬢様が、何を言っていたか僕は忘れてしまいましたがよく分からないまま向こうの知識を口走っていた身寄りのない僕を見つけ嬉々として家に連れ帰ったそうです。あの時のお嬢様のおじいさま、つまりご当主様のなんとも言えない表情は忘れられそうにありません。
「そうでしょうか」
僕としては覚えていることも少なくなっているので自分が転生者だと言う事も忘れているときもあるんですが。
「可能性は否定できないわね。魔術はあくまでこの世界に根差したものにしか作用しないもの。あなたの魂は馴染んだとはいえきっとまだ別の世界のものなのよ。そういうのは直接質問すればよいから、また今度にしましょうか」
ん?
「それじゃ、何か渡されなかった? 手紙とか石とか石とか」
石が多いですお嬢様。それじゃ石を受け取っていないとおかしいって言っているようなものじゃないですか。確かに石を貰ってますけれども。
「これくらいの白い石を貰いました」
にっこり笑うお嬢様、可愛いです。
「これよね」
シーツの中から取り出される見覚えのある小石が出てきました。
「そうです。でも、どうしてお嬢様がお持ちなんですか。僕部屋に置いてきたのに」
「簡単よ。私も同じ夢を見たの」
えっと、それはどういう意味なのでしょうか。
「聞こえていなかったならわからないわよねぇ。あの夢は、ウィルクヴィスト魔法学院の入学許可を伝えるもので、この石はその許可証なのよ」
「魔法学院ってあの魔法学院ですか」
世界には少なからず魔法使いと呼ばれる人たちがいます。彼らが魔術を学ぶのが魔法学院だと言われます。ですが、誰もその場所を知りませんし、魔法使いたちもその場所を明かそうとしません。ですので、魔法使いになるものはある時になると魔法学院に攫われるのだとか、使い魔の鳥が入学許可書を届けるのだ、など風説出鱈目は枚挙につきません。ただ一つだけ入学を断ると殺されるのだという点だけは共通していますが。
「そう! あの魔法学院。実在するのは知っていたけれど、実際に誘われるとは思わなかったからびっくりしたわ。これでどんな場所なのか直接見ることが出来る訳だけど、楽しみね」
「お嬢様!」
思わずお嬢様の言葉を遮ります。
「申し訳ありません。ですが、一度整理をさせてください」
「いいわよ」
「僕とお嬢様は同じ夢を見て、白い小石を渡されました。それは魔法学院の入学許可証です」
「そうね」
「魔法学院は実在して、僕と、お嬢様はそこに入学しないと死んでしまうかもしれませんと」
「そうよ、入学するのが楽しみね」
「楽しみね、じゃないです。そんな得体のしれないところに行くなんて危険すぎます。そもそもお嬢様は塔主なんですよ。お嬢様がいなくなったら自治区が成り立たなくなります。メイドとしてどちらの意味でも反対させていただきます」
無礼に当たるのは承知していますが、それでも主人を止めなくてはならないと確信した時には譲るわけにはいきません。
「得体が知れなくはないわよ。知らなかったかしら。おじいさまここの卒業生よ」
「ええっ???」
「卒業後も色々規則があって学校のことは詳しく話せないなんて言ってどんなところかは教えてもらえなかったけど。信じられないなら聞いてみればいいわ。卒業生なのですか、って。ほら、少なくとも得体のしれない場所、ではないわよ」
確かのご当主様は、物に明かりを付与したり、軽い物であれば引き寄せたりと簡単な魔術をお使いにはなられますが、それを魔法学校で学んだものとは思いませんでした。魔術というものはその気になれば比較的簡単に誰でも学ぶことが出来ます。実際に使えるようになるかどうかは本人の素質次第と言いますが。
ですが、だからと言って塔主の責務を放り出してしまうわけにはいかないでしょう。
「マルク、忘れてるのかもしれないけど、これ、入学許可とはいうけれど、拒否すれば死というペナルティが課せられる入学強制よ」
「出鱈目ではないのですか」
そんな危険な学校に好き好んで入る人がいるとも思えないのですが。
「どうかしら。マルクみたいに捻くれた人がやっぱりいるみたいだけど、大体行方不明になっているみたい」
ほんのり赤い唇を楽しげにほころばせてお嬢様は怖いことを言います。それ、僕行方不明になるの決定ですか?
「そうねぇ、私もマルクがいなくなるのは嫌ね」
だから一緒に入学しましょう。と艶やかにお嬢様は笑います。こうなればそれも吝かではありませんが。
「塔主の責務を何とかしませんと」
自治区の存続にかかわる問題です。お嬢様1人で決定できることでもありません。いえ、個人的な意見を言わせていただくならば、お嬢様の年頃の女の子がこんな権謀術数渦巻きかねない権力の傍にいること自体異常で普通に学校に通えるならば通っていただきたいですけれど。
「その辺は幾つか腹案があるけど、おじいさまと相談しましょ。だからまずは、腹ごしらえね。マルクお願いね」
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