幻想マジックオーケストラ

科虎はじめ

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第三話

最弱天才指揮者

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 ローが訪れる町はこれで五十を数えた。
 気ままにボードに乗って滑るだけ流れてきた。
 腹が減ればその土地の名産を食べ、町並みや季節に応じた景観の移り変わりを楽しんだ。
 道中、誰かが自分の後をつけているのに気づいた。
 どう見ても王国の息がかった者たちだった。 
 逃げるのは得意だ。その度に巻いた。
 ローはボードに飛び乗り加速した。
 タクトは使いたくなかった。
 振るえば能力者であるのが周囲にわかってしまう。 
 もっとも連中の狙いがそれなのは十分承知のことだった。 
 「ロー」
 そう呼び止められて振り替える。
 体格のいい男と、ひ弱そうな若造。
 はて、誰だったか。
 でかい方はどこかで見たような。
 っていうか。
 「あー」
 ローは大声を上げた。
 「ワァンだな。なんでこんなところに」
 「そうだおれだ。やっと見つけたぞ。こんなところふらつきやがって」
 「テメー、どの面下げておれさまの前に現れやがった」
 ローはワァンに乗り掛かり脳天に手刀を何度も振り下ろした。
 「よすだロー、少し話を聞け」
 「あんとき話も聞こうとしなかった奴にとやかく言われる筋合いねえんだよ、この頑固じじいが。こき使うだけ使いやがって、用が済んだら追い出しやがって。テメーへの恨みは墓場まで持ち込むからな」
 ワァンはローを振り払う。
 「ワァンさん。本当に彼が」
 「ああ、そうだ。幻想マジックオーケストラの指揮者にしてリーダーのヴァンクリーフ・ローだ。一番厄介な」
 「誰が厄介だってんだくそじじい」
 またローが噛みつく。
 辺りに野次馬のたかりが出来る。
 なにかを感じたのか、目を尖らせる。
 「ありゃやっぱりしつこいね」
 視線の先には三人の男。
 緑を基調とした制服だ。
 ワァンにも一目見てそれが誰なのかわかる。
 「王政の遣いか」
 「知らねえよ。マントルからテメーに追い出されてからずっとあんな調子だってんだ」
 「どういうことだ」
 「だーかーら知らねえって。おれが知りてえよ」
 「異星の調査はどうなった」
 「知らねえよ。なんでそんなもんに付き合わなきゃいけないんだよ」
 「原因はそれだな。おまえたちが王政に協力しないからだ。まさか追手を始末したりしてないだろうな」
 「んなことこのおれがするかよ。他の連中はどうだかわからないけどな。血の気の多いのが結構いるからな。もしかしたら多少はしばいてるかも」
 「まったく」
 ワァンは眉間をつまむ。
 「悪いけどおれはずらかるぜ。あんなのと関わりたくないからな」
 「ちょっと待てロー。話が終わってない」
 ローは深く息を吐いたかと思うとゆっくり吸い込んだ。
 なにをする気だ。
 ハイドは生唾を飲んだ。
 途端にローはボードに飛び乗り逃げ出した。
 それだけかよ。

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