64 / 137
64
しおりを挟む
悲鳴、が聞こえたのだ。前方、木立の間に影が蠢いた。
前へと慎重な足取りで歩き、何が起こっているかを把握する。お菊が犬に襲われていた。特殊な修練を積んだ犬なのだろう、二匹が両腕に、もう一匹が首に噛みついていた。
どうせ間に合わない――そう思うが、それでもどうにかならないか自然と思案する。
念のために鉄砲への銃弾、玉薬の装填は済ませてある。
が、一度に狙える獲物は一匹だ。撃った瞬間、今度は栄助が二匹の犬に襲われるだろう。
そんなふうに考えながらも、栄助は立ち放しの姿勢で鉄砲を構えていた。
鉄砲で殺せない分は猪助に買い与えられた長脇差で始末するしかない。慣れない得物でどこまでやれるか不安だった。
お菊が苦し紛れに動くせいで狙いがつけにくい。
それでもやっと照準を合わせた。発砲、首に喰らいつく一匹の首を撃ち抜いた。
一瞬、静寂が落ちた。異常事態にお菊と犬が当惑したのだ。
だが、事態を把握すれば早かった。犬二匹がお菊を放し、栄助に向かって疾駆してきたのだ。
鉄砲を負い紐で体に襷がけにすると、
「来い」
自分を叱咤する意味もあって栄助は怒鳴った。手には長脇差を抜いて握る。
しかし、自分でも緊張で柄の握りがめちゃくちゃなのが分かった。
くそう――栄助は間近に迫った犬を睨んだ。
刹那、一匹が片目に三寸ほどの長さの棒のようなものを受け姿勢を崩して転がった。
もう一匹が栄助に跳躍する。牙を剥いた犬が宙で棒を片目に生えさせた。
「大事はないか、栄助」
背後から伊平治が現れる。
「あ、ああ、俺は大丈夫だ」
が、お菊はどうか。
伊平治が彼女のほうに歩いて行くのについていく。
近づくと彼女が致命的な傷を受けていることが明らかになった。地面に横たわった彼女の首元が真っ赤に濡れている。
前へと慎重な足取りで歩き、何が起こっているかを把握する。お菊が犬に襲われていた。特殊な修練を積んだ犬なのだろう、二匹が両腕に、もう一匹が首に噛みついていた。
どうせ間に合わない――そう思うが、それでもどうにかならないか自然と思案する。
念のために鉄砲への銃弾、玉薬の装填は済ませてある。
が、一度に狙える獲物は一匹だ。撃った瞬間、今度は栄助が二匹の犬に襲われるだろう。
そんなふうに考えながらも、栄助は立ち放しの姿勢で鉄砲を構えていた。
鉄砲で殺せない分は猪助に買い与えられた長脇差で始末するしかない。慣れない得物でどこまでやれるか不安だった。
お菊が苦し紛れに動くせいで狙いがつけにくい。
それでもやっと照準を合わせた。発砲、首に喰らいつく一匹の首を撃ち抜いた。
一瞬、静寂が落ちた。異常事態にお菊と犬が当惑したのだ。
だが、事態を把握すれば早かった。犬二匹がお菊を放し、栄助に向かって疾駆してきたのだ。
鉄砲を負い紐で体に襷がけにすると、
「来い」
自分を叱咤する意味もあって栄助は怒鳴った。手には長脇差を抜いて握る。
しかし、自分でも緊張で柄の握りがめちゃくちゃなのが分かった。
くそう――栄助は間近に迫った犬を睨んだ。
刹那、一匹が片目に三寸ほどの長さの棒のようなものを受け姿勢を崩して転がった。
もう一匹が栄助に跳躍する。牙を剥いた犬が宙で棒を片目に生えさせた。
「大事はないか、栄助」
背後から伊平治が現れる。
「あ、ああ、俺は大丈夫だ」
が、お菊はどうか。
伊平治が彼女のほうに歩いて行くのについていく。
近づくと彼女が致命的な傷を受けていることが明らかになった。地面に横たわった彼女の首元が真っ赤に濡れている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。
貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや……
脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。
齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された——
※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる