幻想マジックオーケストラ

科虎はじめ

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第四話

真面目にやれよ

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 ワァンとハイドがローに追いついたのはその日の夜だった。
 隣町の宿の酒場でローは酒をあおっていた。
 二人の姿を認めるなり、怪訝そうに顔を背ける。
 「なんの用だ」
 「少し話を聞け」
 「今さらあんたと話すことなんてない。ここはマントルじゃないし、あんたはおれを追い出した」
 ワァンは深くため息をつく。
 「そのマントルが堕ちた」
 ローは運びかけたグラスを口で止める。
 「なに言ってる」
 「マントルが攻撃されたんだ」
 「誰に」
 ローはグラスを置いた。
 「誰じゃない。うずだ。黒い、闇のうず。そう表現するしかない。うずは向かう先すべての物体を消して行った。飲み込む度に膨れてやがてあの広大なマントルそのものを消した。生き逃れたのはわたしとハイドだけだ」
 「嘘だろ、冗談だろ」
 「そうならこうして探したりはしない」
 「そんなの初めて聞いたぞ」
 ローの表情は硬く緩む気配はない。
 「国にはすべてを伝えたつもりだ。マントルの座標も調べたはずだ。だがどういうわけか世間には公表していない。わたしたちもこうして回っているうちに気づいた。おまえが知らないのも理解できる」
 「罪人たちは。あいつらもひとり残らず」
 「そうだ」
 「見捨てたのか」
 「そう言われるなら認めるしかない。だが誓ってそうしたつもりはない。どうすることも出来なかった」
 「クラストは。あいつならなんとか出来たはずだ」
 「ああ。わたしたちは彼に救われた」
 「奴は」
 「わからない」
 「そんなバカな」
 「あいつの助言もあってこうしておまえたちを探しに来た。もっともそうしてるのはわたしたちだけじゃないようだがな」
 ワァンは窓の外を見る。
 王政の遣いが闇に身を潜めていた。
 ローはまだ受け入れられない様子だった。
 するとなにかを感じとる。
 「どうかしたのか」
 「なんだ。なにか来るぞ」
 外で悲鳴がした。
 ローは急いで表へ出る。
 通りは逃げ惑う者が乱れていた。
 先を見る。四肢を八本這わせた巨大な化物が街を破壊しながらこちらに向かっていた。
 ハイドは血の気が引いた。
 「おいワァン。おまえたち一体なにに顔突っ込んだ」
 「虫(バグ)だ」
 ワァンは呆然となる。
 なんだかうずと対峙したときと似ていた。
 「あれは地上で産まれたものじゃねえ」
 ローは言った。
 「じゃあなんだ」
 「さっき聞いたうずと関係があるかもな」
 無言で王政の遣いたちは陣形を組む。
 追尾という目的から市民を守るというそれに変えたようだ。  
 ライフルを構える。
 発砲する。命中するが硬い甲殻に弾かれた。
 バグは長い腕をいなす。
 遣いのひとりが飛ばされた。
 伸びた腕が地面につく度に揺れた。
 奇声とともに衝撃波を放つ。
 建物の窓が一斉に割れる。
 「どうなってる。おれたちと似た力だ」
 ローは訝る。
 残り王政の遣いも立ち向かうが全身を切り刻まれてしまった。
 「まずいな。逃げよう」
 ローは口走る。
 「は」
 ワァンとハイドは思わず首をかしげる。
 「真面目にやれよ。あんたあの幻想マジックオーケストラのリーダーだろ。あんなのぐらいとっとと片付けてくれよ」
 「片づけるっておれがか」
 「そうだよ。他にいるかよ」
 「あれ、言ってなかったっけ。おれってめちゃくちゃ弱いんだよ」
 「すまん。聞こえなかった。もう一回言ってくれる」
 「だからおれ自身は弱いんだって」
 「意味がわからん」
 「おれはあいつらの誰でもひとりいてくれないと力を使えない」
 「オーケストラの一員なんだからやれるだろ」
 「オーケストラの中でもおれは指揮者だ。誰かを指揮することで初めて力が使える」
 そのとき、バグの四肢が三人めがけて振り下ろされた。
 なんとかかわして避けた。
 「ロー」
 「ローさん」
 「動けるか小僧」
 ローはハイドに尋ねる。
 「な、なんとか大丈夫です」
 「そうじゃねえよ。戦えるかって聞いたんだ」
 ローはハイドに迫った。
 「もしかしてわたしを使う気ですか」
 「間に合わせだけど仕方ない。武器もないよりはましだ」
 「勘弁してくださいよ」
 「うるせえ。やるぞ」
 ローはタクトを引き抜いた。
 辺りの空気が絞まる。まるですべてがタクトに支配されているようであった。
 「準備はいいか小僧」
 「はい」
 「よし。そんじゃ、久しぶりの開演といこうか。組曲、業火の騎士」
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