直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「貴様ら、笑うでない!」
 保知が雷を落とすがその効果は薄い。
 なんとか憤りを顔にあらわそうとしているが、紅孩児の言葉への戸惑いが色濃く見受けられた。
 子息のいない彼は、元服を迎えてもおかしくない歳とはいえまだ子供である紅孩児に対し自分の子のような感情をいだいているらしく、顔をあわせるたびに城下であがなってきた飴だの干し魚だのを与えている。そのお陰で、紅孩児も「爺ちゃん」「爺ちゃん」といってなついていた。
 ――やがて、気を取り直したのか、おほん、とひとつ咳払いをして保知が口を開く。
「『武士道とは死に狂い也(なり)』」
「死に狂い?」と剣呑な言葉に三蔵が眉をひそめた。
「さよう、これは鍋島殿の言葉で、武士道とは死に物狂いそのものである。死に物狂いになっておる武士は、ただの一人であっても、幾十人が寄ってたかってでさえ、これを撃ち殺すのは難しい、という心得を示したものだ」
 保知が言葉を重ね、詳細を明かす。
 彼が口にした『鍋島殿』とは鍋島直茂(なべしまなおしげ)――鍋島信生のことだ。彼は『龍造寺の仁王門』として、君主と並び称される忠臣だった。
(武士道とは死に狂い也(なり)、か……)
 その言葉は、武士道とは無縁で育ったはずの三蔵の心の奥底にまでなぜか響く。

 そんな彼を、三蔵や保知たちの輪からややはずれた位置にいる大部安兵衛がどこか憂悶を感じさせる顔つきで見つめていた――
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