陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 それまでに栄助は鉄砲を構え終えていた。
 相手の歩く速度に合わせて上手く呼吸もととのえる。
 身なりからして一等上等な人物、それが藩主に違いなかった。
 栄助は相手が進む速さを考慮にいれて銃口を動かす。
 やがて、すべての“焦点”が合った。
 刹那、引金を絞っていた。銃声が轟く。それに合わせて仲間たちも鉄砲を撃った。
 着弾、見事に栄助の玉は大名の胸を貫いていた。距離があるため頭は狙わない。
 他方、お菊以外の三人の銃丸はあさっての方向に飛んで行き、誰にも当たらなかった。
 唯一、お菊だけが藩主の側に侍っていた武士のひとりを撃ち抜いた。
 が、ここで予想外のことが起こった。
 栄助が家臣と思っていた人物が即座に指揮を執り始めたのだ。屈みながらも采配をふるう。
 これは――まずい、と栄助は思いながら早合を使って次弾の装弾を手早く済ませる。
 熟練した手つきで数を二十といくつか数える間にすませた。
 ここは森の中――発射炎と煙は木々と薄暗さに隠れたはずだ。胸が緊張で高まるのを感じながらふたたび狙いを定めた。
 相手が屈んだせいで狙いがつけづらい。
 だが、撃つ――前金も受け取っているのだ、後戻りできなかった。
 発砲、ふたたび人影が倒れた。
 見事、栄助はくだんの相手の胸を撃ち抜いている。
 まだ、追手がかかる気配はない。
 次の瞬間、栄助は森の中を駆け始める。標的の死は確認した。ぼやぼやしていると追手に捕まる。
 だが、一町ほどを走ったところで足を止めることになった。
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